軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ジョブ

いろいろ聖句を唱えてみたが、回復職のジョブは獲得できなかった。

まあ考えてみれば当たり前か。

そんな簡単に獲得できるなら、そもそも修行が行われるはずがない。

聖句といってもおまじないみたいなもんだしな。

しかし、この世界では魔法もスキルも呪文で起こす。

おまじないだと馬鹿にはできないだろう。

ジョブ取得に合った呪文があるかもしれない。

なんか他にないだろうか。

「そういえば、僧侶になるには魔物を素手で倒す修行をするそうです。それなら私にもできそうだと考えたことを覚えています」

悩む俺にロクサーヌがヒントをくれた。

早く言ってよロクサーヌ、と思ったが、口には出せない。

私にもできそうなのか。

魔物を素手で倒す、ってどんだけ。

ロクサーヌって実はとっても恐ろしい娘なんじゃないだろうか。

しかし、魔物を素手で倒すというのはありだ。

剣士のジョブは、多分剣で戦ったから得た。

剣で戦うことで剣士のジョブが獲得できるのなら、素手で戦うことで得られるジョブがあってもいいだろう。

素手で戦うのが僧侶か。

あるいは僧侶が駄目でも、闘拳士みたいなジョブがあるかもしれない。

試してみる価値はありそうだ。

いろいろと問題はある。

戦うといっても、一度でいいのか、倒さないといけないのか。

倒すとして、最初からなのか、とどめだけさせばいいのか。

最初からとして、一人で戦うのか、パーティーを組んでもいいのか。

とりあえずやってみるより他はない。

俺は部屋のドアを開けた。

ロクサーヌから返ってきた木の桶を入れ、リュックサックを背負う。

銅の剣を腰に差して準備終了だ。

あ。まだパーティー組んでなかった。

パーティー編成と念じる。

「パーティーの編成って、どうやるんだ」

「さあ。確か、探索者のスキルにあると思います」

「まあそうだが」

独り言だったのだが、ロクサーヌが返事をしてきた。

ロクサーヌをパーティーに編入すると念じてみる。

「あっ」

お。いったらしい。

ロクサーヌが小声をあげた。

ロクサーヌがパーティーに入ったのが俺にも分かる。

このパーティーには、俺はデフォルトで入っているのだろうか。

俺をパーティーに編入すると念じてみたが、何も起こらなかった。

まあ俺が作ったパーティーだからな。

不安だが、とりあえず大丈夫だろう。

ロクサーヌがパーティーに入ったのが分かったのは、俺がすでにパーティーメンバーだったから、と考えるのが妥当だ。

「パーティーの効果って何だ?」

「移動魔法はパーティーに入っていれば一緒に移動できます。パーティーメンバーが見えなくなったときにも、どの方向にいるかが大体わかります。あと、経験を共有すると言われています」

「共有ねえ」

経験値がならして入ってくるということだろうか。

「貴族の子どもが生まれると、赤ちゃんを入れた六人でパーティーを組み、家臣の五人が迷宮に入ります。五人の経験によって赤ちゃんも成長するとされています」

汚いさすが貴族きたない。

「あれ? それなら大人になっても、別に迷宮に入る必要はないのでは」

「複数の家臣団を使い分ける人はいるそうです。ですが、まったく入らないという人は」

まあそうか。自身が迷宮に入らないなら、何のためにレベルアップするのかってことだよな。

「家臣団だけを迷宮に入れて、そのあがりで暮らすとか、可能?」

「えっと。あの……その……」

「あ、いや。別にロクサーヌだけを迷宮に入れるつもりはないから」

言ってから、意味するところに気がついた。

奴隷を迷宮に入れて、その稼ぎで左うちわという手もあるのか。

まあ難しいだろうけどな。

適当にサボって働かないだろうし。

「探索者のレベルを上げるのに使えるかもしれませんが、あまりそういう話は聞きません。迷宮で見つけたものはその場にいた人が処分していいとされています。ですので、誰かを迷宮に送ってというのは」

