軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

内密

ボーナスポイントを知力上昇に99そそぎ込んだファイヤーボールは、ニードルウッドLv1を一撃で粉砕した。

何も振らなければ二発か三発必要なはずだ。

知力上昇によって魔法攻撃力が上がるのは間違いない。

大きさはそれほど変わりがないと思うが、スピードは速くなっていた。

移動速度が上がれば、かわすのが難しくなる。

ありがたい変化だ。

知力上昇にマックスまで振っても、大きさは一回りくらいは大きくなったか、という程度だ。

こちらの方はそれほど変わらないらしい。

一発で沈めた以上、威力は上がっているので問題はないが。

「え? えっ? ええっ? ……こ、これは魔法ではないのですか?」

俺の魔法を見たロクサーヌは少し混乱したようだ。

「魔法だな」

「ご主人様は探索者では? 探索者がこんな魔法を使えるという話は聞いたことがありませんが」

しかし、すぐに冷静さを取り返す。

表情が迷宮に入ったときの真剣な顔つきに戻った。

やはりセカンドジョブを扱える人間はあまりいないらしい。

「まあ、これも内密にな」

「な、内密ですか」

なんでも内密にでごまかす俺。

実際、説明のしようもないしな。

キャラクター再設定でセカンドジョブをつけて、で分かるのだろうか。

「キャラクター再設定って分かるか?」

「再……設定ですか?」

「ボーナスポイントは?」

「何かの特別にもらえる報酬でしょうか」

「うーむ」

やはり説明は無理だ。

「な、何か分かりませんが、魔法が使えるなんてすごいです」

「ありがとう」

「しかも、魔法とはいえ魔物を一撃にするのはすごいです。魔法は剣よりも威力が上ですが、それでも一発で倒すのはなかなか難しいと聞きました」

「まあいつもは一撃ではない。気は抜かないようにな」

ロクサーヌはあまり迷宮では気を抜かないタイプだとは思うが。

ロクサーヌがニードルウッドの倒れたところへ行き、ブランチを拾った。

リュックサックを降ろそうとしたところで、横から俺が受け取る。

「あの。私がお持ちします」

「大丈夫。アイテムボックスにまだ空きがある」

ブランチをアイテムボックスに入れた。

「空きがあるのですか? えっと。失礼ですが、ご主人様のレベルを聞かせてもらってもよろしいでしょうか」

「探索者のか? Lv27だな」

「Lv27……。すごい……。確かに、それなら空きがありそうです」

アイテムボックスにはレベルの数だけものが入る。

ロクサーヌも知っているのだろう。

しかし、「私と一歳しか違わないのに」とか言っているロクサーヌは、俺のレベルをどのくらいだと考えていたのだろうか。

低レベルで買えるような値段ではなかったというのに。

あれか。親の金を使ったと思われているのか。

遠くから来て親の遺産で暮らすボンボン息子。

常識のない言い訳にはなるかもしれない。

俺のレベルは、年齢的に見てちょっとは高いがありえないほどではない、というところではないかと思う。

経験値二百倍で十日間迷宮に入ったとして、休みを考えなければ六年分足らずというところだ。

この世界では十一歳から迷宮に入る子どももいるのではないだろうか。

レベルが上がっていくことを考えると、今後どうなるかは分からないが。

「レベルのことは内密にな」

「もちろんです」

失礼ですが、と聞いてきた時点で、そこは大丈夫だろう。

重要な個人情報であることはロクサーヌにも分かっているはずだ。

「それでは、どっちへ行けばいい」

「魔物のいる方へ案内するということでよろしいでしょうか」

「魔法を使っているところはあまり人に見られたくないので、できれば人のいない方へ頼む」

「分かりました。内密ですからね」

内密で納得してくれたらしい。

命令だから、機密保持が優先ということだろう。

しかし、人のいない方へ、であっさり了承できるのがすごい。

魔物のにおいが分かるなら人のにおいも分かるだろうとはいえ。

「頼む。ロクサーヌは本当に役に立つな」

「ありがとうございます。こちらです」

ロクサーヌが先導する。

「魔物の種類や数もにおいで分かるのか?」

「ある程度は分かります。ですが完全ではありません。また、隠し扉の向こうのにおいは分からなかったり、途中で魔物が湧く場合もあります。常に魔物への最短の道がわかるわけでもありません」

