軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22話 王太子殿下は我が道をいく

レナリアが案内されたのは、食堂の二階にある王族専用の個室だ。個室には専用の厨房が隣接しており、王宮から派遣されている料理人によって造られた暖かい料理が、すぐ食べられるようになっている。

大きな窓には、開発されたばかりの特殊なガラスがはめられていて、外からの視線を気にせずに食事を楽しめた。

窓の下は基礎教育を終えて騎士専攻に進んだ生徒の為の鍛錬場となっていて、昼食の後はそこで汗を流す生徒も多い。

特に貴族といえども家督を継ぐ見こみのない次男や三男にとっては、王族や高位貴族に召し抱えてもらおうとアピールをする場でもある。

レナリアが窓の下を見ると、既に昼食を終えた生徒たちが鍛錬を始めていた。

さすがに上級生らしく、体つきがしっかりしている者が多い。

「気に入った騎士の卵はいるかな?」

横に立つセシル王子が、愉快そうな光をはらんだタンザナイトの瞳でレナリアを見る。

「私にはクラウスがおりますので……」

レナリアがちらりと部屋の隅に控えている自分の護衛騎士に目をやると、バッチリと目が合った。

表情は全く動いていないが、「当たり前だろう。あんなひよっこどもと一緒にするな」と言っているような気がする。

いや、確実にそう言っているだろう。

小さな頃からずっと一緒にいるクラウスの事だから、分かる。

それに前世で戦いの場にいたレナリアには分かる。

クラウスは強い。

守護精霊を得るほどではなかったが、わずかに魔力を持つクラウスは身体強化が得意だ。

これは千年前にもあったが、命を削るほどの魔力は使わない。

どうやら千年の間に、魔法は弱くなってしまったが、剣技の方は発達していったのだろう。

「ふむ。貴族令嬢の中には見目の良い者を学園で護衛騎士として選ぶのが流行っていると聞いたが、従妹殿は興味がないようだ」

「護衛騎士に顔など関係ありまして?」

「常に側に控えているのだ。醜いよりも美しい方がいいだろう」

「美しさよりも腕と忠誠を選びますわ。命を預けるのですもの」

いかにも貴族らしい会話を交わしながら、レナリアは疲れていった。

ただでさえセシル王子はマリウス王子とそっくりで、それだけでも身構えてしまうというのに、色んな事をほのめかした会話を続けるのは辛い。

「セシル。従妹殿が気になるのは分かるが、その態度はいけないよ」

背後からかかった声に慌てて振り向くと、そこにはセシル王子と同じ、ロイヤルブルーの髪に紫がかったタンザナイトの瞳を持つ生徒が立っていた。

セシル王子のような絶世の美形ではないが、王族らしくその顔立ちは整っている。制服の上からも分かる体はしっかりと鍛えられており、背が高く威風堂々としている。

レオナルド王太子だ。

レナリアは慌ててスカートの裾をつまんで頭を下げる。

「私はそんな……」

頭を下げているから表情は分からないけれど、どこか慌てたようにセシル王子が弁解をする。

普段はもっと大人びているが、その声だけを聞いていれば年相応の少年らしさがうかがえる。

「確かに初めて会う従妹殿が気になるのは分かるけれどね。それにとてもおもしろい」

おもしろい、と言われてレナリアは内心で首を傾げる。

この見かけが凡庸だからおもしろいという事だろうか。

それとも……?

「ああ、従妹殿。ここは学園だから、そんなにかしこまらなくてもいいよ」

「ですが……」

「それに私たちは従兄弟同士だからね。うん、そうだ。これからレナリアと呼んで良いかな。私のこともレオナルドと名前で呼ぶといい」

にこにこと機嫌の良いレオナルド王太子の横で、レナリアの兄のアーサーが額に手を当てていた。

それを見て、王太子と兄の仲が良いとは聞いた事がないが、実は親しかったのだろうかとレナリアは不思議に思う。

「そういうわけにもいかないでしょう……」

「そうかな。でも従兄弟なのだし、問題はないと思うよ」

大ありだ、とアーサーは心の中でうめいた。

そもそも王宮では未だ王太后の勢力は強い。王妃の実家も、王太后の派閥だ。

王太后に疎まれているシェリダン侯爵家はあまり王宮には寄り付かないが、それでも最低限の社交はこなさなくてはならない。

しかし行ったとしても、父のクリスフォードとアーサーだけで、母のエリザベスは領地にこもって出てこない。

というより王都に出てきたら、エリザベスの命が狙われる。

それほど王太后の恨みは深い。

だが現在の国王は、エルトリア王家ではあまり王女が生まれない事もあって、腹違いではあるものの、ただ一人の妹を不憫に思い可愛がっていた。

エリザベスが王宮の奥深くに隠され、それでも生きていられたのは国王の尽力によるものだ。

それを知っているから、クリスフォードは義兄となる国王に従っている。

そして聡明な国王は、王太后のシェリダン侯爵家への悪意から、自分の息子たちを遠ざけた。

さすがに公の場で親しくなる事は許されなかったが、学園の中でならば許される。

アーサーが入学すると、すぐにレオナルド王太子はアーサーのクラスへ突撃して、今のレナリアのように問答無用で食堂に連れていった。

それからというもの、アーサーはずっとこの傍若無人な王太子に振り回されていると言っていいだろう。

アーサーは、さすがに女性であるレナリアに対してはそんな無茶はしないだろうと思い、特に注意してこなかったのを、深く、深く、後悔した。