作品タイトル不明
11 みんな平和に仲良くしてるんでしょ
「それは、三百年も経つと人間の世界はずいぶん変わるって考えてもらうしかないな。私の世界はここと違って魔法が無い代わり科学とか文明が発達したから、まあ色々考えも変わったよね。さっきも言った通り私の来た日本では魔法はもちろん、色んな種族の物語も書かれてるから、他種族っていう概念も素直に受け入れられた。
それに私は、自分さえ良ければ人はどうなっても良いって、平気で人を騙して甘い汁を吸う人間にひどい目に遭わされた記憶があるの。
だからまたそういう奴に会ったら、絶対許さないって決めて生きて来た。
黙って力でやられないように、武術だって身につけてるんだよ。あんな固い床でも受け身を取れてたの見たでしょ」
「許さないと決めていた…ですか」イーサンが面白そうに繰り返した。
「そう。私を酷い目に遭わせた奴に、あの王家とか貴族の奴らはそっくりなんだ。
ま、私もそこは今までの聖女と変わんないと思うよ。結局自分の基準で動いてるだけだから。あいつらの勝手で召喚されたけど、召喚されて得た力を何に使うかは、私が決める」
「それでは私は、あなたが魔法陣の中の魔王様をどうするのか拝見させていただきましょう」
その時部屋の中からアンナが「サラ様」と呼んでいる声がして、サラは結界を解いた。
バルコニーの扉が開いてアンナがサラを見つけた時、サラは一人で昇ってくる朝日を見ていた。
「アンナ。何だか目が冴えて起きちゃった。やっぱり眠いから二度寝する。あの人たちが来たら、目が覚めたら連絡するって言って追い返してくれる? 聖女様はいきなり連れて来られてお疲れみたいですって」
「は、はい。分かりました」
アンナの返事を聞いてベッドにもぐりこんだサラは、すぐにぐっすりと眠った。
「聖女様はまだお目覚めではないのか」
「お疲れの様で、まだ目を覚まされません」
サラは、アンナが誰かを押し留めている声で目覚めた。日はもう高く昇っているようで、カーテン越しでも部屋の中は明るい。二度寝してすっきりと目覚めたサラは、困っているアンナを助けようとベッドから出てドアまで行った。
「おはよう」
ドアの所にはルーカスがいてアンナに迫っていたので、サラはぼさぼさの髪とネグリジェのまま声をかけた。
「せ、聖女様。おはようございます」『なんてだらしないんだ、この女は』
気付いたルーカスが顔を赤くして答えた。
「昨日いきなり召喚なんてされたから、変な時間に目が覚めて二度寝しちゃった」
フフッと笑ってみせると
「そうですか。もうお疲れは取れましたか」『これだけ寝たんだ。もう疲れたとは言わせないぞ』
「ええ。起きたらお腹が空いちゃったわ。アンナ、朝食をお願い」
「かしこまりました」
ルーカスが何か言おうとしていたが、サラは有無を言わさず、「朝食が済んだら、まずドレスに着替えますねー。それが終わったら呼ぶので、また迎えに来て下さい」と追い出した。
さすがにそれを止める訳にいかないルーカスが、『最悪の聖女だ』と渋々出て行く時、後ろに付き従っているイーサンを見つけたサラは念を送った。
『魔王の魔法陣の件、乞うご期待』
イーサンの金色の瞳が光った。
朝食という名の豪華な昼食を食べ、アンナに見せて貰った城にあるドレスの中でマシな物に着替え(髪はショートなので何か飾りを付けられ)たサラは、ルーカス他三人と応接室の様な部屋に座っていた。
これから、聖女としてサラが何を求められているのかを聞くらしい。
説明役はレイモンドで、古めかしい本を出して読み始めた。
「…つまり、魔王は最初の聖女様の作った結界の中に封印されている状態です。その結界が百年経つうちに徐々に弱まるので、今回の様に聖女様を召喚し、再度結界へ魔力を入れ直して頂いています。ただ、結界を張る為に必要な魔力は膨大なので、一度にという訳にはいきません。その為何ケ月かかけて、その日出せる限界の魔力を込めて頂く事になります」『結界の魔力がいっぱいになった後は、自動的に聖女の魔力も魔道具へ蓄積する。毎日限界まで魔力を込めて、お前の魔力は枯渇して生命力が無くなり、枯れ木みたいになるって訳だ』
「そうなんですねー」(こいつらは魔王の魔力だけじゃなくて、聖女の魔力も蓄積してたのか)
「それでは、聖女様。実際に魔王のいる所へ行きましょう」ルーカスがサラに手を差し出した。サラは、その手を取るそぶりを見せながら口を開いた。
「昨日は気が付きませんでしたけど、ジャネットのエスコートをする人がいなくなってしまうじゃないですか。ジャネットだって歩きづらいでしょう、誰にも手を引かれなかったら」
『私を憐れむつもり⁈』ジャネットの眉間に皺が寄った。
ピンクのマリアンは、知らぬ顔でさっさとレイモンドのエスコートを受けている。
「それは…そうかもしれないですが、聖女様がここでは最も優先される方ですから」
ルーカスが答えると、ジャネットの眉間の皺はさらに深くなった。
「そんなの婚約者のジャネットに悪いわ。私は、この方にエスコートしてもらうから大丈夫よ」サラは、イーサンの腕に手をかけてにっこりと笑った。
「そいつは魔族ですよ!」思わずルーカスが大声を出すと「あら」サラは驚いた顔をして見せた。
「王様は、獣人も魔族もみんな平和に仲良くしてるって言ってたじゃない。皆、魔王が封印されているのを望んでるんでしょう。それなのに、魔族で何か問題でも?」
サラの言葉にルーカスはグッと言葉を飲み込んだ。
「いえ…その通りですね。何も問題はありません。イーサン、聖女様をちゃんとエスコートして差し上げろ」『俺たちが一緒にいる限り、変な真似は出来ないだろう』
「それじゃあ、イーサン。一緒に魔王が封印されている所へ行きましょう」
サラは微笑んだ。