軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 魔道具を壊そう

サラは封印の間を開く本物の鍵は部屋に隠し、イーサンが用意したダミーの鍵を持ってルーカスの部屋へ向かった。

ノックに応えて侍従が扉を開くと、ルーカスはジャネットと一緒にお茶を飲んでいるところだった。サラの姿を認めたルーカスが立ち上がったので、ジャネットもしぶしぶ後に続いた。

「聖女様。ご苦労さまでした。お疲れのところわざわざ鍵を持って来て下さって、ありがとうございます」

「どういたしまして。私に出来る事なんてそれほど無いから、これ位はさせてもらうわ。はい、大切な鍵をお返ししますね」サラはダミーを渡す時少し緊張したが、ルーカスは全く気づかず、控えていた侍従に「これを仕舞っておいてくれ」と言って手渡した。それからふと思いついたように「よろしければ、聖女様もご一緒にお茶はいかがですか」と誘ってきた。

サラは、早く魔王のいる部屋へ帰りたかったので「あら、ありがとう。でも婚約者とのお茶にお邪魔するのは悪いから、遠慮するわ」と断ったが「とんでもありません。是非ご一緒に」とルーカスはしつこく誘ってきた。

何かあったのかなと不思議に思ったサラは、怒りの表情のジャネットの心を読んでみた。

『いつも封印があるから忙しいと断られて、やっと二人のお茶の時間を持てたのに、ルーカス様ひどいわ。この前は聖女を生かしておいても良いんじゃないか、などと言い出すし、まさかこの聖女にほだされているんじゃないでしょうね。

こいつはただの平民で、これから魔力を吸いつくされて枯れ木になるのよ。ダイアモンドだって融通してあげたのに、私をないがしろにしたら許さないわ』

ほだされるってなんだよ、と思ったサラは、今度はルーカスの心も読んだ。

『ジャネットは私と王家を支配できる気でいる。たかがダイアモンド一つで、図々しい女だ。今までの王家は聖女に媚びたくないという馬鹿げた理由で、力を取りつくしたら捨ててきたが、私はそんな勿体ない事はしない。

ずっと生かしておけば、生きている間中良い魔力源になるじゃないか。ジャネットと違って平民女は金もかからないし、妾にでもしてやれば喜んで言う事を聞くだろう。現に、最近はこうやって私を立てるようになってきたしな』

サラは、寒気がして両腕をさすった。

「ごめんなさい、ルーカス。今日は結界を頑張りすぎたから、いつもより疲れているの。部屋で休むわ。明日の午後、また鍵をもらいにくるわね」

「そうですか。残念です。では、ごゆっくりお休みください。また明日お会いするのを楽しみにしております」そう言ったルーカスは、今までした事のない手の甲へのキスをサラに贈り、ジャネットはますます目を吊り上げ、サラは本格的に震えが来た。

その様子をイーサンは金色の目を底光りさせてじっと見ていたが、彼の悪魔らしい尾はゆらゆらと揺れて不思議な模様を描いていた。その日ルーカスは、机の角に小指をぶつけたり、王様の大切にしている壺を割ったりと、何故か一日中不運が続いた。

護衛騎士にエスコートされ部屋に戻ったサラは、一直線にベッドの魔王の元へ向かった。

「ただいま~。アンナ、魔王は良い子で寝てる?」

「はい。よく眠ってらっしゃいます」

楽な服に着替えたサラは自分も横になって、まつ毛が長―いと思いながら魔王の寝顔を見ている内にうとうとうとし始めて、やがて眠りに落ちた。

アンナが上掛けをかけてくれて、本格的に寝始めた頃、夢の中に魔王が出て来た。

『母上』手を伸ばす姿がこの前の夢より少しだけ鮮明に見えるのは、魔力を吸い取られなくなったからだろうか。

サラもまた『母上じゃないけど、おいで』と言いながら手を伸ばすと、今度は何にも阻まれる事なく、魔王をギュッと抱きしめる事が出来た。

『母上。やっと抱きしめてくださいましたね』嬉しそうに腕の中から見上げる魔王は本当に綺麗な可愛い少年で、サラはこの子が三百年も騙されて捕らえられていたと思うと、たまらない気持ちになった。

