軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21 明日の朝には世界は変わっている 2

魔法陣の上で息も絶え絶えになりながら、イーサンと話すサラを憎しみの目で見ていたルーカスが「聖女!おまえは魔族に騙されてるんだ!聖なる力で、魔族を封印しろ!いつものように結界を張れ!」と、未だ性懲りもなく命令してきたので、

「いつもの様にって、こんな風に?」サラは、魔法陣から逃れようと這いずっている五人の周りに、封印の結界を張り閉じ込めてやった。

驚きと怒りで罵ってくる声がうるさいので「防音もつけてあげる」と五人の声を遮断してから、口だけパクパクと開け閉めしているルーカス達に、サラは笑顔で全てを教えてあげた。

「残念ながら、最初からあんた達の心の声は私に全部聞こえてたの。

そもそも召喚の時もホントは目が覚めてたから、そこの公爵子息が私を蹴飛ばして起こそうとしてたのも知ってたし。 私が起きたと思った途端に聖女様って持ち上げて、心の中で馬鹿にしてる私が言う事を聞かないと、全員イライラしてるのは面白かったな。

召喚されてすぐにルーカス達四人の心を読むだけで、協力する気はほとんど無くなったよね。だって、四人とも私を馬鹿にして憎んで、使い捨てる事しか考えてないんだから。

それから王様が私にこの国と聖女、魔王、魔族と獣人の説明をして、同時に心の中で全部の真実を話してくれたから、色んな事が良く分かって助かったよ。

あんた達が聖女を呼び出しては封印に利用して、魔力を搾り取ったらゴミみたいに捨てるっていう事も、魔族も獣人も魔王を人質にされて仕方なく、あんた達に従って搾取され利用されてるって事も分かったもん。

王様の話にはひとつも真実がなくて、面白い位だった。

レイモンドもジャネットもマリアンも、私を、ううん、今までの聖女全部を馬鹿にして、枯れ木みたいになるまで使い倒して捨てるのを、楽しみにしてたよね。

ああ、でもルーカスだけは別だったわ」その言葉に、ルーカスは希望を抱いてサラを弱々しく見上げた。

しかしその希望は「ルーカスは、勿体ないから使い捨てにしないで、妾にして一生搾り取ろうって決めてたね」と続いた言葉で、再び絶望に変わった。

サラは清々しい笑顔で言った。

「だから、私はあなた達の聖女にはならない事に決めたの。魔族と獣人の皆を守る聖女になるのを選んだんだよ」

サラが話す事を驚きと憎しみに満ちて聞いていた五人だったが、魔力の枯渇の苦しさにうめき徐々に動きが止まり、やがて血の気が失せて魔法陣の上に力なく横たわるのみになった。

動かなくなった五人に興味を失ったサラは「それで、これからどうするの。魔王様」と尋ねた。

魔王は「皆はどうしたい。私が囚われている間、皆には苦労をかけた。皆の希望をかなえたい」と付き従っている魔族、獣人達に聞いた。

「この国で私たちの魔力を搾り取って使っていた貴族達は、もっとずっと大勢います。私はあいつら全員許せない」一人の魔族が瞳を光らせると

「私の子どもは、貴族の戯れで尻尾を切られました。あいつらを同じ目に遭わせてやりたい」豹の獣人と思われる女性が牙を見せた。

その後も皆が口々に恨みを訴え、最後にイーサンが「この国の人族は、我々にはどんな事をしても許されると考え、長い間やりたい放題でした。自分のした事と同じ目に遭わせるのが、ふさわしい罰かと思います」と進言した。

「なるほど。私に行った事だけでも罰せられる理由は十分な上、皆へのその所業か。

…母上。この国に聖女の力の込められた魔道具が、多く存在するのはご存知ですか」

「ううん。知らない」

「その魔道具を持っていると、自分の周りにだけ結界を張ったり、魔族の魔力を吸い取る事が出来るのです。これから私がやろうとする事に、その魔道具が邪魔になるのですが、母上の力でこの国全体から聖女の力を失くしていただけませんか」