無理らしい。

「なるほど。じゃあ、行くか」

「はい」

部屋の外に出る。

鍵をかけ、階段を下りた。

旅亭の男にいつもどおり鍵を預ける。

いつもどおり。いつもどおりだ。

「気をつけてな」

外に出た。

いつもどおり真っ暗だ。

「じゃあ、ちょっとついてきて」

念のため、ロクサーヌの手を取る。

宿屋の壁に向いて、ワープと念じた。

そのまま入っていく。

「え? あ、あの」

ロクサーヌの手を引っ張って、迷宮一階層に抜けた。

ロクサーヌもすぐに現れる。

「大丈夫のようだな」

「え? え? え? ここは、迷宮?」

ロクサーヌは少し混乱したようだ。

しかし、周囲を見てここが迷宮であることを理解すると、すぐに表情を引き締めた。

真剣な顔つきになる。

宿屋で迷宮の話になったときにも見せた、ちょっと怖いくらいの表情だ。

「ベイルの町のすぐ外にある迷宮の一階層だ」

「ですが、ダンジョンウォークは迷宮の中でしか使えないはずでは……。フィールドウォークならあの場所でも使えますが、迷宮の中には入れないはずですし」

なるほど。

フィールドウォークは迷宮内に飛べないと。

まあそうなんだろう。

でなければ、冒険者と探索者が同じパーティーにいた理由がない。わざわざ冒険者ギルドの壁にフィールドウォークしてくるのではなく、直接迷宮に移動した方が早いだろうし。

「やっぱそうなんだ」

「そもそも、ご主人様は探索者でしたので、フィールドウォークは使えないはずです」

ロクサーヌは俺のインテリジェンスカードを見たから、俺が探索者であることは知っている。

「これはワープという移動魔法だ」

「聞いたことがありません」

ボーナス魔法はあまり知られていないらしい。

「俺以外に使えるやつは少ないかもしれん、だから内密にな」

「は、はい」

「頼む」

ロクサーヌを無理矢理納得させた。

「ご主人様、すごいです」

強引だが、分かってくれたらしい。

ロクサーヌがちょっと尊敬したまなざしを向けてくる。

「そうでもない」

美人に見つめられるのは悪くない。

アイテムボックスから皮の帽子を取り出し、キラキラした瞳で見てくるロクサーヌの頭に乗せた。

皮の帽子がイヌミミを隠す。ちょっともったいないが、安全第一だ。

もう一個は自分でかぶった。

「えっと。アイテムボックスの使い方も、少し違うみたいなのですが、それも異なる魔法なのでしょうか」

「いや。これはただのアイテムボックスだ」

「そうですか」

皮のミトンを出してロクサーヌに渡す。

着けるのを見計らって木の盾も持たせた。

皮のグローブは自分でつけて、ワンドを出し、準備完了だ。

ロクサーヌがワンドを見て変な顔をしたような気がした。

しかし何も言わない。

やはり主人に対して遠慮があるのだろうか。

「ワンドは魔法使いが使う武器か?」

「はい。そう聞いています」

「魔法攻撃力が上がるかどうか、知ってるか」

「さあ。すみません。詳しいことは知りません。魔法使いの知り合いがいなかったので」

魔法使いは金持ちじゃないとなれないみたいだしな。

「ふむ。知力は知っているか?」

「頭のよさのことでしょうか」

「いや。まあそうなんだが……」

どういえばいいのだろう。

「知能のこととか」

「魔法攻撃力を上げるのは、知力か?」

「頭がよいと魔法攻撃力が上がるのですか?」

質問で返されてしまった。

ステータスやパラメーターという知識はないのだろうか。

「レベルが上がると知力とかが上がるよな」

「レベルというのは、探索者のレベルのことでしょうか」

「まあそれでもいいけど」

「探索者のレベルが上がっても、別に頭がよくなるとは思えませんが」

話が通じないというか何というか。

知力のことは諦めて、他のことを訊くか。

「うーんと。ロクサーヌって、どこかの迷宮に入ったことある?」

「はい。三箇所くらいですが」

「迷宮って、どこもこんな感じ?」

迷宮についての情報収集をする。

迷宮について知っていることを全部教えてくれ、でもいいが、さすがにそれは答えにくいだろう。

具体的に尋ねた方がいい。

「そうです。ご主人様は探索者なのですから、知っていると思いますが」

「……いや。あんまり数は入ってないから」

「そうですか」

やっぱり全部教えてくれがよかったか。

「えっと。この部屋は魔物とか出ないよね」

「ダンジョンウォークで移動できる小部屋には魔物が出ません。ご主人様の魔法がどうかは分かりませんが」

「それなら大丈夫。ここは一階層の入り口入ってすぐの部屋だから」

俺はロクサーヌに後ろの黒い壁を示した。

入り口や他の階層との通路となる壁だ。

「はい。そのようですね」

「じゃあここから出るけど、最初はいろいろと実験につき合ってもらうから、ロクサーヌが戦うのは後になると思う。あんまり緊張しないで」

「かしこまりました。私のことならば大丈夫です」

なんか本当に大丈夫そうだ。

というか、俺より落ち着いているよな。

ロクサーヌに告げた実験というのは、簡単なテストだ。

キャラクター再設定でボーナスポイントをパラメーター上昇に振った場合にどうなるか。

今まで資金作りのため探索優先でやってきたので、試していなかった。

まずは知力上昇に99ポイント振っておく。

キャラクター再設定と念じて、操作した。

ついでに、ボーナススキルに目がいく。

ボーナススキルの中に、レベル制限解除、ダメージ限界解除、パーティー項目解除の三つの解除が仲よく並んでいた。

レベル制限解除とダメージ限界解除は、なんとなく分かる。

探索者Lv27程度の低レベルで引っかかることはないだろうから、ほうってある。

しかし、パーティー項目解除とは何だろうか。

ソロのときは問題にならなかったが、今はロクサーヌとパーティーを組んでいる。

何かの制限に引っかかるかもしれない。

キャラクター再設定のついでに、パーティー項目解除にチェックを入れた。

キャラクター設定画面がリフレッシュされる。

新しく、いくつかの項目が導入されたようだ。

ボーナス魔法に、パーティライゼイションが入っている。

何だろう。パーティー化?

