軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

催眠

「では、これは土産に渡しておこう」

帰り際、公爵がお土産を渡してきた。

ドワーフ殺しの壷だ。

二本ある。

多分帝国解放会のロッジで見たのと同じやつだろう。

ロッジから入手したのだろうか。

まあ製造元が同じなら同じになるか。

「ありがたく」

「余らの中に飲めるものはおらんのでな」

ドワーフ殺しはセリーのために用意したのだろう。

ロッジでセリーが飲み干したのを公爵も見ている。

夕食会でセリーがドワーフ殺しを飲まなかったのはまずかっただろうか。

と思ってしまうのは日本人だけで、この世界だと関係ないだろうか。

四日後にまた来るのにどうさせるべきか。

あれ。

しかし考えてみれば、四日後にまた出すつもりなら土産に渡すことはない。

四日後に出てくることはないか。

「では」

壷はセリーに持たせ、家に帰った。

今日は風呂を沸かさなかったので、お湯で体だけ拭いて、寝る。

寝る前のお楽しみは、もちろん欠かさなかったが。

翌日、朝食の後で商人ギルドに赴いた。

受付でルークを呼び出し、会議室に入る。

「こちらが羊のモンスターカードでございます」

「確かに」

落札金額の四千三百ナールを支払って、羊のモンスターカードを受け取った。

「実は、昨日私が落札してから交渉を持ちかけてきた仲買人がおりまして。羊のモンスターカードを一枚持っているので、五千ナールで売却してもよいとのことでございます」

「もう一枚か」

そういう話が出てくることもあるのか。

落札したということはそのモンスターカードを欲しているということだ。

あまっているカードがあるなら、落札した人に売ってしまえばいい。

ちょうど落札したモンスターカードで融合に成功してしまうこともありうるが。

「今回、私は手数料をいただきませんので、悪い話でもないと思います」

落札金額は四千三百でも、ルークに入札手数料五百ナールを払う。

合計四千八百だから、五千ナールで買えるなら増加分は二百ナールだ。

「それではルークにうまみがないだろう」

「このくらいのことは当然のサービスとしてさせていただきます」

あるいはキックバックがあるのかもしれない。

仲買人がただで働くとも思えない。

とはいえ、二百ナールの増加なら許容範囲か。

「そうか。悪いな。ではそのカードも買い取ることにしよう」

「返事はモンスターカードの融合を行ってからでかまいませんが」

「大丈夫だ。融合の成否にかかわらず、購入させてもらう」

「分かりました。今日のうちに用意させますので、明日の朝にまたいらしてください」

購入する意思を伝えて、商人ギルドを出る。

帰りにはロッジと武器屋を回って、めぼしい武器がないことを確認した。

やはりレイピアに融合するしかないか。

武器屋で空きのスキルスロットつきのレイピアと鋼鉄の剣を購入して帰る。

家に帰り、モンスターカード二枚とレイピアをセリーに渡した。

セリーも今や不安がることなく、あっさりと融合させる。

「催眠のレイピアか。さすがはセリーだ」

コボルトと羊のモンスターカードを融合したレイピアは催眠のレイピアというらしい。

スキルの方も催眠というスキルがついている。

「ありがとうございます」

「では、これはロクサーヌに」

催眠のレイピアはロクサーヌに渡した。

「レイピアなら持っていましたが」

「そっちはあまりよくないのでな。これからはこれを使ってくれ」

「はい。ご主人様、本当にありがとうございます」

ロクサーヌが押し頂くように受け取る。

ロクサーヌが今まで使っていたレイピアには空きのスキルスロットがないからしょうがない。

「ベスタはこれを」

三割引対策で買った鋼鉄の剣もベスタに渡した。

「よろしいのでしょうか」

「せっかくの機会だし、少しずつ強化していくのがいいだろう」

「はい。ありがとうございます」

ベスタも嬉しそうに受け取る。

二人とも喜んでくれたようだ。

ロクサーヌに至っては、うっとりと剣を眺めている。

そんなに嬉しかったのだろうか。

「満足してくれたようでよかった。セリーもありがとな」

「ロクサーヌさんは狼人族ですから」

「そう、か」

「眠ってしまった魔物にはビーストアタックなどの強力なスキルを叩き込むのがセオリーです。そのため、狼人族にとって睡眠状態に陥らせる武器への憧れは強いそうです」

首をひねった俺にセリーが小声で教えてくれた。

