軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

僧侶

僧侶のジョブを取得するには魔物を素手でしとめる必要があるらしい。

とどめをさしたロクサーヌは僧侶のジョブを獲得したが、一緒に戦いに参加した俺のジョブは増えていなかった。

仕方ないので、その後も実験を繰り返しつつ、僧侶のジョブ取得を目指す。

「とどめは俺がさすから、ロクサーヌは囲むだけにして攻撃するな」

魔法を当てても一撃では倒れなかったニードルウッドに挑んだ。

一発で倒せる場合もあるのだから、かなりのダメージは与えているはずだ。

とはいえ一人で相手にするのは危険が大きい。

というか、無理。

ロクサーヌと二人で囲む。

こうすれば、こっちにくる攻撃は半分だ。

おおっと。

まあときにはロクサーヌを空振った枝が俺のところまでくることもあるが。

ニードルウッドに前後の別があるかどうかはよく分からない。

枝を振り回すだけで三百六十度攻撃できるし。

さすが木人変人。

二人で前後から囲んでもあまり優位にはならないような気がする。

しかし、魔物からの攻撃は確実に減る。

実際に攻撃しているのは俺だけだが、ニードルウッドは俺だけを相手にすることはなかった。

どう見ても俺よりロクサーヌの方が強そうだしな。

無視はできないのだろう。

ロクサーヌは相変わらず魔物の攻撃をすべて紙一重でかわしている。

ニードルウッドの枝振りがまったく当たらない。

なんだ、あの動きは。

ロクサーヌが軽く身を翻して魔物の攻撃を避ける。

隙ができたところで、俺がパンチを見舞う。

枝が振られ、俺が大きく体をそらす。

上体が崩れるが、魔物はロクサーヌの方を狙う。

振られた攻撃をロクサーヌがまたしても軽々と。

さっきからこれの繰り返しだ。

ときたま違いがあるのは、魔物の攻撃が俺に当たることくらいか。

ロクサーヌにはもちろん当たりませんよと。

あるいは、ニードルウッドからするとロクサーヌへの攻撃は当たりそうで当たらないと見えているのかもしれない。

一見するとギリギリの攻防に見えなくもない。

完全に見切られてるけどな。

攻撃は俺しかしていないので、長時間の戦闘となった。

ジャブの後のストレートをワンツーで放つ。

腰を回転させ、力を乗せた。

俺のこぶしの方がダメージを受けた気がしないでもない。

振られた枝をあわてて避ける。

相手が空振りしたときがチャンスだが、こっちも体勢を崩しているので追撃できない。

次に魔物がロクサーヌを攻撃して空振りした。

ここぞとばかりにラッシュをかける。

一歩踏み出して左、右。さらにもう一歩踏み込んで左で正拳突きを放った。

ようやく魔物が倒れる。

長い死闘を征した。

死闘だったのはもちろん、俺とニードルウッドだけだ。

俺しか攻撃していないので、今度こそ確実にとどめをさした。

ジョブ設定と念じる。

僧侶 Lv1

効果 精神小上昇 MP微上昇

スキル 手当て

これか。

早速ジョブを設定し、手当てと念じた。

魔物の攻撃を何度か浴びたので、肩口が痛い。

「確かに痛みが引いたようだ。これから魔物の攻撃を浴びたときにはスキルを使って俺が回復させるから、必ず申し出るように」

ロクサーヌに告げる。

「できるのですか?」

「うむ。内密にな」

「か、かしこまりました。ご主人様、すごいです」

ロクサーヌもブラヒム語のでき次第では使えるのだが。

大体、さっきから何度もすごいと言われているような気がするが、単に複数のジョブを持てるというだけなんだよな。

詐欺くさい。

ロクサーヌの話では、僧侶のスキルでは多分簡単な怪我くらいしか治せないらしい。

腕を切り落とされるような大ケガを負った場合、上位の傷薬である滋養錠などが必要になるのだとか。

しかし要は金を出せばなんとかなるということで、俺は安心した。

その後も検証を進めて、冒険者ギルドの壁に戻ってくる。

ワンドにもちゃんと効果があることを確認した。

ファイヤーボール、ファイヤーストーム、ブリーズボール、サンドボールでは多分威力に違いはないようだ。

腕力上昇にボーナスポイントを99振って銅の剣で戦ってみたが、一撃では倒せなかった。

基本的に魔法の方が剣よりも威力があるらしい。

デュランダルはどれだけすごいんだろう。

宿屋に帰って、ロクサーヌと一緒に朝食を取る。

その後、いったん部屋に入った。

「ロクサーヌがいるとすごく役に立った。これからもよろしく頼む」

ロクサーヌに礼を述べ、ベッドに腰かける。

実際、すごく役立った。

まず、魔物を探す能力があるので、素早く魔物に行き当たる。

一回の探索で今回ほど多くの魔物を倒したことはなかった。

それほど長い時間迷宮にはもぐっていない。探索をしたのは一階層なので全部一匹ずつ。しかも、実験や僧侶のジョブを獲得するために一部の魔物とは無駄に長く戦っている。

アイテムボックスの中では現在、ブランチが二列を満杯にし三列めにも一つ入っていた。

今は探索者Lv27なので、アイテムボックス一列には二十七個入る。

つまり今朝の探索で得たブランチは五十五個。他にリーフが六枚だ。

また、ロクサーヌがいれば敵を魔法で攻撃するときにも前衛を安心して任せられる。

今日、ロクサーヌはただの一回も魔物の攻撃を浴びていない。

全部かわしきっていた。

ロクサーヌが相手をしている間にデュランダルを出すこともできる。

好きなときに好きな相手でデュランダルを使ってMPを回復できるので、効率が上がるだろう。

「はい。ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」

ロクサーヌが入り口近くに立ったまま頭を下げる。

頭を上げても、そこから動くつもりはないようだ。

「頼む」

「こんなにたくさんの魔物を倒したのは今回が初めてです。ご主人様はすごいです」

「いや。俺も初めてだ。これはロクサーヌの案内があったおかげで、すごいのはロクサーヌだな」

「そんなことはないです。たくさん倒せたのはご主人様の攻撃力が圧倒的だったからです。他にもいろいろとすごかったです」

なんか褒めあいになってしまった。

「まあこっちに来て座れ」

「は、はい」

ロクサーヌを招く。

いちいち言ってやらないと駄目なのかね。

「これからは部屋に入ったら勝手に座ってよい。いや、なるべく俺の近くがいいな。俺の近くに座るように。近くに座ったからといって押し倒すようなことは、ええっと、絶対とはいわないけどあんまりしないようにするから」

