軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21話 二人の王子

レナリアの嫌な予感は的中した。

「従妹殿。この後、もし良ければ一緒に昼食をどうかな」

帰りの挨拶が終わった後、レナリアはすぐに寮へ戻ろうとしたのだが、セシル王子に声をかけられてしまった。

教室中がシンとして二人に注目してしまう。

「ええと……。申し訳ございませんが、私用がございまして……」

苦しい言い訳だと思いながらも、表面上は笑顔を浮かべて返事をすると、セシル王子は誰もが見とれるような微笑みを浮かべてレナリアに手を差し出す。

「少しだけでも来て欲しいな。実は、兄上も従妹殿に挨拶をしたいと使いを寄こしてきてね。兄上はあまり気の長い方ではないから、待ちきれなくて寮に押しかけてしまうかもしれない」

セシル王子の兄といえば、この学園の五年生に在籍しているレオナルド王太子だ。

王家とシェリダン侯爵家の仲はあまり良いとは言えないし、レオナルド王子は来年には卒業してしまうのだから、それほど接点はないだろうと軽く考えていた。

なのにセシル王子は遠回しに、断ったら王太子が直々に誘いにくるぞと言っている。

セシル王子が声をかけてきたせいで、ただでさえクラスで目立ってしまっているというのに、学年の違う王太子がわざわざ一年生の校舎までやってきたら、それこそ大騒ぎになってしまうだろう。

「もちろん、従妹殿だけではなく兄のアーサーも呼んでいるから、気兼ねしないでほしい」

心の底から断りたいが、兄までも巻きこんでいるならば従うしかない。

「まあ。羨ましいわ。私もぜひ殿下とご一緒させて頂きたいものです」

セシル王子と同じウンディーネを守護に持つロウィーナ・メルヴィスは、自分のはかなげに見える外見をよく知っているのか、胸の前で手を組んで潤んだような水色の瞳でセシル王子を見上げる。

「あら。それなら私も」

一歩進んだのはサラマンダーを守護に持つマグダレーナ・オルティスだ。まだ十歳だというのに、既に大人の女性の雰囲気を持っていた。

ロウィーナもマグダレーナも、爵位は伯爵家と同格だ。

おそらく二人とも、王族と縁を繋ぎたいと思っているのだろう。

なかなかに積極的だ。

「申し訳ないが、今日は親族だけでゆっくりしたいと考えているんだ」

「ではまたの機会に、ぜひともお誘いください」

「私もお誘いくださいませ」

「考えておこう」

すぐにお辞儀をして下がったマグダレーナに一拍遅れてロウィーナが頭を下げる。

「では従妹殿。しばらくお付き合いを」

「分かりましたわ」

レナリアは仕方なく、セシル王子の手を取った。

その、重ねられた手に、ドキリとした。

優美な王子の姿とは裏腹に、重なる手の平は固い剣ダコで覆われている。

セシル王子は魔法よりも剣の方が得意なのかもしれない。

教室を出ると、スッとクラウスがレナリアの後ろについた。

セシル王子にも護衛が二人ついている。

レナリアはそっとセシル王子の横顔を盗み見る。

こうして近くで見ても、やはりセシル王子はマリウス王子にそっくりだ。

だがマリウス王子はその派手な美貌とは裏腹に、穏やかで心の優しい人だったから、性格の方は全然似ていないように思う。

聖女の役目を終えるまで、聖女たちには個別の名前がなく、ただ「聖女」とのみ呼ばれる。

マリウス王子はいつも、名前を持たない前世のレナリアに「私の聖女」と呼びかけた。

そして戦場しか知らなかったレナリアに、心が震えるような綺麗な歌を、ふくよかに香る美しい花を、たくさんたくさん教えてくれた。

そして、誰かを大切に思う心も。

「私の聖女。どうしてあなたたちだけが、人々の苦しみを背負わなければいけないんだろう」

「仕方がありませんわ。助けられる命があれば助けるのが、私たちの仕事ですもの」

「その代わりに聖女の命を削るなど、間違っている」

「マリウス様。そのような事をおっしゃってはいけません。教会に聞かれたら、大変な事になります」

レナリアの前世である千年前は、教会の力は今よりももっと強く、王と並ぶ程の力を持っていた。

だから教会を批判する言葉など、誰も口にする事ができなかった。

「助けるといっても、王侯貴族だけだ」

聖女の命と引き換えに回復するのだから、治癒魔法を受けられるのは身分の高い者だけだ。

「術者の命を削らなくても魔法を使えれば良いのだが……」

実はマリウス王子は、命を削らなくても使える魔法を研究していた。

マリウス王子自身も魔法の素養があったが、決して使ってはいけないと言われていた。

確かに魔法を使うと寿命を減らしてしまうのだから仕方がない。

だが教会の言うように、魔法が神に与えられた力だというならば、その対価に命を必要とするだろうか。

その疑問はレナリアと一緒にいるようになって更に大きくなった。

「いつか絶対に、命を対価としない方法を見つけてみせる」

そう言っていたマリウス王子が精霊たちの存在を知ったら何と言うだろうか。

やっぱり私の考えは間違っていなかったということだろうか。

「私の聖女」

セシル王子よりも少し低いマリウス王子の声を思い出して、レナリアはそっと目を伏せた。