ロクサーヌと話しながら進むと、すぐに魔物のいる場所に到着した。

本当に役に立つ。

今度は知力上昇に50ポイント振ったファイヤーボールを放った。

ニードルウッドLv1が業火を耐える。

「駄目か」

「おまかせください」

ロクサーヌがシミターを抜いた。

俺の返事も待たずに駆け出す。

これは想定外だ。

ファイヤーボール二発で十分なのに。

ロクサーヌが俺と魔物の間に入ってしまったため、魔法は撃てない。

火球がパーティーメンバーを素通りすることは、期待できないだろう。

盗賊相手に作用しなかったファイヤーストームなら、パーティーメンバーにもおそらく作用しないだろうが。

ロクサーヌが剣を持った右手を振り、ニードルウッドに斬りつけた。

振られた枝を軽く身を引いて避ける。

空振りした魔物の肩口に追撃を加えた。そのまま斬り上げるように一撃。

ロクサーヌは右から振られた枝をまたも軽々と避けた。

踏み込んで正面からシミターを振り下ろす。

振られた枝を半歩引いてかわした。かわしながら一撃入れる。

すごい。

ちょっと見入ってしまった。

ロクサーヌはニードルウッドの攻撃を完璧に避けている。

魔物の攻撃が当たりそうな気がしない。

軽々と避けるだけでなく、避ける距離も紙一重だ。

魔物の攻撃を、センチ単位、いやミリ単位でかわしていた。

一見すると余裕がなさそうに見えるが、実際は逆だ。

大きく避ければ無駄な動きになる。攻撃に転じるのも難しくなる。

敵の攻撃を完璧に見切れるなら、ギリギリでかわすことが一番だ。

ロクサーヌの動きはまさにそれである。

華麗に踊っているようだ。

軽いステップで避ける、あるいは身体をひねってやり過ごす。

ニードルウッドの攻撃って、こんなに単調だっけ?

まあ確かに枝だけどさ。

ワンドを腰に差し、銅の剣を抜いて俺も後に続いた。

ロクサーヌがいることで武器を持ち替える余裕が生まれている。

デュランダルを出すくらいの余裕もあったかもしれない。

次からはそうしよう。

銅の剣を持って参戦した。

ロクサーヌから少し離れて左に陣取り、銅の剣を振り下ろす。

左から振られた枝を受けた。

そこへ右から枝が振られて。

ロクサーヌにかわされ、空振りした枝が近づく。

あわてて上体をそらした。

姿勢の崩れたところに左から枝が振られる。

なんとか銅の剣で受けた。

うん。はっきりいって無理だ。

ロクサーヌみたいにやすやすとは避けられない。

しかも、ロクサーヌはその間に何度も斬りつけている。

俺もようやく隙を見つけて銅の剣を叩き込んだ。

ニードルウッドが倒れる。

ブランチを残して、煙が消えた。

「す、すごいな。攻撃を全部避けてたし」

「ありがとうございます。二人で相手にしたので楽でした」

いやいや。あんた一人のときも全部かわしてたじゃん。

「そ、そうか」

「よく見れば、あのくらいの攻撃はかわせるものです」

そうなのかもしれないが。

しかしぶっちゃけ、誰でもはできないと思う。

ロクサーヌって、実はすごい人なんじゃないだろうか。

魔物の居場所まで分かるし。

「次の魔物は俺が行くから、まかせてほしい」

「分かりました」

このままでは主人としてなめられてしまう。

魔法を使えるとはいえ。

一度戦えるというところをガツンと見せた方がいい、ような気がする。

大体、ロクサーヌの動きは半分神がかっていた。

あれは普通の人には無理だ。

少なくとも俺には無理だ。

オーバーホエルミングがあるから、少しならまねできるかもしれないが。

そう。ロクサーヌのは、いってみれば常時オーバーホエルミング状態だ。

ひょっとしたら本当に使っているのではないだろうか。

「ビーストアタックだっけ。あれって、どんなスキル?」

獣戦士が持つスキルはビーストアタックだった。

オーバーホエルミングみたいな効果があるのかもしれない。

名前的には、攻撃スキルみたいに思えるが。

「魔物に対して大きなダメージを与える技です。ですが、すみません。私には使えません」

「使えないの?」

「スキルや魔法の呪文は全部ブラヒム語で成り立っています。ブラヒム語はいにしえより言霊を扱うとされる聖なる言語です。ブラヒム語が使えない人にはスキルも使えないのです」

