軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

容量

「このたびは羊のモンスターカードをご購入いただけるそうで、ありがとうございます」

ギルド神殿のある部屋に行くと、防具商人の男が待っていて、頭を下げた。

この防具商人が羊のモンスターカードを売ってくれる仲買人らしい。

がめつそうな顔つきのあくどそうな男だ。

「いや。こちらとしても都合よかった」

「モンスターカードの融合はなかなか大変でございますから」

適当に挨拶すると、防具商人が顔をいやらしく歪める。

落札した一枚めのモンスターカードの融合に失敗したと思ってやがるな。

ちゃんと成功したよ。

言わないけど。

こっちから嘘をついたわけではないし、失敗したと思わせておけばいい。

セリーも文句は言わないだろう。

肩をすくめ、ルークを見た。

「彼は、私と同じ防具商人で、オークションの仲買人をやっております。ギルド神殿を二回使うのも無駄ですし、本日は直接の取引をお願いします。こちらが、懇意にしていただいている冒険者で、羊のモンスターカードを希望しておられるお方です」

ルークが俺と防具商人を紹介する。

モンスターカードをこの防具商人からルークが購入し、さらにルークから俺がそれを引き取ると、ギルド神殿での確認作業が二回必要になる。

俺が買うときに本当は確認はいらないが、普通は必要だ。

直接の取引ならその分のコストが浮くということか。

「お客様、よろしくお願いします」

「よろしく」

「それでは私はこれで」

紹介を済ますと、ルークは宣言どおりギルド神殿のある部屋を出て行った。

本当に用事があるのか。

それとも立ち会う必要はないということか。

「実はここだけの話、羊のモンスターカードは二枚所持しております。なんでしたら二枚ご一緒にいかがでしょう」

ルークが消えると、防具商人がその顔をさらに歪めて商談を持ちかけてきた。

「二枚か」

「二枚めの方は四千九百ナールで提供させていただきます」

なるほど。

この男が何か言ってルークを立ち去らせたのかもしれない。

ギルド神殿を二回使うのは無駄だから直接取り引きさせろときっとこの防具商人が提案したのだろう。

そして直接取引で二枚めも売ってしまおうという魂胆か。

この防具商人が自分が損をするような取引を持ちかけてくるとは思えない。

やはりルークに対してキックバックがあるのではないだろうか。

キックバックが百ナールか。

そんなわけはないな。

一枚めの五千ナールのうちの百ナールをルークに戻すなら、二枚めを四千九百で売ってもこの男にうまみがない。

ルークへのキックバックが二百なら、俺と防具商人で利益を折半することになる。

それもどうなんだろう。

このがめつそうな男が素直に折半するだろうか。

となると、ルークへのキックバックは三百以上。

あるいは手数料の五百ナールと同じくらいか。

ルークとしては、落札して俺に渡そうが紹介して引き合わせようが利益は変わらないということだな。

そう言ってこの防具商人が説得したのだろう。

「二枚もらうのも悪くはないが」

防具商人の様子を見ながら、考え込む振りをする。

それだけキックバックがあるなら、もっと下がるのではないだろうか。

「では、四千八百ではいかがでしょうか」

「もう一声」

「二枚めは四千七百でお譲りいたしましょう」

「よし。それで買おう」

がんばればもう少しいけたかもしれないが、これでいい。

引っ張りすぎて二枚めの売る気をなくされても困る。

なぜならば。

「ありがとうございます。それでは、一枚めと合わせまして、二枚もご購入いただけましたし特別に二枚で六千七百九十ナールとさせていただきます」

よっしゃ。

二枚になったので三割引が効いた。

欲をかいた仲買人にはいい薬だ。

何か言われる前に、さっさと金を払い、ギルド神殿の係員にも銀貨二枚を渡す。

防具商人も係員に促されてモンスターカードを二枚取り出した。

すぐに羊のモンスターカードであることを確認する。

確認したモンスターカードは素早くアイテムボックスに入れた。

「今回は世話になった」

防具商人に一声かけ、早々にギルド神殿のある部屋を後にする。