ロクサーヌが隣に来たので、無性に抱きつきたくなった。

未来永劫我慢するというのは無理だ。

チュニックの襟から少しだけ覗く白い肌がみだりに艶かしい。

「わ、私なら、大丈夫です。かまいませ、あっ……」

そんな嬉しいことを言ってくれるので、思わず抱きついてしまったではないか。

今のはロクサーヌが悪いと思います。

かまわないというのは、押し倒してもかまわないという意味だろうか。

あ。押し倒したりしないようにするなら大丈夫ということか。

ちくしょー。

しょうがないので、押し倒す代わりにイヌミミをぱふぱふして気分を落ち着けた。

柔らかくて弾力もあって、いい感じ。

「味わってもいいかな」

「えっ……。あ、あの……美味しくないと思います」

いや、絶対旨いだろう。

って、何を言っているのだ、俺は。

ロクサーヌはちょっと困ったようにうつむいている。

違うから。

食べないから。

食べちゃいたいけど、食べないから。

「別に取って喰ったりはしないから。いじるだけ」

甘かみしたり咥えたりはしたい。

「は、はい」

「耳ってこんな風にいじっても大丈夫なのかな。痛かったり嫌だったりしたら、すぐに言ってくれ。やめるから」

「変なことをしなければ大丈夫です。それに、あの……なでられると気持ちいいです」

ちょっと視線をそらしながら気持ちいいと小声で言うロクサーヌが抜群に可愛かった。

やっぱり食べてもよろしいでしょうか。

しかし、このイヌミミは何かを思い出すな。

ベビーパウダーについているパフとかじゃなくて、食べられるやつ。

シュークリームでもシフォンケーキでもマシュマロでもなく、もっともっちりした。

そうだ。磯辺焼きだ。

焼けたモチの伸び~る感がこの垂れ耳にはある。

力なくフニャンとたれるところが。

適度に弾力があって柔らかく、人の心をひきつけてやまない。

磯辺焼きか。

好きな食べ物だが、もう一生食べることはないかもな。

モチもしょう油も海苔もこの世界にあるかどうか。

「磯辺焼きって、この辺りでもあるか」

「磯辺焼きですか?」

「うん。俺の故郷にあった、好きな食べ物だ」

「この辺りでは知りませんが、海の方へ行けば、磯で魚を焼いたりして食べることもあると思います」

それは本当に磯辺焼きだな。

多分、ブラヒム語が直訳してしまったのだろう。

翻訳されてもその概念があるとは限らないということか。

「そうか。まあ探してみるか」

「あ、あの。……ご主人様は、いつか故郷に帰られるのでしょうか」

ロクサーヌが訊いてきた。

やはり気にはなるのだろう。

「故郷にか?」

「はい」

「故郷に帰るよりもいいものを手に入れたからなあ」

イヌミミをいじりながら会話する。

これは日本にはない。磯辺焼きを補ってあまりある。

柔らかくてなめらかで弾力がある、最高の一品だ。

「……」

「故郷には帰らないし、多分帰れない」

ロクサーヌが黙ってしまったので、ちょっとまじめに答えてみた。

考えなければいけないことだと分かってはいる。

「そうなのですか?」

「うむ。ロクサーヌにとっては残念ながら、故郷に帰るから解放する、ということにはならないだろう」

イヌミミを手で持ち上げ、パタパタと振った。

「いえ、あの。そんなつもりでは」

「大丈夫。分かってる」

「必要なくなった奴隷は売るのが一般的だと思います」

なるほど。それが常識なのか。

売られるのは困るというのがロクサーヌの心配事か。

「ロクサーヌにはずうっといてもらうつもりだから」

「はい。ありがとうございます」

「ただし、パーティー戦力の充実を図るのは当然だから、パーティーメンバーは増やすと思うけどね」

ドサクサにまぎれてハーレム宣言もする。

パーティーメンバーを増やすと言っただけで、ハーレム要員を増やすとは言っていないが。

前衛はガチムチのむさいおっさんでしょうがないとしても、後衛は美少女で固めるべきだろう。

常識的に考えて。

「はい。それは当然のことです」