誰かをパーティーに入れるのか。

それはパーティー編成か。

とりあえずチェックを入れてみる。

ボーナススキルにも変更があった。

ジョブ設定が変化して、パーティージョブ設定になっている。

チェックは入っていない。未取得のようだ。

チェックを入れ、パーティージョブ設定を取得した。

かかったボーナスポイントは、思ったとおり2ポイントだ。

キャラクター再設定を終了し、パーティライゼイションと念じる。

使い方が分からない以上、試してみるより他はない。

頼りないが、危険な魔法ではないだろう。

念じると、何かを求められるのが分かった。

その何かは、おそらくアイテムだろう。

アイテムの効果をパーティー全体に施す魔法ではないだろうか。

「ロクサーヌ、何か変わったことあった?」

「何でしょうか」

ロクサーヌの方には特に変化はないらしい。

使用者の方にしか変化はないようだ。

まあ当然か。

次に、ロクサーヌを見てパーティージョブ設定と念じる。

ジョブが浮かんできた。

獣戦士Lv6、村人Lv8、農夫Lv1、戦士Lv1、剣士Lv1、探索者Lv1。

これがロクサーヌの持っているジョブなのだろう。

ちゃんと変更もできるようだ。

盗賊系のジョブを持っていないのは偉い。

生まれてこのかた盗みなどはしていないということだから。

獣戦士 Lv6

効果 敏捷中上昇 体力小上昇 器用小上昇

スキル ビーストアタック

獣戦士は効果もいいらしい。

このままでいいか。

パーティーメンバーのジョブを変更できるのは、使い方次第でかなり強力なスキルになるだろう。

残念なことに、キャラクター再設定はパーティーキャラクター再設定にはならなかった。

「じゃあ行こうか」

「えっと。魔結晶を貸していただいた方がいいと思うのですが」

小部屋の外に出ようとした俺をロクサーヌがとどめる。

「え? 何?」

「魔結晶です」

「魔結晶?」

ロクサーヌがうなずいた。

「えっと。魔物は魔力からできています。魔物を倒すと、その魔力が魔結晶に少しずつたまっていくのです。たまった魔力は、売却するとギルド神殿などのエネルギー源になります」

「それを貸すというのは」

「魔結晶を持っていなければ、魔物を倒しても魔力はたまりません」

なんかやらかしちまったらしい。

今までそんなものは持っていなかった。

「つまり、魔結晶を持っていれば魔物を倒すたびに魔力がたまると」

「はい」

「ひょっとして、魔結晶って高く売れるのか?」

「そうですね。迷宮で手に入る品の中で、一番高く売れると思います」

な、なんだって。

「……そうなのか」

「あ、いや。高くは売れますが、魔力は本当に少しずつしかたまりません。魔結晶を売るのは一生のうちに何度もありません。今まで持っていなかったとしても、大きな損失にはなりません。大丈夫です」

落ち込む俺に気を使われてしまった。

「魔結晶はどうすれば手に入る」

「迷宮で拾うこともありますし、探索者ギルドへ行けば、魔力を使った残りを売ってもらえます」

「では後で買いに行くか。迷宮ではそれらしいものは見なかったが」

ここでは魔結晶なんかは見ていないと思う。

あるいは、見ても知らないのでスルーしていたのか。

「この迷宮は、見つかってまだ新しいのではありませんか」

「そう聞いた。まだ十何日しか経ってないらしい」

「それでは魔結晶はないかもしれません。魔力がたまって結晶化するのに時間がかかるので」

見過ごしたわけではなさそうか。

「迷宮で金を稼ぐのに、魔物が残したアイテムと魔結晶の他に何か方法はあるか」

「宝箱があります」

あら。やっぱり宝箱はあるのか。

「見たことはないと思うが」

「新しい迷宮では少ないでしょう。あるとしても、上の方です」

「上?」

「はい。探索が進んでいる最前線の辺り、初めて人が来たところになら、あると思います」

下じゃなくて、上なのか。

迷宮は地下に広がっている、というイメージだったのだが。

いろいろと齟齬があるものだ。

「まあいいや。さて、どっちに行こうか」

二階層へ行くのは右だが、別に探索が目的ではない。

なら、真ん中へ行ってみるか。

外に出ようとすると、ロクサーヌが押しとどめた。

「ご主人様、魔物が近くにいる方なら左です」

「え? 分かるの」

「はい。においがします」

なにそれ。

「狼人族だから?」

「狼人族の中でも私は特に鼻が利きます。魔物を探知するのは得意です」

「すごい」

「ありがとうございます」

左右と前に伸びる三本の通路のうち、左の洞窟を進む。

一分も歩かないうちに、ニードルウッドが現れた。

ロクサーヌ、すごい。

見てよし、ベッドでよし、迷宮でよし。

三拍子そろっている。

「ほんとにすごい」

「来ました」

「いや。ちょっと待て」

ニードルウッドに向かおうとするロクサーヌを止める。

ファイヤーボールと念じた。

「え?」

ロクサーヌが不審の声を上げる。

俺の頭の上に火球が現れた。