作品タイトル不明
14話 王妃とその過去
「三年も王妃教育をしているなんて、おかしいと思っていたのよ」
私はユベール様のお母君ヴェルニエ公爵夫人にお茶に招かれ、ヴェルニエ公爵邸へ行きました。
そして王妃様と王妃教育について、ヴェルニエ公爵夫人と語り合いました。
「公爵家の娘なら、王妃教育でやるようなことは家で学んでいますからね」
「本当の王妃教育とはやはり、宮廷作法と歴史と公用語ですか?」
私が尋ねると、ヴェルニエ公爵夫人は頷きました。
「ええ、そう。要は王族として恥ずかしくない振る舞いができれば良いのよ。上位貴族の家の娘なら、大抵ができることよ……」
ヴェルニエ公爵夫人は、口の端に皮肉っぽい笑みを浮かべました。
「王妃様はおできにならないけれどね」
「王妃様は男爵家の生まれでしたよね。国王陛下とは恋愛結婚だったのですか?」
王家が、王太子の花嫁に男爵家の娘を選ぶことは、よほどの事情でもない限りは有り得ません。
当時の王太子、現在の国王陛下が、男爵家の娘だった現在の王妃様と結婚したのは、ご本人たちの強い希望があったのだろうと推測されます。
「恋愛結婚という建前になっているわ……。厳密には違うけれど」
「王妃様は地位だけが目当てですか?」
「鋭いわね。その通りよ」
ヴェルニア公爵夫人は苦笑しました。
「そして国王陛下は、婚約者や両親への反発心や、当てつけが目的だった可能性もあるわ」
「国王陛下には、王妃様の他にご婚約者がいたのですか?」
「ええ、いたわ。私よ」
「えっ?!」
ヴェルニエ公爵夫人が、国王陛下の元婚約者?!
「そうだったのですか?!」
「フェリシアさんの年齢なら知らなくても無理ないわね。フェリシアさんのお母君、モンフォール公爵夫人はご存知のはずだけれど……」
「母からはそんなお話は聞いたことがありません。……私が王太子の婚約者になったときに、教えてくれれば良かったのに……」
娘が王太子の婚約者になって、王家に嫁ぐことになったら。
母なら、過去の王家のドロドロは、予備知識として教えておくものではありませんか。
私が十三歳のころには、男女のドロドロの話は、まだ早すぎて言いにくいことだったかもしれませんが。
十六歳にもなったら、教えておきますよね。
「モンフォール公爵夫人は王妃様の被害にあったことがないから、軽く考えていらしたのかもしれませんね。被害に合った者たちとはグループが違ったから……」
「王妃様の被害にあったお方は、他にもいらっしゃるのですか?」
「いるわよ。何人も」
ヴェルニエ公爵夫人は面白そうに微笑みました。
「王妃様は多分、賞賛されたいのよ。そして賞賛されている人に嫉妬するの。だから賞賛されている人の真似をして、成り代わろうとするのよ。真似をされた被害者がショックを受ける姿を見るのも楽しいんだと思うわ」
「それで……」
私が最初に本物の王妃教育を受けたとき、講師たちは私を称賛していました。
私の王妃教育の進み具合を、講師たちは当然、国王陛下や王妃殿下に報告したことでしょう。
そのときに講師たちが私を賞賛したから、それで王妃様は私に目を付けたのですね。
(私に対してのあれは、最初は、ただの嫌がらせだったかもしれないわね。でも私が提出した課題を使ったら、たまたま上手くいって、味をしめたってところかしら)
ちなみに私の母モンフォール公爵夫人は、目立たないタイプです。
母にはこれといった特技もないので地味です。
「王妃教育の講師たちが私を褒めたことが原因ですか……。社交辞令のようなものでしょうに……」
「フェリシアさんは学院でも首席を取っていたから、それも目を付けられた原因だと思うわ。王太子の婚約者であるフェリシアさんが学院の試験で学年首席だったことが、社交界でもちょっとした話題になったの。……ルシアン殿下の成績が振るわなかったことも……」
「なるほど、それで王妃様は私に、『ルシアン王子の成績を超えてはいけない』という命令をしたのですね」
私の成績を下げても、ルシアン殿下の成績は上がらないのに。
ルシアン殿下の成績を上げるために、家庭教師をもっと増やすとか、そういった建設的なことを王妃様は考えられないのでしょうか。
「少しでも何か出来てしまうと、すぐに恨まれて、真似されてしまったら、何もできなくなりますね」
「ええ、そうよ。それで、心を病んでしまったご夫人もいるの。王妃様付きの侍女も入れ替わりが激しいのよ」
ヴェルニエ公爵夫人はすっと目を細めました。
「そういう人に高い地位を持たせてはいけないのよね」