作品タイトル不明
20 明日の朝には世界は変わっている 1
魔道具の核は深層部に設置されている為、直接手は届かず触れられない。
サラはそっと冷たい魔道具の外側に触れ、クレーンゲームのイメージで自分の魔力をアームのように侵入させ核を掴んだ。
聖女の魔力同士だからだろうか、サラの魔力のアームと防御核は瞬く間に融合し、しっかりと固定された。
(今だ!)
一気に防御核と一緒にアームを引き抜き、首尾よく引っ張り出した核を手に載せると、それは心臓が鼓動を刻むように動いていた。
(うわ、気持ち悪!)余りの気持ち悪さに一瞬動きが止まったが、サラは気を取り直して核の中の聖女の力を探ってみた。
(力も籠められているけれど、この核自体が、力その物の様な気がする。もしかしたら、これは本物の聖女の心臓なのかもしれない。王家は、ここまでの事を最初の聖女にしていたのか)
サラは核=心臓を破壊すべく、ハイパワーで力を吸い込んだ。
自分の中に過去の聖女の力が入り始めた時、サラは目の前に自分と同じ黒髪黒目の少女が立っているのに気づいた。こちらを見つめる少女はやせ衰え、ボロボロのドレスに身を包み、左胸に穴が開いていた。
『あなた、もしかしたら魔王を封印した最初の聖女なの』サラの問いかけに少女は疲れ切ったように答えた。『多分そう。あんたも聖女?』
『そう。私も聖女。だけど、あなたとは多分気が合わない聖女だよ。私はあなたの力を消して魔道具を壊して、魔王を解放するから』
それを聞いた少女は『ほんと⁈』と喜びの声を上げた。
『良かった。あの子を解放してあげてよ。あたし、大好きな王子様があの子を敵だって、封印してくれってお願いするから、助けてあげたくて封印したの。
あの子、あたしを母上って呼んでさ。全然敵と思えなかったのに、成功したらあの人と結婚できると思って、騙して閉じ込めたんだ。
だからきっと私も騙されたんだろうね。
頼まれるまま沢山の機械に力を込めていたら、ある日力が無くなった。あの人は私に最後の役に立てって言って、心臓をえぐり取ってこの機械に入れたんだ。
あたしの心臓、ずっと流れてくるあの子の魔力と、新しく呼ばれた聖女の魔力で動き続けて、止まる事が出来なかった。
どれだけ経ったか分からないけど、これであたしもやっと消えることができる。
もしあの子に会ったら、ごめんなさいって伝えてくれるかな。母上の振りをしてごめんなさいって』
『分かった。伝えるから安心して』
そう言ってサラは、聖女の心臓から力の最後の一滴を吸いつくした。心臓が消え、それと同時に、最初の聖女の幻影も一緒に消えた。
「イーサン、お願い」
サラがイーサンの結界を解くと、イーサンは両手を前に出して巨大な魔法陣を展開し、魔道具へ向けて破壊の刃を放った。
イーサンの放った無数の刃は、聖女の防御の無くなった魔道具に次々突き刺さった。そこから亀裂が広がり、粉々になった魔道具から蓄えられていた魔王の魔力が解放され、金色の光となって一直線にサラの部屋の方向へ向かっていく。
「イーサン、あれは魔王の元へ戻るの?」
「ああ。あれだけの魔力が戻れば、魔王様はすぐお目覚めになるだろう」
急いで部屋に戻る前に、サラはミルコ達に告げた。
「獣人のみんなに伝えて。もうこれであなた達は自由になるって。魔王は解放されて、怯えることは何も無いって。明日の朝には世界が変わっているよって」
「はい、聖女様。皆に伝えます」
ミルコ達が嬉しそうに見送ってくれる魔道具の消えた部屋から、サラとイーサンは一直線に部屋に戻った。
「アンナ、魔王はどうしてる?」サラが部屋に飛び込むと、アンナは口元を押さえてベッドの方を指さした。
「魔王様!」イーサンがサラを追い越してベッドへ向かい、そこに立っている若者を見て声を上げた。
そこには、十八歳くらいの黒髪、黒目の妖艶な超絶美形が立っていた。
「イーサン、待たせたな。既に記憶も取り戻した。あいつらのため込んでいた魔力が存外に多かったから、問題なく動ける」
「我ら一同、この日をお待ちしておりました。魔王様、不甲斐ない家臣で、誠に申し訳ありませんでした。…それでは、早速ですが屑を始末しに参りましょうか」
サラは、主従が無事に再会出来た事、これから何かしに参ろうとしている事は聞こえていたが、頭の中はあの可愛い魔王がいなくなったショックでいっぱいだった。
(嘘、嘘、嘘、あの可愛い子がこんなに早くいなくなっちゃうなんてーーーー!)