そうだったのか。

ブラヒム語は役に立つ言語だったらしい。

スキルを使おうとすればブラヒム語を覚えなければならないと。

共通語にもなるわけだ。

「でもブラヒム語は使えるようになったんだよね」

「はい。ですが、まだ足りないようです」

「呪文が分からないとか」

「いいえ。呪文はスキルを使おうとすれば浮かんできますから。ただ、発音やアクセント、イントネーション、細かなニュアンスの違いなど全部が完璧でなければ詠唱は成功しません。日常会話ができる程度でなく、ブラヒム語を自在に扱えるようでないとスキル詠唱として使うのは無理らしいです」

そういえば、呪文は何故か頭に浮かんできて分かるのだった。

これは他の人も同じらしい。

「そうなのか」

「それに、スキルを使おうと詠唱するときにはどうしても隙ができます。スキルを使えないことは、あまり大きな問題ではありません。私のような初心者がスキルを使うのはよくないとされていますし」

「なるほど」

前衛が使う攻撃スキルはそうなのだろう。

ロクサーヌが初心者とも思えないが。

「えっと。一つ聞いてもよろしいですか?」

「何だ」

「ご主人様が使う魔法には呪文の詠唱がないのでしょうか。スキルや魔法には詠唱が必要だと思いますが」

やば。

スキルのことを聞いたのはやぶへびだった。

「教えてできることではないし、俺以外には無理だと思う。内密にな」

「か、かしこまりました」

「うむ」

もう全部内密にでいいや。

「やはりご主人様はすごいです。それに、ブラヒム語をやすやすと使いこなしておられます。ブラヒム語を使いこなせる人は本当にすごいおかたなのです」

ロクサーヌが熱い視線を送ってくる。

ちょっと気恥ずかしい。借り物の能力だけに。

なんでブラヒム語が話せるのかも分かっていないし。

「そ、そうか」

「はい……」

気を取り直して、ロクサーヌの先導で進んだ。

ついていきながら、デュランダルを出す。

他のスキルは、必要経験値は五分の一、獲得経験値を十倍までつけた。

ボーナススキルには必要経験値の軽減と獲得経験値の上昇とがある。

パーティーを組むと、獲得経験値の方はパーティーメンバーにも分配されるのではないだろうか。

必要経験値の方は、恩恵があるのは本人だけだろう。

数分で魔物のいる場所に着く。

「やはりロクサーヌはすごいな」

「私がですか?」

今までは魔物に遭遇するのを待ってひたすらに歩き回っていた。

効率が圧倒的に違ってくる。

「うむ。ところで俺の剣を見てくれ。こいつをどう思う?」

「とても素晴らしい剣のようです」

ロクサーヌにデュランダルを見せた。

返事にちょっと物足りない感じはしたが、いい剣だと分かるようだ。

魔物に向かって駆ける。

走りながらデュランダルを振り上げ、ニードルウッドLv1に叩きつけた。

魔物が一撃で倒れ、煙と消える。

「い、一撃だなんて、ご主人様、すごいです」

ブランチを拾ったロクサーヌがちょっとどきまぎした表情で渡してきた。

美人にそんな目で見られて、かつてないいい気分だ。

所詮デュランダル頼みというのはおいといてだ。

ロクサーヌの中で俺の株が上がったのは確実である。

「まあ、すごいのはこの剣だが」

「確かによい剣のようです。それに、きちんと手入れもされていて新品同然です」

俺がかざしたデュランダルをロクサーヌが検品する。

デュランダルはロクサーヌのメガネにかなう状態らしい。

思うに、キャラクター再設定で出すとき、まったく新しく出てくるのではないだろうか。

でなければ、さんざん使ってきたのに、ほとんど使っていないシミターや銅の剣よりいい状態だということはないだろう。

シミターや銅の剣はロクサーヌに怒られる状態だった。

