軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23 あの魂が欲しいんだ

「え、今サラって呼んだ?」初めて魔王に母上ではなく名前を呼ばれ、サラは焦った。最初は小さい魔王から母上呼びをされ、可愛すぎて何でもしてあげたい!と抱きしめたり、添い寝をしてしまったが、こうなってみると結構恥ずかしくなっていた。

だが魔王からの呼び方は相変わらず母上だったので、親子の情としてならまあ良いかと納得していたのに、いきなりのサラ呼びである。

咎めているように聞こえたのか、魔王は「気分を害されたなら、すみません。ただイーサンが母上をサラと名前で呼んでいるのを聞いて、私もそう呼んでみたいと思ってしまいました」と言って悲しそうな顔になった。

「ううん。それは別に構わないよ。ただ母上ってずっと呼ばれてて、今までと違う呼び方だったから驚いただけ。イーサンに初めて名前で呼ばれた時も、驚いたんだよ。ね、アンナ。覚えてる?」慌てたサラは、アンナに話を振った。

「はい。イーサンはずっとサラ様を、聖女様とかあなたと呼んでいましたから。あの時サラ様は、ご自分が信用されるようになったのかとおっしゃっていましたね」

「そうそう。やっと心を開いてくれたのかと思ってね」

「それでしたら」魔王はエスコートしていたサラの手に、もう片方の手を重ねた。

「私は最初からずっと母上に心を開いていますから、これからはサラと呼ばせていただきますね」

「うん。別に良いけど…」

モジモジするサラの手を引いて歩いていた魔王は、しばらくして一つの部屋の前で歩を止めた。

「ここが、母上のお部屋です」

イーサンがさっと前に出て扉を開いた。広い部屋の中はすっかり調度品も整えられ埃一つ無く、爽やかな夏の日の様な香りがした。

「わあ!」部屋に足を踏み入れたサラは、思わず声を上げた。

前のアンジェラ王国で与えられていた部屋は、誰が見ても高級な家具に重厚なカーテン、装飾品が揃っている、いかにも客間という部屋だった。しかし目の前にあるこの魔王国の部屋は、何もかもサラの好みで作られた様な部屋だったのだ。カーテンの色はサラの好きなベイビーブルー、家具と床はウォールナットで、ベッドには手作りらしき小花模様の布を使ったキルトカバーがかかり、床には様々なブルーの糸を作って編まれた、素朴で可愛らしいラグが敷かれていた。

室内には、サラが好きな花が飾られたガラスの花瓶がいくつもあり、壁には丸い額に入った、どこかの森と湖が描かれた小さな美しい絵が飾ってあった。

「可愛い!私、こういう北欧の村っぽい部屋に憧れてたんだ」

サラが声を上げると、イーサンが「気に入ってくれたようで良かった」と嬉しそうに笑った。

「この部屋、もしかしたらイーサンが用意してくれたの」

「ああ」

「私がこういう部屋が好きって、どうして分かったの?」不思議になってサラが尋ねると「初めて会った時、俺が魅了をかけようとしたのを覚えてるか」

「うん。イーサンの尻尾がゆらゆらしてたね」

「あの時ほとんど魅了はかからなかったし、それもすぐ解けてしまったが、サラの好み位は分かった。どういう物を望んでいるかって事だな。だからこの城に部屋を用意するに当たって、その知識を使わせてもらった」

「うわ。魅了でそんな事も分かっちゃうんだ。洗脳されるだけかと思ってたよ。人の心に入り込むから分かるのかな。…この部屋は気に入ったけど、他に変な事まで見てないでしょうね」

サラがにらむと「すぐに解けてしまったから、簡単なイメージが伝わってきた位だ」イーサンは目をそらした。

「サラ、部屋が気に入ったようで良かったです。それでは、まずは部屋でゆっくり寝てください。私たち魔族はほとんど眠らないでも大丈夫ですが、サラは一晩中起きていましたから、お疲れでしょう。私の部屋はサラの部屋の隣なので、目が覚めたら声をかけてください。一緒に食事をしましょう」魔王に言われ、サラは自分が徹夜でクーデターを成功させ、魔王国へ飛んできたのを思い出した。

沢山の事が起こり興奮していた為、今まで眠気を感じていなかったが、そう言われると一気に眠たくなった。

「うん。そうだね。すごく眠いから、お風呂も入りたいけどこのまま眠らせてもらう」

おやすみ、とつぶやきながら、ベッドに向かうサラにアンナが付き添い、ミルコが魔王とイーサンを見送って扉を閉めた。

サラの部屋を出た二人は、黙ったまま魔王の執務室へ向かった。

魔王の足取りはサラをエスコートしていた時の二倍は早く、イーサンも神経質そうに尾を忙しなく揺らし、二人の魔力はピリピリとぶつかり合って、通り過ぎる他の魔族は恐れをなして端に避けた。

「イーサン。お前、サラに魔法をかけただろう」執務室に入った途端、魔王が口を開いた。

「私は簡単な能力を与えただけです。魔王様こそ、サラの心を読んでますよね」イーサンが問い返すと、魔王は自慢げな顔をして「私の魔力の根本は、サラの聖女の魔力と同じらしい。私の大元の魂も、サラと同じく異界から来たのかもしれないな。だから読もうとしなくても、自然に分かってしまうんだ」

「しかし、あなたの心はサラには読めない」

魔王は、ふふんと鼻で笑った。

「それくらいの防御は出来るだろう。お前だってそうしているじゃないか」

「当然でしょう」

二人はしばらく顔を見合わせ黙っていたが、イーサンが口を開いた。

「サラが聖女として呼ばれた時に、二番目、三番目の聖女と同じく人の心が読める能力を与えました。あいつらの嘘が分かれば、唯々諾々と従わなくなるかもと賭けたんです」

「二番目と三番目はダメだったか」

「はい。元々聖女には私たちの魔法はかかりにくい。二番目は私たち魔族を悪魔と呼んで怯え嫌っていましたし、三番目はこちらに来た途端に王子の一人に恋をして、すっかり虜になっていました。すぐに魔法をはねのけられましたよ」

「サラは、どうしてすんなりお前の魔法にかかったのかな。聖女の能力だと勘違いするくらい、馴染んで使いこなしていた」

「サラ曰く、時代が変わったせいだと言っていましたよ。

魔法のある異世界に呼ばれたり、魔族や獣人がいる世界が書かれた物語があるそうです。だから私にも拒否感が無く、召喚された事に怯えたり必要以上に驚かないで、冷静に対応出来たようです。

その上で、彼女のいた世界は平等とか助け合いとか、法が支配する綺麗な世界だったらしく、我々の立場に同情してくれました」

魔王がうなずき、うっとりとして「サラの心は美しいな。私は、あの魂が欲しいんだ」と言うと、イーサンも「私もサラの魂が欲しいです。魔王様と言えども、譲る気はありません」と笑みを浮かべた。

そんな二人の不穏な会話を知らないサラは、新しいパリっとしたシーツに包まれて、気持ちよく深い眠りを貪っていた。