睡眠状態の魔物を攻撃すると目覚めてしまうから、ビーストアタックのようなより威力のある攻撃を叩き込むということか。

ビーストアタックは狼人族の種族固有ジョブである獣戦士が持つスキルだ。

詠唱も必要だしタメが大きいが、眠っている相手になら関係なく使える。

確かに獣戦士と睡眠状態を引き起こす武器とは相性がいいだろう。

ひいては、狼人族全体にとって睡眠状態に陥らせる武器への憧れが強いと。

セリーはすべて知った上で、羊のモンスターカードをロクサーヌの武器に融合するよう勧めてきたわけだ。

ありがたい。

そっとセリーの頭をなでる。

うちのパーティーでは状態異常を引き起こすのはミリアの役目だ。

セリーが何も言わなければ、催眠のスキルは硬直のエストックにつけただろう。

ロクサーヌのことだから文句は言わないだろうが、心中には何かが鬱積したかもしれない。

それなら最初はロクサーヌの剣に融合してやるのがいい。

「では、迷宮へ行くか」

いつまでも剣を眺めているロクサーヌを促し、クーラタルの二十七階層へ移動した。

小部屋を出てボス部屋へと向かう。

かと思ったら、ロクサーヌが違う方に進みだした。

「こっちですね。すぐ近くにいます」

近くに魔物がいるようだ。

寄り道して狩っていく。

シザーリザード二匹にケープカープ、ブラックフロッグの団体だ。

サンダーストーム、ダートストーム、サンドストームの三連打で迎え撃った。

ボス戦ではないので、博徒はつけていない。

代わりに魔法使いをつけている。

四人も走り出した。

ロクサーヌが催眠のレイピアをかざして駆ける。

ミリアは右のケープカープに突っ込んでいった。

中央のシザーリザード二匹をロクサーヌが、右のケープカープをミリアが、左のブラックフロッグをベスタが相手にするようだ。

ロクサーヌがシザーリザードにレイピアを突き入れる。

最初の一撃では、どの魔物の動きも止まらなかった。

俺の雷魔法も含めて。

振り下ろされたはさみを避け、ロクサーヌがカウンターを繰り出す。

これも駄目か。

シザーリザード一匹は、続く俺の雷魔法で動かなくなった。

残った一匹にロクサーヌの攻撃が集中する。

シザーリザードのはさみが力なく垂れ下がった。

寝入ったらしい。

睡眠だ。

立ったまま、頭部と腕を下に向けている。

こんな風になるのか。

ロクサーヌは次にベスタが相手をしているブラックフロッグにちょっかいをかけた。

麻痺しているシザーリザードが追加で睡眠状態になるかどうかは分からない。

いずれにしてもまだ動ける魔物を相手にするのが正解だ。

「やった、です」

ケープカープはミリアが始末する。

ミリアは、石化したケープカープと眠っているシザーリザードの間のわずかな隙間に体を押し込んだ。

器用に向こう側に抜ける。

「サンダーストーム」

その途中、警告を発して俺が魔法を放った。

魔法の名称を叫ぶのは中二病っぽいが、これは警告のためだ。

近くにいるときに目を覚まされてはたまらない。

俺の魔法を浴びて、シザーリザードが目覚める。

頭を上げ、はさみを持ち上げた。

しかし実際には三連打であったため、そのまま倒れる。

シザーリザード二匹を片づけた。

残ったブラックフロッグに攻撃が集中する。

カエルはミリアの攻撃によって動きが止まった。

報告がないから麻痺のようだ。

ここまできたら麻痺でも十分だろう。

続く三連打で、残った二匹も始末する。

魔物はこちらに有効打を浴びせることなく全滅した。

倒すまでに一回睡眠を発動させたし、催眠のレイピアの使い勝手もまずまずというところではないだろうか。

もっと回数をこなしてみるまで、はっきりとは断言できないが。

今回は雷魔法による麻痺も一匹しか引っかからなかった。

そういうこともある。

「セリーの言うとおり、睡眠は発動しやすいのかもな」

「そうですね」

「ビーストアタックが使えないのが残念です」

セリーと会話していると、ロクサーヌも話に加わってくる。

「回復役も必要だからな」

「はい。回復はおまかせください」

ロクサーヌのジョブは巫女にしているが、そっちも必要だからしょうがない。

別にロクサーヌも獣戦士にこだわりがあるわけではないようだ。

「それより、どの魔物の相手をするか、複雑ではないか?」

睡眠が入ってくると、どの魔物を攻撃するのかが少し複雑にはなる。

魔法攻撃で解除されてしまうし。

「問題ありません」

その辺は前衛に任せておけばいいか。

その後、夕方まで二十七階層のボス戦を繰り返した。

睡眠は、発生回数で比較すれば雷魔法による麻痺の発生回数といい勝負だ。

