軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9 イーサンという魔族

「ルーカスの下っていうと、もしかしたら黒髪で金色の目の人?尻尾の先が矢印みたいになってる」サラは召喚場所にいた推定悪魔を思い出した。

「はい。イーサンは地位の高い魔族で最後まで抵抗したらしいのですが、魔王様が封印されて降伏したそうです。ただ、降伏する代わりに魔王様の近く、この城の中で働かせるよう条件を出して、三百年前から王家に仕えています」

「三百年前から⁈ そっか、そういえば魔族は小説でもめちゃめちゃ長生きだったわ。アンナとか獣人はどうなの。やっぱり長生きなの?」

「獣人の種類にもよりますが、私たちは普通の人間と同じくらいです。亀族は長生きの者が多いですけど、百歳くらいですね。魔族は、力が強ければ強い程長いです」

「イーサンも魔力を抑えられてるのかな」

「そう思います。最初の聖女が、その為の魔道具を王家に授けたそうですから」

(どうも最初の聖女っていうのが、元凶みたいだな。魔王を封印したのも、その聖女だもんな。まんまと騙されたのか、自分が望んだのかは分からないけど)

考えていても埒が明かないので、サラはなんとかイーサンに話を聞きたいと思った。

「そうだ。私、試してみたい事があるんだけど」

「なんでしょう」

人の思っている事が分かるだけでなく、自分の思っている事も伝えられるかもと、サラはアンナを見つめて思いを言葉にしないで送ってみた。

『アンナはイーサンと話しをすることはあるの?』

「え、いいえ。私はイーサンのいる所に行く事はないので…」

言いかけた所で、アンナはハッと自分の口を押えた。

「サラ様。今、私にイーサンの事をお聞きになりましたか? 私、サラ様の声が頭に聞こえてきて」混乱するアンナに向かい、サラは浮かれて「アンナ。実験成功だよ。これ、テレパシーっていうの。私が伝えたいと思えば喋らなくても考えが伝えられて、相手の考えも読めるから、今度イーサンに会えたらこれで話をしてみる。

きっと、魔王の封印の秘密が分かるよ」とはしゃいだ。

実験も成功した事だし今日はここまでと、サラとアンナは一緒に届けられた夕食を食べ、入浴をし、用意されていた人生初の〈ネグリジェ〉で就寝した。

アンナは食事も入浴も遠慮したが、サラは「心細いから」と譲らず、結局最後には同じベッドに二人で入って眠りについた。

ベッドの寝心地は良く、さすがに疲れていたサラはすぐに眠りに落ちた。

しかし相当図太いと自認しているサラも不思議な事の連続だったせいか、異世界初日に不思議な夢を見た。

夢の中で、目の前に自分と同じ黒髪黒目の小さな男の子がいて、こちらに向かって手を伸ばしてくる。顔立ちを見ると彫が深くて日本人では無い事が分かる、すごく可愛くて綺麗な顔の子だった。『母上』と言っているようで、副音声と同じ様に頭に直接響いてきた。サラは『私はあなたのママじゃないよ』と答えたが、あんまり寂しそうだったので、つい自分も手を伸ばして抱き上げようとした。すると子どもの周りにある何かに弾かれ、子どもに手が届かなかった。

子どもが涙をこぼし、それが可哀想でもう一度手を差し伸べた所で目が覚めた。

目を開けると、まだ周りは暗かった。サラは隣ですやすやと眠るアンナを見て、今のは夢かと思ったが、どうしてもただの夢とは思えずにそっとベッドから出た。

そして部屋に付いているバルコニーのドアを押してみると開いたので、外に出た。

『聖女様』頭に直接呼びかける声が聞こえ、声の方を見るとイーサンという名だと分かったあの魔族が、バルコニーにかかるように生えている大きな木に座り、こちらを見ていた。

『聖女様。聞こえていますよね。私はイーサン。魔王様にお仕えする者です』

彼の金色の瞳の瞳孔が細長くなって、尾がゆらゆらと揺れる。それを見ていたら、サラは頭の中がぼんやりしてきた事に気づいた。

(これ、私を魅了しようとしてるのかも)

サラはフン!と気合を入れて正気を取り戻すと、イーサンへ向かって思い切り大声で念を送った。

『私は最初っからあんた達の味方だっつーの‼』

サラの大声テレパシーがダイレクトに脳に届いたイーサンは、魅了の術をかけようとしていた金色の目を閉じてしまい、術は霧散した。

今度は魅了なしでしばしお互いが見つめ合った後、サラがふっと笑って『あなたと話したかったから、来てくれてちょうど良かったわ』と伝えると、イーサンは用心深く『そうですか。あなたは今までの聖女と違っていれば幸いです』と返してきた。