作品タイトル不明
10 あいつらは滅さなきゃいけないね
イーサンはふわっと木から飛んで、サラのいる所まで降りてきた。
サラはここに二人でいるのを誰かに見られたらマズイだろうと、さっき作った結界に見えなくなる要素をプラスしたものを、バルコニー全体に張り巡らせた。
二人の周囲に結界が張られたのを感知したイーサンは、声に出して「さすがは聖女様。素晴らしい結界です。昨日初めてこの世界に来たとは思えない習得の速さですね」とサラを褒めた。
サラはそれを無視して「そんな事よりイーサンは、さっき私に魅了をかけようとしていたよね」と聞くと、イーサンは不思議そうに目を細めた。
「魔法の習得もそうなのですが、なぜあなたは魅了という事まで分かるんですか。確かあなたが元いた世界には、魔法は存在しないと聞いております。聖女様の一人は、魔法を知らなかったどころか、悪魔の仕業などと最初は忌み嫌っていましたよ」
「それは時代が変わったから、っていうのが理由かな。私の時代は、魔法使いの物語をみんなが楽しく読んでるの。だから私は魔法について知ってるし、嫌な気持ちは全然無いよ。それで、私を魅了にかけようとしたのは、私に言う事を聞かせたいからだよね」
「はい。そうです」イーサンは悪びれずに答えた。
「今までの聖女には成功したの?」
「何回か試しましたが、聖女の持つ魔力は強大な上、残念ながら我々の魔力とは大変相性が悪い。さっきのあなた程ではないですが、こちらに不信感を抱かれると、術がすぐに解けてしまいダメでした。」
「今までの聖女って、最初の聖女と百年、二百年の聖女で合わせて三人か。全員があなたに不信感を持ったんだね。あなた、一体何をしたのよ」呆れた口調でサラが尋ねると、イーサンは皮肉な顔で首を振った。
「何もしていませんよ。ただそちらの世界には、人間を害する悪魔という存在がいると聖女は言っていましたね。その悪魔の持つ尾が、私の尾とそっくりだと言って、特に二人目の聖女は怯えてうるさかったです。
それに彼女達は全員、王家の男の口車に乗り惚れてしまっていました。だから王家の男達の言う事をうのみにして、私たち魔族を人間を害する敵と認識し、最初から敵対心を持っていましたからね」
「なるほど。イーサンは気づいてるみたいだけど、私、ここに来てから人の思っている事が聞こえるようになったの。だから最初からあいつらが嘘つきだって分かったんだけど、今までの聖女はそうじゃなかったのかな。
聞こえなかったとしても、誘拐されて来たのに、誘拐犯を好きになって信じ切っちゃうのも不思議だね。前にそういう被害者心理みたいなのを本で読んだ事があったけど、全員そういう状態だったのかな」サラは首をひねった。
イーサンは、サラを不思議なものを見るように見て「やはりあなたは異色です。王子たちの見た目は人間の中ではすこぶる魅力的らしく、聖女達は王子達を一目見た時から恋に落ちていたようですよ。
あなたは私と話したいのでしょう。聞きたい事があればどうぞ聞いてください」
「じゃあ、まず封印されている魔王についてなんだけど、魔王の消滅は本当に出来るの?」
「出来ますよ。聖女様、あなたなら」
「聖女以外は?」
「弱らせるくらいならできますが、消滅は無理です。やつらの持つ魔力にそれほどの力はありませんから」
「弱らせるってどうやるの」
「魔王様の封印に使われている魔法陣の事はご存知ですか」
「ううん。知らない」
サラが首を振ると、イーサンは金色の目を底光りさせて教えてくれた。
「あの魔法陣は、魔王様から魔力を吸い出しているんです。知っていますか?王家は三百年間、魔王様が死なない程度の魔力だけを残して、残りは全部吸い出して蓄え、使っているんですよ。
奴らはその魔力を自分達の権力の為に、貴族に魔道具を通じて融通したり、他国が攻めてきた時、強力な攻撃魔法を放って撃退するのに使っているんです。魔王様はそのせいで成長も止まり、眠り続けています。
奴らは我々が逆らうと、吸い取る量をもっと多くすると言って脅しました。そうされたら魔王様は、魔力枯渇に苦しみさらに衰弱するのが分かっているので、我々は逆らえません」
「やっぱり、あいつらは速やかに滅さなきゃいけないね」
イーサンはサラの宣言を聞いて不思議そうに「何故我々の味方のように言うんですか。あなたも人間でしょう」と尋ねた。
「人間だからだよ。私の国では、イレギュラーもあるっちゃあるけど、一応みんな平等で、それを守る法律があって、その中でお互いにベストを尽くして生きるのがヨシとされてるの。その上、思いやりとか人助けって考えもある。
それが出来るのが人間で、自分が良ければ何でも良いってやつは‘人でなし‘っていうのよ」
それを聞いたイーサンは嗤った。
「平等ですか。あなたの語る世界は、ずいぶん綺麗な世界ですね。
今までの聖女達のいた世界は、そういう所では無かったようですよ。彼女たちは人間以外の種族の事は、自分達と同じだとは考えられないようでしたから」