俺が手にする前にどういう使われ方をされてきたのかは分からないが。

「この剣のことは、内密にな」

「内密ですか」

「そう。この剣のことが知られると、例えば……」

俺はロクサーヌの手を取って引っ張った。

首に腕を回し、手刀をつきつける。

「えっ」

「この女の命が惜しければ剣を渡せ、と、こういうこともできる」

「は、はい。確かにそうですね。分かりました」

「うむ」

ロクサーヌを解放した。

多少脅しておけば、内密に、を変な風には捉えないだろう。

実際にありえることだし。

「ですが、もしそんなときになった場合には、どうか遠慮せず剣の方を選んでください」

「まあロクサーヌの方を選ぶがな。いずれにしても、どちらかを失うような事態は避けたい」

「かしこまりました。……あの、ありがとうございます」

そういう可能性もあると分かれば、言いふらしたりはしないだろう。

その後、いろいろと試した。

実験方針は、まずニードルウッドLv1を魔法一発で倒すために知力上昇にボーナスポイントを最小いくつ振る必要があるか割り出す。

フォースジョブやフィフスジョブを設定して、知力小上昇の効果を持つ商人や薬草採取士などをジョブに加える。

そして、ニードルウッドLv1を魔法一発でしとめるのに必要な知力上昇に振るボーナスポイントに変更があるかどうかテストした。

必要なボーナスポイントが減っていれば、加えたジョブの知力小上昇の効果があったということだ。

結果。

多分フォースジョブとフィフスジョブの効果もちゃんと重複するらしい。

戦士Lv16を加えても多分変わらず。戦士が持つ効果の体力小上昇では魔法攻撃力には関係ないようだ。

剣士Lv2をつけても多分減りはしなかったので、効果は上乗せされる分だけが発揮されるのかもしれない。

多分ばっかりなのは、同じボーナスポイントを振っても倒せるときと倒せないときがあったからだ。

魔物にも個体差があるらしい。

あるいは、魔法で与えるダメージと知力との相関が一定ではないのか。

しかし、同じポイントで倒せる場合と倒せない場合があるということにも使い道はある。

「よし。素手で倒すぞ」

「はい」

倒せる場合もあるということは、一撃で倒せなかったとしても生き残った魔物はダウン寸前ということだ。

ワンドを収め、俺はロクサーヌと一緒に魔物に殴りかかった。

ロクサーヌが右から、俺が左から素手でニードルウッドLv1を殴る。

木肌に拳を叩きつけるが、ダメージは与えられているのだろうか。

左から枝が振られた。

大きく上体をそらして、なんとか避ける。

二、三歩後ずさり、しりもちをつきそうになった。

剣を使わない分、魔物との距離が近いので大変だ。

ロクサーヌの方はニードルウッドの攻撃を華麗にかわしている。

なんであんなに軽く避けられるのだろう。

くそっ。

この際、蹴るのでも問題ないだろう。

横に回ってキックをお見舞いした。

蹴りの後、パンチを叩き込む。

そこに枝が振られて。

駄目だ。これは避けられない。

一撃もらうのと引き換えに、ジャブを三発放つ。

続いて渾身の右ストレート。

ニードルウッドの体が大きく揺れた。

ややあってその場に崩れ落ちる。

魔物が煙となって消えた。

ジョブ設定と念じる。

これで大丈夫か。

あれ? ない。

次にパーティージョブ設定を。

獣戦士Lv6、村人Lv8、農夫Lv1、戦士Lv1、剣士Lv1、探索者Lv1、薬草採取士Lv1、僧侶Lv1。

ロクサーヌの方にはあった。

「最後はロクサーヌが倒した?」

「はい。ご主人様が殴った後、私が突きを入れると倒れました」

そうだったのか。見えなかった。

どうやら、とどめをささないと僧侶のジョブは取得できないようだ。