ロクサーヌがどこまで分かっているか知らないが、言質を取ったと解釈しておこう。

パーティーメンバーを増やすことが、本当に当然かどうかは分からない。

パーティーメンバーをそろえるということは、これからも迷宮に入って稼ぐということだ。

しかし、それ以外に道があるだろうか。

難しい。

農業、料理、商業、運輸といった、この世界でも役に立ちそうなことについて何か特別の知識があるわけでもなく。

現代知識に基づいて何か開発したとしても、それで巧くいくかどうか。

昔、ジェームズ・ワットの伝記を読んだことがある。

彼はビジネス的にも成功したらしいが、それはライバルとの特許裁判を勝ち抜いてのことだった。

特許なんてものもこの世界にはないだろう。

可能性があるとすれば、ロクサーヌに助産婦をさせることくらいか。

助産婦をするのはおそらく女性が中心だろう。

赤ん坊を取り上げるときには石灰水で手を消毒する。

はさみなどの器具は熱湯消毒。

シーツやタオルは天日干しして日光消毒でいい。

これだけで、産褥熱による死亡を大幅に減らせられるはずだ。

カガ流産婦人科がこの世界の標準医療となる日も近い。

実際問題としてはあまり現実的ではないが。

まず、ロクサーヌを助産婦にすることが大変だ。

人、狼人族、エルフ、ドワーフで助産婦は別かもしれない。

兼務できるとしても、産褥熱の発生率が違うかもしれない。

こっちの助産婦は赤ん坊を取り上げる前に何とかの薬草を煎じた水で手を洗うようにしている、とかいう習慣でもあれば、アウトだ。

助産婦以外では、ロクサーヌに楽器を弾かせるか歌い手をやらせて楽団結成とか。

俺の知っている現代の名曲がこの世界でも名曲であるならば、いける。

流行曲、オールディーズ、童謡、唱歌、クラシックの小品など、知っている曲は百や二百ではきかない。多分一生困ることはないだろう。

俺自身は、楽器も弾けないし楽譜も読めないから、難しいだろうが。

全部ロクサーヌ頼みというのが情けない。

パーティーメンバーのジョブを変えられることが分かったので、最悪、それを仕事にできるかもしれない。

本当に最悪の場合だが。

ジョブ変更を仕事にするなら、一部とはいえ俺の能力を明かすことになる。

能力を狙って近づいてくる者がいたり、あるいはトラブルに巻き込まれるおそれもある。

できれば、やめておいた方が無難だ。

結局、迷宮で稼ぐことが一番堅実か。

俺の能力的にもそうだろうしな。

メリットもある。

迷宮に入ってレベルを上げたり、新しいジョブを得たりしていけば、もしものときに役立つだろう。

迷宮がことさらに危険なわけでもない。

と考えてしまうのは、慣れによって思考がたるんでいるだろうか。

しかし、早急に下に、じゃなかった上に行こうなどと考えなければ、今のところそう危険でもないように思う。

じっくりとレベルを上げながら、ゆっくりと上がっていけばいい。

なんならずうっと低階層にとどまってもいい。

一日で数千ナールは稼げるから、生きていくのに支障はないはずだ。

「今後のことはそれでいいとして、後は住むところくらいか。ホテル暮らしをするより、どこかで部屋でも借りた方が安くすむか?」

考えごとをつぶやきながら、ロクサーヌに尋ねた。

「そうですね。詳しくは知りませんが、部屋を借りるなら一年契約で一万から三万ナール。五万ナールも出せば大きな一軒家が借りられると思います」

「そうか」

高いが安いのかはよく分からないが、宿に住むよりは安い。

宿代を一日二百五十ナールとして三百六十五日なら九万ナールを超える。

パーティーメンバーを増やすことを考えればさらに跳ね上がるだろう。

「掃除などは私がいたしますから」

「あー、なるほど。ロクサーヌにはちょっと迷惑かけるね」

「いいえ。かまいません」

ホテル暮らしなら雑用も掃除も従業員任せである。

ロクサーヌは奴隷兼メイドだから、負担をかけることにはなる。

