軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十六話 郷長のお仕事

異世界において人知の及ばない神の力が宿る森。神樹の森。

神の加護が宿る地で育つ樹木は堅く大きく、そして何より、神性に満ちていた。

大自然は人に恵みをもたらすが、同時に大いなる試練にもなりうる。

自然が強すぎれば人は試練の前に屈服し、ただの獣同然に日々の寝起きだけで命を懸けることになる。

神の加護が宿った大地は、それを失った人間にとって大いなる脅威にすらなりつつあった。

しかし、神樹の森を開拓して、神代のように森の恵みを伝えられる人間が現れた。

神祖アナが遣わした転生者にして 神璽(レガリア) 。女神の加護と神器を備えた人間。

桧室総次郎。

千年手つかずの森に女神の祝福をもたらすために、彼が神樹の森を切り拓いて設えた小さな郷里──それこそが『ミコトの郷』である。

「っていうところかな。公式には」

「……うーん、そんなにかしこまったところでもないのに」

エルフのミスティアに説明してもらったミコトの郷は、なんだかとても立派な男が作っていた。

「どんな街も、由来を語る時は立派にするものだからねー。それに実際、すごいことをしてるんだからいいじゃない」

「すごいのはアナ様だし」

「だったら、女神様のためにもこれくらいの語り口でいいと思うわ」

「それはそうか」

納得のいく話だった。

ミスティアに、この内容で母にこの郷を紹介するけど良い? という確認をされているところだ。

ミスティアの住んでいるのが神樹の森だとは知っているが、そこがつい最近になって急速に開拓されて郷を作りあげた。

公式にどういう郷なのか、というのがエルフ種族的には気になることらしい。

不肖ながら俺が郷長をしているので、俺の署名とかも必要らしい。不思議なことに。

ミスティアの用意したその文面に同意して、署名を書いておいた。漢字だけど、いいんだろうかこれ。

「ありがとう。じゃあこういう感じで紹介しておくから」

ミスティアは気にしてないみたいなので、まあいいか。

郷長。俺が郷長か。

昔、そう呼ばれてた人がいた。子供だったので、なんか偉い人なんだろうなくらいにしか覚えていない。

でも、農家の爺さんが話をしておくみたいなことも言っていた。

俺も、この郷で相談されることがあるかもしれない。その時はまあ、がんばろう。

さっそくヒナから相談が来た。

「あるじ様、お野菜が多すぎるのですが、どうしましょう……」

「うん。〈クラフトギア〉で保存はできるけど、食べずにいるのはもったいないよな」

俺もそれ考えてた。

がんばろう。

あんまり郷長っぽい相談じゃないけど、そんなものだ。名ばかり郷長である。

ミコトの郷には、菜園ゾーンがある。

そこには今、萌える緑に包まれた畑があった。

俺は、畑を見ているウカタマに声をかけた。

「今日はどのへんから収穫がある?」

ウカタマが振り返る。アルマジロめいた顔つきの精霊獣は、爪をふわふわと自分の周囲に生える草に向けてさまよわせた。

「このへんから?」

うなずくウカタマ。

薄緑の草の根本を、精霊獣がさくさくと掘り起こす。すると、その太い根っこが頭の方を露出させた。

人参である。

「これもやっぱりでっかいな」

「うへあ、大根みたいな太さしてる」

一緒に畑に来ていた千種が、横から覗き込んできて言う。

「普通の二倍くらいでっかい」

「このサイズでも味が良いのは嬉しいけど、ちょっと想像以上にすごすぎたな……」

神樹の森は神の祝福がある森だ。今までそれは主に、樹木へと向かっていた。この地で成長する木が、鉄のように硬く異常なものへと育つために。

その木を伐り倒して畑にして、野菜を植えた。地力は当然、野菜の方へ向かったらしい。

結果、普通より二倍早く成長した野菜が、二倍大きく豊かに実ってしまったらしい。

そしてそれは、人参だけじゃない。

精霊獣リドルズと妖精樹ドリュアデス、その二つの存在はどうやらお互いをライバル視したらしい。

競い合って畑や果実を多種多様に菜園ゾーンで育ててくれた。

今の菜園には、野菜に果実、薬草に香草、調味料やキノコまで生え育っている。

「野菜ほんとにいっぱい食べないといけないな、これ」

夏野菜の採れすぎ問題が、発生していた。

「……そういえばあの爺さんも、おすそ分けに困ったら郷長に持っていけって言ってたような」

一周回って合ってるような気がしてきた。

がんばろう。