三割引を使いすぎるのも問題かもしれないが、今回はいいだろう。

逃げ帰るように家に戻った。

「お帰りなさいませ」

「羊のモンスターカードは手に入れたが、どうしようか」

家に帰ると、リビングに一人だけ残っていたセリーに相談を持ちかける。

ロクサーヌたちは掃除や洗濯だろう。

セリーは、本当なら俺が帰ってきた後モンスターカード融合の仕事がある。

「どの装備品に融合するか、ですか?」

「それもそうだが、今回は使わずに取っておくという手もある」

昨日今日と催眠のレイピアを使ってきて分かったことがある。

睡眠は魔法攻撃によって解除されてしまうので、俺の魔法攻撃を主体とするうちのパーティーとは相性が悪い。

一時しのぎにしかならない。

よくいえば、困ったときの一時しのぎにはなるということだが。

いざというときの緊急避難とか。

しかし現状、そこまで追い詰められる危険性はあまりないと思う。

「そうですね。取っておいて必要になったら防具に融合するという方策も有効です。ビープシープのいる階層までもうすぐです」

こちらを眠らせるスキルを使ってきたビープシープはクーラタル四階層のボスだ。

ボスは三十三階層上に出てくるから、ビープシープはクーラタルの迷宮三十七階層の魔物ということになる。

本当に二日で一階層ずつ上がっていくならすぐだ。

ただし、俺はそんなに簡単に上がっていけるとは思っていない。

三十四階層か三十五階層辺りでそれなりの壁があるのではないだろうか。

行ってみなければ分からないが。

分からないのだから、取っておくという手は悪くない。

「じゃあそうしておくか」

「はい。それがいいです」

コボルトのモンスターカードとの兼ね合いもある。

羊のモンスターカードは手元に残しておくことにした。

迷宮に入り、二日間クーラタル二十八階層のボス戦を繰り返す。

ボスとの戦いもいい感じか。

上の階層へ行くのに支障はないだろう。

夕食のときに聞いてみたが、やはり慎重論は出なかった。

「セリー、二十九階層のボスは何だ?」

「モロクタウルスのボスは、ボスタウルスです。火魔法に耐性があって水属性が弱点なのはモロクタウルスと変わりません」

「ボスタウルスか」

ボスがボスならまんまじゃねえか。

ただし、六十二階層まで行けば普通の魔物として出てくる。

ボスなのに。

「強烈な一撃を持っているそうなので、ロクサーヌさんにはしっかりと回避してもらわなければなりません」

「はい。大丈夫です」

ロクサーヌが自信ありげにうなずいた。

モロクタウルスのボスとは初見になるが、ロクサーヌが相手をするのだから心配することはないだろう。

翌朝、二十九階層のボス部屋に入る。

最初のボス戦で現れたのはボスタウルスにサイクロプスが二匹だ。

今回モロクタウルスは出てこなかった。

ミリアが向かった先のサイクロプスに状態異常耐性ダウンをかけ、サンダーストーム二発を撃ち込む。

サイクロプス二匹の動きが止まった。

おっと。

状態異常耐性ダウンをかけていない方のサイクロプスまでまとめて麻痺できたようだ。

「ロクサーヌさん、少し前へ」

セリーがロクサーヌを前進させる。

「はい」

「ベスタもそのくらいの位置で」

「分かりました」

サイクロプスが麻痺したのでボスを待ち受ける必要はなくなった。

ただし、麻痺が解けたときセリーの槍が届く位置にうまく誘導する必要がある。

その辺はセリーにまかせておけばいい。

俺はボスに状態異常耐性ダウンをかける。

ボスタウルスの前にロクサーヌが進んだ。

魔物の振り下ろしをロクサーヌが軽く身体をひねってかわす。

ボスタウルスもモロクタウルスと同様、二足歩行する牛人の魔物だ。

肩がいかつい。

全身は茶褐色の毛に覆われている。

白黒のブチでないのが残念だ。

凶暴に腕を振るうが、ロクサーヌがことごとくをかわした。

「やった、です」

ボスは、ロクサーヌが相手取っている隙にミリアによって石化させられる。

まだまだボス相手に石化が通用するようだ。

ボスタウルスは茶色だから石化すれば分かるかと思ったが、全然分からなかった。

麻痺と見比べたわけではないが。

ミリアも初見なはずなのにどうして石化と分かるのか。

いや。石化すると白くなるのだ。