ロクサーヌの方が手数は多いが、サンダーストームなら魔物全部を一度に攻撃できるので、一匹に一回攻撃するあたりの発生確率は麻痺より睡眠の方がいいだろう。

睡眠はかかりやすいというのもうなずける。

ただし、魔法攻撃によってすぐに解けてしまうから、そこまでありがたい状態異常でもない。

ないよりはあった方がという程度か。

それでも、戦力アップになっていることは間違いない。

「二十七階層のボス戦を二日繰り返した。明日は二十八階層のボス戦へ行っても大丈夫だろうか」

「もちろん何の問題もありません」

「問題はないでしょう」

「はい、です」

「大丈夫だと思います」

夕食のときに確認したが、慎重論はまったく出なかった。

しょうがない。

セリーも、ドワーフ殺しは飲みはじめだったから、判断に狂いはないはずだ。

夕食後は、終日機嫌のよかったロクサーヌとドワーフ殺しの壷二つを空けたセリーのおかげで素晴らしいひと時を。

色魔のジョブがあって心からよかったと思える一夜だ。

こんなに嬉しいことはない。

俺にはまだ帰れるところがある。

翌朝、クーラタル二十八階層のボス部屋に入った。

最初のボス戦で現れたのはサイクロプスが二匹とシルバーサイクロプスだ。

ミリアが向かった先のサイクロプスに状態異常耐性ダウンをかけた後、サンダーストーム二発をプレゼントする。

一発は風魔法にしてもいいが、状態異常狙いで戦うのだから雷魔法でいいだろう。

雷魔法でサイクロプス一匹が麻痺した。

ミリアが相手をするサイクロプスなのが残念だが、状態異常耐性ダウンをかけて麻痺しやすくなっているのだからこうなるのも当然か。

雷魔法二発の後、ボスにも状態異常耐性ダウンをかける。

ボスは、ロクサーヌが待ち受け、相手をした。

ボスは睡眠状態になりにくいのではないかと思う。

昨日は二十七階層のボスと何度も戦っているが、眠ったことは多くない。

睡眠だけでなく、俺の雷魔法で麻痺することも少ない。

おそらく、状態異常耐性ダウンと暗殺者の状態異常確率アップが両方そろってようやくちょぼちょぼというところなんだろう。

しばらくはボス戦メインで戦っていくのだから、催眠のスキルをロクサーヌの剣につけたのは失敗だったか。

それはしょうがないか。

「やった、です」

麻痺したサイクロプスを放置してボスにちょっかいをかけていたミリアがボスを石化させた。

やはりボス戦ではミリアの活躍がでかい。

これで峠は越えた。

安心して気を抜いてはいけないが。

ベスタが相手をしていたサイクロプスが雷魔法で麻痺するが、入れ替わりに麻痺していたサイクロプスが動き出す。

ロクサーヌが催眠のレイピアを突き入れた。

サイクロプスが目を閉じてうなだれる。

睡眠だ。

状態異常耐性ダウンもかかっていたし、一撃だった。

「サンダーストーム」

警告してから、雷魔法を放つ。

これは警告だ。

あくまで警告のためである。

中二病とは違うのだよ、中二病とは。

魔法攻撃で解除される睡眠はいろいろと厄介だ。

サイクロプスが目覚める。

目覚めたサイクロプスはすぐにミリアによって沈黙させられた。

残った一匹もミリアが石化させる。

二十八階層のボス戦も問題はないか。

ボス戦に関しては、ミリアの石化がどこまで通じるかの勝負になりそうだ。

少なくとも三十三階層までは。

クーラタル二十九階層の魔物は、モロクタウルスだった。

モロクタウルスのいたハルバーの二十七階層は途中までしか探索していないから、ここのボスは初見ということになる。

慎重に進んでいかなければならない。

モロクタウルスLv29自体は問題なかった。

戦闘時間が多少延びた程度だ。

ダメージ逓増のスキルが効いているのかどうかは分からない。

効いているのだろう、ということにしておこう。

通常通り二十九階層で探索するなら遊び人のスキルをモロクタウルスの弱点である中級水魔法にセットできるから、もっと楽になる。

ただ、その分の恩恵は考えない方がいいか。

他の迷宮の二十九階層に行けば魔物は違う組み合わせになる。

雷魔法もこれはこれで使い勝手がいいし。

特に魔物の数が多い場合は麻痺も出やすい。

朝まで狩を行い、朝食後に商人ギルドに飛んだ。

ルークを呼び出すと、すぐに出てくる。

「先方はギルド神殿でお待ちです。私は所用があり紹介したらすぐに去りますから、後はご随意にお取引なさってください」

あ。ギルド神殿か。

モンスターカードの購入はギルド神殿でカードの種類を調べるのだ。

使用料の百ナールは俺持ちになる。

増加分は三百ナールだった。