『遅くなったけど、もう大丈夫だよ。私の魔力ならいくらでも上げるんだけど、魔族には合わないっていうから、よく寝て回復してね』

『はい。僕も早く母上に会いたいから、早く起きたいです』

サラは、はにかむような笑顔に撃ち抜かれて覚醒し、目を開けると魔王はすやすやと眠っていた。

「待ってるね」そっと頬に触れると魔王は笑みを浮かべた。

夕食が終わり、夜が更け、ミルコ達に聞いていた時間が近づいて来た。

イーサンがバルコニーに降り立った気配がして、結界を解いて中にいれると、彼は眠っている魔王の様子を真っ先に確認しにいった。

「もうずいぶん安定してきている。何か変化があったか?」

「また、夢の中で会ったよ。今度はギュッと抱きしめる事が出来て、話も出来た。早く起きたいって言ってたよ」

「そうか…。魔族と聖女の魔力は相性が悪いはずだが、もしかしたら魔王様は大丈夫なのかもしれないな」

「私、何しろ母上だもん」サラが得意気に笑うと、イーサンは呆れたように「魔王様には母という存在はいないと言ったろう」と目を眇め「時間が無くなる。行くぞ」とサラの手を取った。

その時昼間ルーカスの唇が触れた辺りを、ふとイーサンの指がなぞり、サラの手の甲に金色の光が吸い込まれた。

「あれ、イーサン、今何かした?」

「特に何もしていない。汚れていたのを綺麗にしただけだ」

「そうなんだ。何か触って汚れちゃったかな。ありがとう」

「いや。礼には及ばない」

イーサンの尾がゆらゆらと揺れた。

サラは出がけに念入りに結界を重ねがけしてアンナに魔王を頼み、イーサンと自分には不可視の魔法を施して、ミルコ達がいる魔道具の間へ向かった。

誰にも気づかれず王宮を奥まで進むと、イーサンが言っていた青く塗られた扉の前に到着した。

ミルコ達は、ちょうど神官に鍵を渡されている所だった。

「ほら、鍵だ。絶対に失くすなよ。いつも通り、一晩で埃一つないように掃除しろ。朝になって汚れがあれば、飯抜きだからな」横柄な神官に、ミルコ達は黙って頷いていた。

(神官が聞いてあきれるわ。果たしてお前の神は、お前を助けてくれるかな)

サラは内心で毒づいて、神官が立ち去ってからミルコに『私たちも着いてるよ』と念を送った。

ミルコは聞こえて来た声に一瞬驚いたが、すぐサラと分かってうなずき、仲間たちと部屋の鍵を開き中に入った。サラとイーサンも続いて入って内側から鍵をかけ、不可視の魔法を解いてミルコ達の前に姿を現した。

サラはミルコ達に「とりあえず、いつも通りお掃除をしていてもらえるかな。私たちは魔道具の場所を探るから」と告げ、魔力を部屋中に巡らせた。

すると部屋の一角に自分と同じ魔力があるのが感じられ、おそらく魔道具に施された結界だと思ったサラは、イーサンに「あそこに魔道具があると思う」と指さして教えた。

「前まで行って、触ってみるね」

「聖女がかけた結界ならサラは大丈夫だと思うが、気を付けろよ。念のため、俺に結界をかけてくれるか? 魔族の魔力を感知して、警報が出るとまずいからな」

「了解」

イーサンに結界をかけ、サラだけがその場所に接近すると、聖女の魔力の気配が強くなって結界がある事がはっきりと分かった。

そっと指を伸ばしてみると見えない何かに触れたので、そのままサラは願った。

(この結界を解除したい。聖女の魔力を私に戻して)

途端に指先から魔力が身体に流れ込み始め、それが終わった時、目の前に大きな魔道具が現れた。

突然現れた魔道具に驚いているミルコ達に、サラは声をかけた。

「これを破壊しようと思うの。危ないから離れていて」

それを聞いてミルコ達が部屋の隅に移動するのを確認して、サラは魔道具の造りを見たいと願いながら、レントゲンを思い浮かべ魔力を放った。

サラの白銀の魔力に包まれると魔道具が透けて、真ん中の深層部に心臓の様に動いている核があるのが見えた。魔道具を包んでいるサラの魔力は、やがてその核の部分へ集まり、吸い込まれていった。

(あれだ。あそこが魔道具を破壊出来ない様、聖女の魔力が込められた核なんだわ)

サラは結界の中から見守っているイーサンに「魔道具の深層に見えるあれが、聖女の防御核だよ。あれを取り出して力を吸い取れば、核は消滅するはず。そうしたら、イーサンの魔法で魔道具を壊して」と頼んだ。

「分かった。魔族は攻撃を最も得意としている。任せておけ」