軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本編その後番外編【海と少年とハネムーン】⑨

「私に愛想が尽きたんじゃ?」

「そんなわけないだろう! 君への愛が深まりこそすれ、尽きるなんてことあるわけがない。僕のほうこそ君に愛想を尽かされないか怯える日々だというのに」

大げさなくらい悲しげな表情を作りながら、私の手をギュッと握るノアに、ほんの少しほっとする。

嫌われていなかったとわかり、ようやく微笑むことが出来た。

「それこそあり得ないことです」

「本当に……?」

「はい。今もこれからも、私にはノアだけです」

「ああ、ヴィア……」

星空の瞳に見つめられ、私も見つめ返していると、いつものように吸い込まれるような錯覚に陥る。

ノアが目の前にいて、私だけをその瞳に映している。その事実だけで胸が幸せで満ち溢れた。

「よし、今日はこのままふたりきりで部屋で過ごすことに――」

「ンンッ! ……失礼ながら、もうすぐ歓迎パーティーが始まる時間です」

ノアの力強い宣言を、ユージーンが大きな咳ばらいをして途中で止めた。

私の肩を抱きながら、ノアがムッとした顔で腹心を睨みつける。

「ヴィアが疲れたようだから、部屋で休ませると言えば……」

「先ほどウキウキとした足取りでお帰りになった王太子妃を、邸の多くの者が目撃しています」

「そんなものどうとでも、」

「お言葉ですが、王太子殿下。こんなに美しく光り輝いたオリヴィア様を、お集りの皆様に見せびらかさなくてよろしいのですか?」

今度はケイトがそんなことを言い出した。

以前は貴族の子女として、礼節をもってノアに接しケイトから声をかけること等なかったが、私の侍女となってからはどんどんノアに対し遠慮がなくなってきている。

王太子にではなく、王太子妃である私に仕えているのだと、働きでもってはっきりと証明しているのだ。私が最優先だと、公言して憚らない。

「よろしいも何も。ヴィアの美しさは僕だけが知っていればいい」

「論外です! オリヴィア様の美しさは国中に轟かせるべきですわ! 民はオリヴィア様を崇拝し、それが信仰と王家への忠誠に繋がるのです!」

「ケイト、それはあまり繋がらないような……」

「君は創世教団とは別に、オリヴィア教団でも作るつもりじゃないのか」

ノアの指摘にケイトが一瞬ぎくりとした顔をする。

え、まさか図星? 本気でそんなこと考えてたの?

私、教祖になりたいなんて言った覚えは微塵もないんですけど。

自分の侍女がいつか暴走しそうで恐ろしい。専属メイドのアンと結託したら、勝手に新興宗教の教祖にされて荒稼ぎの道具にされそうだ。

ありえなくはない、と想像してゾッとした時、ブラウン伯爵家の案内人が部屋を訪れた。

「王太子殿下、妃殿下。そろそろお時間でございます。準備はお済みでしょうか」

声をかけられても、ノアは不満げな顔を隠しもせず返事もしない。

ユージーンが頭が痛いとばかりに額に手をやっている。ケイトは笑顔だが明らかに怒っていた。ヴィンセントは……いつも通りの無表情だ。

ここは私がどうにかするしかないのだろう。

「ノア……」

ノアの服をくいっと引っ張り、上目遣いに彼を見上げる。

するとノアは何か言いたげな顔をしたが、結局それを飲み込むようにしてうなだれた。

「……はぁ。仕方ない」

渋々、といった風にノアが折れてくれたので、私はほっとして彼の腕にギュッと抱き着いた。

私の愛する夫は、すこぶる私に甘い。そんな所も大好きだ。

「ありがとうございます! 明日からはふたりでゆっくりいたしましょうね」

ノアは仕方なさそうに笑って「いいや、明日じゃない」と囁いた。

「今夜からだろう?」

「え……っ」

意味ありげに甘い声で言われ、顔が一気に熱くなる。

「悪いけど、明日は部屋から出られないと覚悟しておいて」

脅しのような誘い文句に、膝から力が抜けて崩れ落ちそうになった。

既の所でノアの腕に支えられ、胸の鼓動を苦しく思いながら彼を見上げる。

魅惑的な微笑みを浮かべるノアの顔がゆっくりと近づいてきて、私は魔法にかかったかのように彼の唇を待とうと――。

「「ンンッ!」」

その時部屋に響いた複数の咳払いで、ハッとして勢いよく俯いた。

うっかり人前でノアと口づけを交わそうとしてしまった。しかも多分、濃厚なやつを。

「さっさと行かないと、これから貴方を万年発情お花畑王子とお呼びしますよ」

「ユージーン様。欲望の権化とお呼びしたほうがよろしいのでは?」

「もうお前たちは私を敬う気ゼロだろう。……仕方ないな」

ひとつため息をつくと、ノアは私をしっかりと立たせてくれた。

それから私の髪を手ですくうと、そこに口づけを落とし艶っぽく笑った。

まるで私を誘惑するようなその表情に、ゴクリと喉が鳴る。

私の旦那様がセクシー過ぎて色々困る。

「素敵なお土産をありがとう、ヴィア」

土産にと贈った首飾りをかけると、ノアは腕を私に差し出した。

「行こうか」

「はい!」

ノアの腕に手を絡め、まだ熱の冷めない頬のまま笑顔で返す。

ひどい人だ。私を誘惑しておいて、お預けにするのだから。

ああ、そうか。これは罰か。

私の心と体に火をつけたのは、ノアを置いてひとりで街探索を楽しんだお仕置きなのだ。

夜まで持つだろうか、と私ははしたないことを考えつつ貴賓室を後にした。

早くパーティーが終わりますように、と心の中で強く願いながら。