魔王は、サラならそれ位訳なく出来ると言うように、信頼に満ちた目で頼んできた。

サラは(え、可愛いい改め美形魔王の頼みは叶えたいけど、この国中に散らばってる聖女の力って、どうすれば失くせるのかな)としばし悩んだ。

一つ思いついて「この国の地図ってある?」とイーサンに尋ねると、イーサンが片手を振って「どうぞ」と空中に地図を出し、壁に貼るように広げてくれた。

その地図の前でサラは両手を広げ、アンジェラ王国の国境線をなぞるように動かし、(この国にある聖女の魔力を、全て私に返して)と願った。

両手が国境線をなぞり終わり重なった時、広げられた地図上に無数の白金に光る点が浮かび上がった。浮かび上がった光は国中から飛び出し、全てサラの元へ集まり吸い込まれた。それは、国内に散らばった聖女の魔道具から力が抜け出て、ただの道具になった事を意味していた。

(ああ、聖女達はこれほど多くの魔道具に、命を削って力を込めさせられたんだ)

全ての魔力を取り込み終えた時、サラの全身は白金色に光り輝いていた。

「さすが母上。ありがとうございます」満足そうに言うと、魔王はサラと同じようにアンジェラ王国の地図上に巨大な魔法陣を描き、国全体を包むように金色の魔力を広げた。魔王の魔力は聖女の魔力とは逆に、地図中に吸い込まれた。

その直後、城の中からも外からも、うめき声や叫び、恐怖に震える声、人々が逃げまどい争うような音が聞こえてきた。

サラがイーサンを見ると、「魔王様の審判が国中に行き渡ったんだ。今この国で、安穏と寝ている者は誰一人いないだろう」と嗤った。

ふと見ると、干からびて動かなくなっていた魔法陣の五人も、最初の健康な姿に戻され、また同じ苦しみを繰り返させられている。

サラが見ているのに気づいた魔王が「自分の行いと同じ事を返されるのです。罪が消えるまで、何度でも復活して繰り返すでしょう」と教えてくれた。

(いったい、何度繰り返すと終わるんだろう。これって、今までの王様達の分もって事だよね…?)ほんのちょっぴり気の毒に思ったが、同じ事をしようとしてたからしょうがないか、とサラは考えない事にした。

魔王は皆に向かい「これで、この国の全ての人族は魔力も魔道具も何もかも失った。そして自分の行いがそのまま自分に返ってきた。

我らを虐げ百回鞭打った者には百回の鞭打ちが、獣人の尾を切り落とした者は、尾の代わりに肉体の何かを失う。五体満足で残っている者たちも、この国という地獄で暮らすか、国を出て全て捨ててやり直していくか、選ばざるを得ないだろう。これから周囲の国が、聖女の力も魔王の魔力も失ったこの国を食い尽くすだろうからな」と宣言した。

「それでは魔王様、参りましょう」イーサンが尾を揺らめかしながら言った。

「え、行くってどこへ」

「私たち魔王は、元々新たな肉体を得ると新しい国へ移るのですよ、母上。

同じ場所に長くいすぎると、魔力の澱が溜まって土地にも国にも悪い影響を与えるからです。先の魔王の肉体が滅びる前に、最後の力を使って次代の為に国を作ってあるので、私は本来なら記憶を取り戻してすぐそこへ移っているはずでした。

封印されていて遅くなってしまいましたが、この国と王宮は滅びるに任せて、我々は新しい地へ向かいます。もちろん母上、あなたもご一緒に」

「え、ちょ、私は出来たら日本に帰りたいんだけど」

「さあ、皆の者。我らの新天地へ向け出発だ!」

金色の魔力が辺り一帯を覆い尽くし、全ての魔族、獣人と共にサラは否応なく新しい魔王の国へ転移させられた。