色は茶色で変化はしていないと思うが。

俺には、白黒のモロクタウルスが石化で白くなっても分からない。

多分どこか白くなっているのだろう。

ミリアは、状態異常耐性ダウンをかけていたサイクロプスも石化させ、続いて残りの一匹に襲いかかる。

最後の一匹には状態異常耐性ダウンをかけていないし、今回はミリアの状態異常より先に俺の魔法でサイクロプスを倒した。

ボスはすでに石化しているから、サイクロプスの弱点の風属性で屠る。

サイクロプス二匹に続いて、ボスタウルスにアクアボールを撃ち込んだ。

「セリー、ボスタウルスってまれにしか残さない食材があるか?」

「はい。ボスタウルスは三種類の食材を残します。ロースの他、ときどき酪とごくまれにザブトンを残すそうです」

「そうか」

やっぱりレア食材があるのか。

というか三種類もあるのか。

博徒をはずして料理人をつけ、石化しているボスを片づける。

博徒をはずしたので状態異常耐性ダウンは切れるはずだが、すでにかかっている石化は関係ないようだ。

牛人が煙になった。

煙が消えると、肉塊が残る。

ロースだ。

はずれか。

いや、別にロースなら十分か。

ごくまれにしか残らないという食材は、三角バラも含めて本当にプレミアム食材なのかもしれない。

料理人のレア食材ドロップ率アップではドロップ率がアップしないという意味で。

どうなんだろうか。

それなら酪が残ってもいいのか。

まあ所詮一回の試技では傾向は計れない。

「ロースとザブトンはやはり見た目では違いが分からないそうです」

「出にくいというザブトンが一発めから残ることは考えにくい。ロースだろう」

残ったのは肉塊だが、鑑定でロースと出たのだからロースだ。

期待を持たせたら悪いので、悪い予想を告げておく。

「そうでしょうね」

セリーは冷静に判断してくれた。

ロースをアイテムボックスに入れる。

第三者的には、ロースかザブトンかはアイテムボックスに入るかどうかで判断することになる。

しかしアイテムボックスの容量が残り少ない。

ロースの他に二種類もドロップがあると、入らないかもしれない。

いや、入ることは入るが、そうするとはずした装備品を入れるスペースが。

まあ装備品をはずすのは迷宮から出るときだから、ジョブに探索者を追加してもいい。

そして次に迷宮に入ったとき、装備品を取り出してから探索者をはずすと。

めんどくさいな。

どうすべきか。

二十九階層でボス戦を繰り返すだけなら、料理人をつけるという手もある。

料理人ならアイテムボックスもあるし、レア食材ドロップ率アップに期待できる。

セブンスジョブまでぎっちり使うことにはなるが。

しかし今後もアイテムボックスに入れるものは増え続けるだろう。

冒険者のアイテムボックスは五十種類×五十個で固定なのが痛い。

今はまだ冒険者Lv42だから得しているとはいえ、将来増える見込みがないのはつらい。

冒険者Lv51になったら、五十一種類×五十一個とか。

無理だろうな。

聞いたことないし。

冒険者Lv51以上でアイテムボックスの容量が増えるなら、知られているはずだ。

「では行くか」

「クーラタル迷宮三十階層の魔物はハーフハーブです。火属性が弱点で、土魔法と風魔法と水魔法に耐性があります」

あ。上に行けば新しい魔物が出るのだ。

新しい魔物にはおそらく新しいドロップアイテムがある。

それを収めるためのアイテムボックス領域が必要だ。

食材以外のアイテムならリュックサックに入れてもいいが。

それもどうかという話だ。

アイテムは全部アイテムボックスに入れているのに。

今は装備品をアイテムボックスから出して装着しているから、容量はある。

迷宮から出るときに探索者をつけるか。

あるいはセブンスジョブまで拡張して常時料理人をつけるか。

料理人をつけるのはレア食材を残すボスを見越した二十九階層限定の一時しのぎだから、探索者をつけることに慣れておいた方がいい。

探索者の方にするか。

とはいえ、このままアイテムボックスに入れておくべきアイテムの種類が増えるなら、迷宮の外でだけ探索者をつけるのも一時しのぎにしかならない。

冒険者のアイテムボックスは拡張しないし、多分そのときは近い。

まあそのときが来たらそのときに考えよう。