作品タイトル不明
15話 セリーヌの王妃教育
「セリーヌ様、合格でございます」
ルシアン王子の婚約者となったラルベル公爵令嬢セリーヌは、王宮で王妃教育を受けた。
王妃教育の内容は、宮廷作法、公用語、歴史だった。
宮廷作法と公用語は、セリーヌは幼いころから家庭教師について習っていたので、さほど苦労はしなかった。
だが歴史は少し手こずった。
歴史は学院で習ったのみで、セリーヌは歴史はあまり得意ではなかったからだ。
とはいえ。
王妃教育で習う歴史は、国史をざっくりとなぞるだけだ。
学院の授業や試験よりも、よほど簡単だった。
(王妃教育って、意外と簡単なものね)
セリーヌは一カ月半ほどで、専門の講師たちに合格をもらうことができた。
「セリーヌ様、よく頑張られましたね」
「さすがは公爵家のご令嬢です」
「きっとご立派な王太子妃におなりです」
王妃教育の修了が決まった日。
三人の講師たちが勢揃いして、セリーヌに挨拶を述べた。
「貴方たちの助力に感謝しています」
セリーヌは講師たちにねぎらいの言葉をかけながら、内心で勝ち誇った。
(フェリシア様が三年かけても終了できなかった王妃教育を、私は一カ月半で終わらせたわ!)
フェリシアに圧勝したことで、得意満面になったセリーヌは、ふと、気付いた。
フェリシアも王妃教育を受けていたのだから、この講師たちはフェリシアにも教えていたのではないかと。
「そういえばフェリシア様も王妃教育を受けていらしたけれど、貴方たちがフェリシア様に教えていたの?」
「はい。私どもが受け持ちました」
「不出来なフェリシア様に三年も付き合って、王妃教育をしていたなんて、貴方たちも大変だったわね……」
セリーヌは彼らにねぎらいの言葉をかけた。
しかし……。
「……」
「……?」
「?」
三人の講師は首を傾げた。
そしてさも当たり前であるかのように、講師たちは口々に言った。
「フェリシア様の王妃教育は半月で終わりました。作法は完璧でした」
「フェリシア様はまさに天才でした。まだ少女であったのに、公用語を、しかも完璧なアクセントでお話しになられていた」
「フェリシア様は十三歳でいらっしゃいましたな。十三歳ですでに歴史学に造詣が深く、私が教えることはほとんどありませんでした」
「十三歳?!」
セリーヌは訳が分からず、講師たちに問い掛けた。
「どういうこと?!」
講師たちは平然としてそれに答えた。
「フェリシア様が王太子ルシアン殿下とご婚約なさったのは十三歳のときです。十三歳のときにフェリシア様は王妃教育を受けられ、半月で終了なさいました」
「ほとんど復習だけで終わりました」
「稀に見るご優秀なご令嬢でした」
「嘘よ! フェリシア様はつい最近まで王妃教育を受けていたじゃないの! ルシアン殿下と婚約解消する直前まで、フェリシア様は王妃教育を受けていたはずよ!」
「フェリシア様が最近までやっておられたのは、王妃様による王妃教育です」
「あれは正式な王妃教育ではありませんよ」
「王妃様が、自らフェリシア様を鍛えるとおっしゃって始められたことです」
最も年長の老人である歴史学の講師は、悪い冗談を聞かされたかのように肩をすぼめてみせると言った。
「王妃教育を修了できなかった王妃様が、半月で王妃教育を修了なさったご優秀なフェリシア様に一体何を教えていたのやら」
「王妃様は公用語がおできになりませんからなぁ。あ、いけない、いけない。これはここだけの内密の話です」
「王妃様はもう十七年も王族として過ごしていらっしゃるのに、今でも作法でやらかすお方ですからな」
講師たちは、たまっていた鬱憤を吐き出すかのように、表では言えないような話を連発した。
そして彼らは、最後にセリーヌにエールを送った。
「セリーヌ様はきちんと王妃教育を修了なさいました。自信をお持ちください」
「フェリシア様とご自分を比べる必要はありませんよ。あのお方は特別です」
「セリーヌ様は、王妃様よりもお出来になられます。ご安心めされよ」
セリーヌは黙りこくった。
「……」
先程までは、勝利に酔っていたセリーヌだったが。
今は敗北感を噛みしめていた。