軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 三百年、待っていた

「それでは聖女様、こちらが鍵です。お任せして申し訳ないが、結界強化をよろしくお願いします」翌日ルーカスが約束通り、イーサンを連れて鍵を届けに来た。

サラはそれを受け取って「承知しました。皆さんのおかげで、自分のすべき事がよく分かったので、きちんと務めを果たしますね。終わったら鍵は返しに行きますから、安心して下さい」とにっこりと笑った。

「いや、聖女様に鍵を届けさせるなんて申し訳ない。呼んで下されば私が伺います」

『どうしたんだ。やけに物分かりが良いな。やっと王族を立てる事を覚えたのか?』

口では遠慮して見せるルーカスに、サラは「いいえ。部屋で少し休んでからになりますが、私が届けにいきますよ。だって、王太子の仕事ってすごく忙しいでしょう? 私もやっと分かってきたんです。いつも大変ですよね」と気遣うように言った。

それを聞いたルーカスは「それは…確かに王太子というものは、他の者が代われない仕事が多いですからね。聖女様がそこまでおっしゃるなら、お言葉に甘えさせていただきます」と心なしか胸を張って帰っていった。

「では、聖女様。参りましょう」

イーサンが差し出した腕につかまり、二人は封印の間へ向かった。

後ろから護衛騎士がついて来るので、彼らには分からぬようテレパシーで話す。

『これからの手順を確認するね。まず封印を完全に解いて魔王を救い出し、魔法陣へはすぐにダイアモンドを置く。それから魔王に周りから見えなくなる魔法をかけて、私の部屋まで移動する。魔王を部屋に隠したら、王子には偽物の鍵を返しに行く…で良いよね』

『ああ』

そっけなさ過ぎる返事に(緊張してるのかな)と思いそっと顔を盗み見ると、まっすぐ廊下の先を見つめるイーサンの瞳の中に、常よりも深い金色が渦を巻いているのが分かった。

(これは緊張というより、興奮してるな。武者震い、的な?)

計画実行前に過度の興奮は良くないと、掴まっているイーサンの腕をサラは少しだけ強く握った。気づいたイーサンが、金色の渦が凪いだ瞳でサラを見下ろした。

『大丈夫だ。落ち着いている』声が聞こえ、サラは小さくうなずいた。

今日の計画では、首尾よく魔王を救い出しサラの部屋に隠せたら、夜ミルコ達と一緒に魔道具の置いてある部屋へ侵入し、魔道具を破壊する事になっている。

それがうまく行けば、そのままクーデターを起こして、この世界のゆがみを正すつもりだ。

魔道具の破壊は実物を見た事が無いので、どんな仕組みなのか分からないのが難点だった。

ミルコに「お掃除の時、何か道具が置いてあるのは見たかな」と聞いてみたが、魔道具の周囲に結界があるらしく「とても広いだけの部屋で、何もありません。ただ、部屋の中に変な場所があります。何も無いのに壁に当たって、その先に行けないんです」との事だった。

(全てはこの目で確かめてからね)

魔道具に聖女の力が籠められているなら、サラが結界同様力を吸い取ってしまえば、後はイーサンが破壊してくれる。

ただ、今日魔道具の破壊が出来なかったら、次の掃除は一か月後になる。

それまでに何とか部屋に入れれば良いが、入れなかったら、力を込めたダイアモンドはギリギリ一か月もつかどうかだし、魔王が対抗し得る力を取り戻せるかも微妙な線だった。

(だから、やっぱり今日で決着をつけよう)

サラは決意を胸に、封印の間の扉に四角い鍵を押し当てた。

護衛騎士をドアの前に残し部屋に入ったサラとイーサンは、魔王の眠る結界の前に立った。

サラが自分のかけたキラキラ魔法を解除すると、ほとんど力を無くし薄くなった球体の中に、眠る魔王の姿がはっきりと見えた。

「結界を解除するから、魔法陣に気を付けて魔王を受け止めて」

サラはイーサンに声をかけてから球体に触れ、最後の力を吸い取って無効化した。

結界が消えた途端魔王は空中に放り出され、イーサンは魔法陣に入らないようにしながら、素早く動いてしっかりと抱き留めた。

自分の腕に落ちて来た幼い魔王を、イーサンが強く抱きしめて存在を確かめている間に、サラは持っていたブラックダイアモンドを急いで魔法陣の中へ置いた。

魔王という魔力供給元がいなくなり、魔法陣は一瞬働きを止めたが、ダイアモンドの魔力を与えられて再び動き始めた。

サラはそれを見届けた後魔法で輝く球体を作り、魔法陣の上に浮かせて結界が未だそこにあるように見せかけた。

全て整い、そろそろ行こうと振り向いたサラは、イーサンが魔王を抱きしめて泣いているのを見て言葉を止めた。

(三百年か…。ずっと待ってたんだもんね)

自分も少しだけ待つかと、ついでにダイアモンドに自分の魔力も込めていると、やがてイーサンが魔王を抱いたまま立ち上がった。

「ありがとう、サラ。この恩は決して忘れない」イーサンの目がまっすぐに自分を見つめ、そこに何か熱を感じてどぎまぎしたサラは、ふざけた調子で返した。

「うん。全てが終わったら、恩返し待ってるからね!さあ、早く部屋に帰ろう」

イーサンが片手で魔王を抱き、魔王だけが見えなくなる様にサラが魔法をかけたので、魔王を抱いた手はエスコートの為に片手を曲げているようになった。

サラはその腕に手をかけてドアの外に出ると、何も気づかない護衛騎士を背後に連れ自室へ戻った。

「聖女様。お疲れさまでした」アンナがドアを開けて迎えてくれ、部屋に自分達だけになるとすぐに、サラは厳重に部屋と周囲に結界を施した。

これで誰も中に入ってこられず、中の音も聞こえないという状態にして、イーサンが今は両手で大事に抱いている魔王の結界を解いた。

腕の中でよく眠っている魔王は、近くで見ると夢に出て来たあの男の子だとはっきり分かった。

目を閉じていても綺麗な顔立ちはそのままで、サラはミルコ同様(可愛いーーーー)と内心で悶絶した。

「私のベッドに寝かせてあげて」

イーサンがベッドに横たえ上掛けをかけると、魔王は少し身じろぎして枕に頬をすり寄せたが、そのまま目覚める事無く眠り続けた。

「これって、ずっと起きないって事はないよね」不安になったサラがイーサンに聞くと「もう魔力が吸い取られないから、おそらく二、三日で回復して目覚められるだろう」と答え、魔王の小さい頭をそっと撫ぜた。

(いいなあ。イーサン)羨ましくなって、サラも上掛けから出ている魔王の小さい手を、優しく握ってみた。すると眠っている魔王がサラの手を握り返し、口元が「母上」と動いたので、それを見たサラは口元を押さえ再び激しく悶えた。

(可愛いーーーーーー)

そんな二人を見つめるイーサンの目は金色が渦巻き、尾が苛立たし気にゆらゆらと揺らめいて、近くに立っていたアンナは我知らず身震いしたが、気づかないサラは二人に向かって宣言した。

「この子が起きるまでに、全部終わらせよう!」