もちろん俺もやるが、掃除機も水道も洗濯機もないこの世界では手間も膨大だろう。

「ロクサーヌって、料理はできる?」

「はい。多少の料理ならできると思います」

奴隷兼メイド兼コック決定。

「そういえば、所有者は奴隷に食事と住む場所を提供する義務があるそうだけど、宿屋でも、家を借りても大丈夫なの」

「はい。もちろんです」

「一緒のベッドでも?」

声を落とし、抱きついてみる。

「は、はい。むしろありがたいくらいです」

これはロクサーヌに言わせたかった。

ちょっといじわるだったかな。

床に寝かせられると思っていたらしいし、まあこう答えるだろう。

抱きついたので、柔らかく豊かな弾力が腕に当たる。

服の下にはノーブラの隆起が。

いかん。

このまま押し倒したいが、なるべく押し倒したりしないようにすると言ってしまった。

なんであんなことを言ってしまったのだろう。

「一年って何日?」

「えっと。三百六十日と何日かです」

しょうがないので質問を続ける。

ロクサーヌの説明によると、一年は四つの季節からなり、春夏秋冬で各九十日。季節と季節の間に一日か二日の休日が入るそうだ。

一日だったり二日だったりするのは閏日ということだろう。

すると一年は三百六十四日とプラス何日かで、地球とほぼ一緒か。

今は春に入って間もない時期だとか。

正確な日付は知らないらしい。

一年が三百六十五日あるなら、やはり部屋を借りた方がいいだろう。

「俺が部屋を借りるとして、どこでも借りられるのか」

「ある程度大きな町なら大丈夫だと思います」

「なるほど」

村やなんかだと、よそ者には厳しいところもあるのだろう。

「ただ、探索者ならクーラタルか帝都に住む人が多いと聞いています」

「クーラタルか。聞いたことはあるような」

「クーラタルには大きな迷宮があります。私も一度行ったことがありますが、探索者相手の店があって便利です。ご主人様の場合は、魔法があるのでどこに住んでもいいと思いますが」

魔法というのは、ワープのことだろう。

迷宮にワープで行くとすれば、確かにどこに住んでも問題はない。

「だが一つ忘れてるな。魔法を持っていることは知られないようにしたい。探索者が住んでもおかしくないところに住むべきだろう」

迷宮があるなら、探索者がクーラタルに住むことはおかしくないだろう。

一度行ってみるか。

金貨が残り五枚あるので、五万ナールなら払える。

三割引は効かなそうだ。

二年契約なら効くだろうか。

十万ナール用意できるまで様子を見るか。

しかし、今後どうなるか分からないのに二年契約はリスクが大きいか。

二年契約にすれば三割引が効くと決まったわけでもない。

一年契約で様子を見た方がいいかもしれない。

あれ。しかし税金もあるのか。

「そういえば、税金について聞いてなかったな。税金はどうやって払う」

「……あ、あの。ぜ、税金は……」

ロクサーヌが答えにくそうにしている。

「なんか悪いこと聞いた?」

「すみません。何も問題ありません。私は両親が死んだ後、叔母の家で厄介になっていました。今年は家族全員分の税金を払えなかったので……」

「そっか」

税金を用意できなかったのでロクサーヌが売られたということだろう。

年貢が払えないから娘を売るとか、時代劇だけの話かと思っていた。

ロクサーヌの頭をなでる。

安心させるように、ゆっくりとなでおろした。

「税金は人頭税です。毎年冬に領主に支払います。ご主人様は自由民なので十万ナール、奴隷は一万ナールです。ご主人様の今年の分は、多分誰かが払ったのだと思います」

「なるほど」

払ってないと思うけどね。

勝手に解釈してくれる分にはありがたい。

税金は二人分で十一万ナールか。

今は春に入って間もない時期ということなので、時間はある。

問題ないだろう。

なでていたロクサーヌの頭を引き寄せる。

「ええっと。あの。こうしてご主人様に仕えることができたのですから、私としてはよかったと思います」

ロクサーヌが俺の肩にもたれかかった。