サラが力尽きたようにソファに座り込むと、魔王が甘い笑みを見せた。
「母上。あと少し、我らにお力をお貸しください」座面にぐったりと置かれたサラの手をすくい上げ、さっと腰に手を回して立ち上がらせた魔王は「イーサン。元凶どもをあそこへ呼び寄せろ」と命じた。
「御意」イーサンが片手で魔法陣を描くと、五本の金色の縄がさまざまな方向へ飛んで行った。
「母上。参りましょう」魔王がサラをエスコートし、その後ろにイーサンが付き従い、やがて魔王復活を感じ取った城の魔族達がそれに続き、アンナやミルコ、真夜中に働かされている獣人達も後に続いて、皆がたどり着いた場所は、魔王自身が封印されていたあの部屋だった。
魔王が鍵を押し当てる四角いくぼみに指先を当てると、扉は吹き飛び枠だけが残った。枠をくぐり部屋の中に入ると、イーサンが魔法陣に近寄って、昼間置いたブラックダイアモンドを拾った。魔法陣は魔力を吸い取る源が無くなり、シンと静まり返った。
そのまま皆が何かを待っていると、枠だけになった扉を通り、イーサンの縄に巻き付かれた五人が飛び込んできた。
王様、ルーカス、レイモンド、ジャネット、マリアン。
深夜なので皆寝衣姿だったが、そんな事を気にする余裕は無いようで、締め上げられる縄と打ち付けられた痛みにうめき声を上げている。
「聖女」自分達を見下ろす人々の中にいる、サラに気付いたルーカスが叫んだ。
「なぜ魔族と一緒にいる?俺たちを裏切ったのか!お前も人だろう!早く俺たちを助けろ」
王様も「わしにこんなことをして、タダで済むと思うか。お前たちは魔王がどうなっても良いのか。我らの一存であの子どもを死ぬような目に遭わせられるんだぞ」
と喚いた。
「ほう。死ぬような目か。お前の言うのは、幼い私の魔力を搾り取って、苦しめるという事かな」
その言葉を聞き、発言した主を見て、五人は驚愕した。この超絶美形があの幼い魔王だというなら、結界はどうなっていると振り返り、初めて結界が消え去っている事を知って蒼白になった。
魔王が美しい笑みを見せ指を動かすと、五人は魔法陣の上に移動させられた。途端に魔法陣は発動し、五人から魔力を吸い取り始めた。
王様、ルーカス、レイモンド、ジャネット、マリアンは魔法陣に縫い留められたように動けず、うずくまって苦悶の声を上げる。
「もう魔力を蓄積する魔道具は無いけど、魔法陣の吸い取った魔力はどうなるの?」
サラの質問にイーサンが答えた。
「蓄える行先が無ければ、ただ吸い取られてゴミくずのように捨てられるだけだ。もっともやつらの魔力など、吸い取る甲斐も無い、元々ゴミのようなものだが。
あれは魔王様の魔力を基準に設定されているから、五人いても三十分も持たないだろう」