軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51話 ルシアン王子の悪魔祓い

(金貨を渡すにしても一枚だけって……!)

私は平静を装いながらも、ルシアン殿下の奇行による大惨事に内心で頭を抱えました。

(枢機卿に金貨を渡す行為を、ルシアン殿下はおまじないか何かだと思っているわね。賄賂だって理解していないわね)

ルシアン殿下の頭は、私の成績が上がったのは悪魔と契約したからだなんて言い出す 幻想的(ファンタジック) な大草原ですもの。

金貨を渡すことが枢機卿を 使役(テイム) する魔法だと思っているのではないでしょうか。

童話によくあります。

勇者や聖女が、ドラゴンやフェンリルに好物をあげて飼い慣らすお話が。

ルシアン殿下は、枢機卿に金貨は、あれ系のお話のような 使役(テイム) に使う好物だと思っているのでしょう。

(ルシアン殿下のお心は永遠に汚れなき童心のままなのね……)

使役したい枢機卿に金貨を与えるのは、決して間違いではありません。

むしろ正解です。

しかし童話とは違い、現実には建前や取引など複雑な要素が色々とあるのです。

ルシアン殿下にそのつもりがなくても、ルシアン殿下はヴァレリウス猊下の収賄を堂々と指摘してしまいました。

ヴァレリウス猊下が、我が国に悪印象を持たなければ良いのですが……。

(ああ、神よ……)

私は心の中で真剣に神に祈りました。

(どうか我が国が教皇庁に睨まれませんように)

「悪魔よ、私はそのような誘惑には乗らない」

ヴァレリウス猊下は表情の抜け落ちた顔で、溜息を吐くかのように言いました。

「この悪魔を拘束せよ」

ヴァレリウス猊下は聖騎士たちに命じました。

聖騎士たちは素早く動き、ルシアン殿下の両腕を拘束しました。

「な、何をする! 私は金貨を出したのに!」

聖騎士に拘束されたルシアン殿下は喚き散らしました。

ヴァレリウス猊下はお付きの聖職者から聖水瓶を受け取ると、ルシアン殿下の前に立ちました。

そして威厳のある態度で、ルシアン殿下の体に向けて命令しました。

「悪魔よ、その体から立ち去れ!」

言いながらヴァレリウス猊下は、ルシアン殿下に向けて聖水瓶を勢いよく振りました。

――ピシャッ!

ヴァレリウス猊下が振った聖水瓶から、聖水の雫が、ルシアン殿下に勢いよく振りかけられました。

「つ、冷た……っ!」

聖水の雫を顔にかけられたルシアン殿下が、反射的に目を閉じて声を上げました。

「悪魔よ、去れ! 去れ! 去れ!」

ヴァレリウス猊下はヤケになっているかのように、聖水瓶を振りまくり、ルシアン殿下に聖水の雫をかけまくりました。

「よ、よせ! 冷たい! やめろ!」

聖水をピシャピシャ振りかけられて、ルシアン殿下がもがきました。

「悪魔め、聖水が苦しいか!」

「水をかけられたら嫌に決まっている!」

「悪魔よ、その体から立ち去れ! さもなくば聖水をもっとくれてやる!」

「や、やめろ!」

聖水を振りかけるヴァレリウス猊下と、嫌がるルシアン殿下の攻防が繰り広げられました。

まるで子供の水遊びです。

一方的ですが。

(で、でも、これで良いんだわ。予定通りの茶番に戻ったわ!)

「悪魔め! 大人しく出て行かないか!」

「水をかけるのをやめろ!」

ヴァレリウス猊下は三本目の聖水瓶でルシアン殿下への聖水攻撃を続け、ルシアン殿下は相変わらず嫌がっています。

(普通ならどうすれば良いか解りそうなものだけれど。相手はルシアン殿下。このままでは日が暮れてしまうわ……)

終わりが見えない戦いに不安を感じた私は、ヴァレリウス猊下に申し出ました。

「恐れながら、ヴァレリウス猊下、ルシアン殿下が悪魔と手を切れるよう、ルシアン殿下に説得を試みたく存じます。お許しいただけないでしょうか」

「よかろう」

悪魔祓い師(エクソシスト) らしい仰々しい身振り手振りで聖水をふりかける作業を続けて、少し息があがっていたヴァレリウス猊下は即座に了承してくれました。

「ルシアン殿下……」

私はルシアン殿下の前に進み出ると、この状況から脱出できる方法を教えました。

「聖水を恐れているうちは悪魔がいる証拠となります。悪魔憑きでなければ、神の恵みである聖水をありがたく受けるはずです」

「こんなに水をかけられたら誰だって嫌に決まっている!」

「それを我慢するのです!」

私は単刀直入に言いました。

「我慢なさいませ!」

「我慢ならんわ!」

「悪魔がいなければ聖水をかけられても我慢できるはずです。悪魔がいなければ大人しくじっとしていられるはずです!」

「……っ!」

ルシアン殿下は驚いたように目を見開きました。

「私の中には……悪魔がいたのか?!」

ああ、もう、これだからルシアン殿下は……。

ではそういうことにしましょうか。

「そうです。今のルシアン殿下は悪魔に支配されている状態です。聖水をかけられても我慢できれば、悪魔に打ち勝ったことになります。お頑張りあそばせ」

「よ、よし、解った」

ルシアン殿下はきりっとしたお顔をなさりヴァレリウス猊下に言いました。

「私に聖水をかけるが良い! 耐えてみせよう!」

「……」

ヴァレリウス猊下は脱力したような様子で、半目でルシアン殿下を見ました。

(ヴァレリウス猊下もルシアン殿下も、どちらもお頑張り遊ばせ!)

私は心の中で二人にエールを送りました。

「さあ、来い! 聖水を受けて立とう!」

ルシアン殿下が挑むようにして気勢をあげました。

「では……」

ヴァレリウス猊下は再び聖水瓶をふりかざし、勢いよく振って聖水の雫を飛ばしました。

「悪魔よ立ち去れ!」

「……っ!」

ルシアン殿下はぎゅっと目を閉じて、微動だにせずそれを我慢しました。

ヴァレリウス猊下は三回、ルシアン殿下に聖水を振りかけました。

ルシアン殿下はその全てを目を閉じたまま大人しく耐えて、しのぎました。

「悪魔は去った」

ヴァレリウス猊下が 悪魔祓い(エクソシズム) の完了を宣言しました。

「ルシアン王子殿下は悪魔から解放された」