軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

52話 ルシアン王子の顛末

「修道院だと?!」

糺問官であるヴァレリウス枢機卿猊下が魂の識別を行った結果、ルシアン殿下は悪魔憑きであるという審判が下されました。

そしてヴァレリウス猊下による悪魔祓いは成功。

ルシアン殿下の体に取り憑いていた悪魔は退治されました。

と、いうことになりました。

悪魔祓いが成功した後、悪魔憑きだった者は、悪魔に汚された身体を浄化するために神に仕えて身を清める必要があるとされています。

そのためルシアン殿下は修道院へ送られることになったのですが、それを知らされたルシアン殿下は大いに不服を述べました。

「私は悪魔に勝ったんだぞ! 何故だ!」

「一度でも悪魔の器だった者は、そのまま野放しにはできないのです。体を浄化する必要があるのです」

ヴァレリウス猊下はルシアン殿下にそう説明すると、聖騎士たちに命じました。

「ルシアン殿下を修道院へお連れしろ」

「はっ!」

「修道院へなど行くものか!」

ルシアン殿下は抵抗しましたが、聖騎士たちは容赦なくルシアン殿下を連行しました。

「お前たち何をしている! 早く私を助けろ!」

ルシアン殿下は、付き添いの侍従や護衛たちに怒鳴り散らしました。

しかし当たり前ですが誰も動きません。

神の代理人である教皇が、異端審問の糺問官として送り込んで来た枢機卿の命令は、国王の命令よりも上位にあることを侍従や護衛だちは解っていたからです。

「フェリシア! 騙したな!」

ルシアン殿下は私を振り向いてそう言いました。

「貴様、こうなることを解っていて、私を罠にはめたな!」

「ルシアン殿下、悪魔祓いが成功してもしなくても、悪魔憑きが修道院へ送られることは皆が知っていることです」

私はルシアン殿下に説明しました。

「学院の神学の授業でも習ったことです」

「な、何だと! 私は聞いてないぞ!」

「試験に出たこともありますよ」

「う、嘘だ!」

「本当です。ルシアン殿下、身が清められたと判断されれば修道院を出られます。早く修道院を出たいなら、お行儀良くなさいませ」

「ルシアン殿下の失言が悪魔のせいになって良かったです」

教会での一仕事を終えて、私はユベール様と帰りの馬車に乗り込みました。

私はようやく緊張の糸がほぐれて、心底ほっとして言いました。

「ルシアン殿下が金貨を出したときには、肝が冷えました」

私がそう言うとユベール様も頷きました。

「まさかあんな失言をするとは想定外でした。悪魔のせいということにしていただけて本当に良かった。悪魔のおかげで助かりました。悪魔がいなかったらどうなっていたことか……」

「もう悪魔に足を向けて眠れませんわね」

「まさか悪魔に助けられる日が来るとは思いませんでした」

ヴァレリウス猊下は、ルシアン殿下の失言を悪魔の仕業ということで不問にしてくださいました。

何となくですが、ヴァレリウス猊下は投げやりで、面倒事を早く終わらせたがっているように見えました。

ヴァレリウス猊下は、悪魔祓いの間中ずっとルシアン殿下のお相手をなさっていらしたので、お疲れになってしまうお気持ちは解らないでもないです。

ルシアン殿下は悪魔憑きだったということで、ヴァレリウス猊下はさっさと定型の采配をなさいました。

つまり、ルシアン殿下は悪魔憑きだったことが正式に教会に認められました。

それは王太子ルシアン殿下の、廃太子を意味します。

(王妃様の切り札であるルシアン殿下が失脚したことは喜ばしいことだけれど)

私は王妃様に私怨がありますので、ルシアン殿下の廃太子は大歓迎です。

でも手放しで喜ぶことはできず、心にわだかまりが一つあります。

「愛し合うルシアン殿下とセリーヌ様が、修道院という障害により引き裂かれてしまいましたわ。ルシアン殿下が修道院を早く出られたら良いのですが」

「仕方ありません。彼が選んだことです」

ユベール様は小さく哀れみの微笑を浮かべました。

「ですがこれで王位簒奪はほぼ完了しました」

「そうですね。すぐにユベール様の立太子式ですわね。楽しみですわ」

「立太子式の次は、私たちの結婚式ですよ。フェリシア嬢に王太子妃の 宝冠(ティアラ) をプレゼントできる目途が立ちました」

「約束を守ってくださいましたね」

私とユベール様は揚々とした未来を語り合いました。

王位簒奪戦の勝敗はすでに決まったようなものでしたので、残るは事後処理のみと、そう思っていたのです。

王妃様の切り札であるルシアン殿下の廃太子は決まっていますので、王妃様が今更騒いだところでどうにもなりません。

あとは騒動の事後処理という平坦な作業があるだけと、そう思っていました。

しかし王妃様はこの後、私の予想を遥か下方に突き抜けた行動に出られます。

それは知識や常識の枠に囚われている私には想像もできない行動でした。

火を消そうとして火に油を注ぐなど、私には想像もできない手段です。