軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 一緒にお掃除しよう

「やったーーー!ナイスナイス!マリアン、ほんといい仕事してくれた」

イーサンと部屋に戻り、アンナと三人になった所で結界を展開して、サラは飛び上がって喜んだ。

マリアンは最初から一番やる気が無く、どこかで何かやらかしてくれるかもと期待していたが、レイモンドの溺愛援護も加わって、見事に期待以上の働きをしてくれた。

「鍵が手に入るのは大きいわよ。イーサン、あの鍵のレプリカを至急作ってくれない?明日ルーカスから鍵を渡されたら、本物はこっちで保管して、レプリカを返すの」

城内外に住む魔族たちの腕輪を無効化するのも、同じく獣人の身体を癒やすのも、魔王封印弱体化に合わせて毎日行っている。それが終わりに近づいてきたタイミングで、このマリアンのファインプレーである。

魔力を取り戻した魔族も、怪我も治り体力を取り戻した獣人も、皆悟られないようにこれまで通り振る舞っているので、人は何も気づいていない。

後はどんな風に魔王を解放し、魔法陣から安全な場所へ移動させようかと考えていた為、イーサンと二人だけであの部屋にいられるのはまさに僥倖だった。

「イーサンが魔力を込めた、このブラックダイアモンドを使うんだよね」

ジャネットが公爵領から取り寄せて、サラのドレスに付けた大粒のブラックダイアモンドが縫い付けられて以降、イーサンは自分が取り戻した魔力をその中にコツコツと貯めている。

ちなみにイーサンが魔力を籠める際は、指先をダイアモンドに当てるのだが、ダイアモンドは胸元に縫い付けられている為胸元に指を当てているような形になり、距離も近くなって、サラは毎回少しドキドキしてしまう。

それを分かっているのかいないのか、イーサンの魔力注入時間は少しずつ伸び、その間は例の悪魔の尾は終始機嫌良さげに揺れていた。

魔力注入の方法はともかく、封印を解かれた魔王が動ける程度に魔力を取り戻すまでは、このダイアモンドを魔法陣の上に置いて魔道具へ供給する計画だった。

「でもさ、皆で一斉にやっつけちゃえば、魔王がいなくなったのがバレても良くない?」サラが尋ねると「あいつらは今まで魔王様の魔力を相当貯め込んでいる。私たちがまとまって立ち向かっても、その魔力が強大で勝てるかどうか分からない。

だから、魔王様自身が戦えるところまで出来れば持って行きたい」

「そっか。じゃあさ、やっぱり魔力を貯めこんでる魔道具を壊しちゃうのが確実じゃないの? 目覚めたばかりの可愛い魔王に、無理はさせたくないよ。

イーサンは長く王宮にいるんだから、魔道具がどこにあるか知ってるでしょ?

王様と王太子しか行けないって言ってたけど」

「あれは王宮の中にあるが、サラが最初に呼ばれた部屋よりもずっと奥だ」

サラは、イーサンのセリフを聞いて目を瞬かせた。

「え、今イーサン、私の事サラって呼んだ? アンナ、今イーサンがそう呼んだよね?」

「はい。サラ様。サラと呼び捨てにしていました」アンナも驚いた顔でうなずく。

「今まで絶対に、私のこと名前で呼ばなかったじゃない。あなたとか聖女様とか言って。どうしたの、突然。もしかして、遂に私の事信用したとか?」

サラが面白がってうりうりと肘でつつくと、嫌そうな顔をしたイーサンは「信用だったら、もうとっくにしてる。それに、感謝もしている」と横を向いた。サラは、イーサンの少しとがった耳の先が赤くなっている事に気付いた。

(うわ、これって照れてるのかな。レア過ぎてこっちも照れる)

何だか妙な雰囲気になって、そういう事が苦手なサラはわざと大きな声を出した

「じゃあ何とかそこへ行く方法を考えよう!王様とルーカス以外に、魔道具の部屋に入ってる人ってホントにいないのかな。 魔道具に貯めてる魔力を使うのに、作業員みたいな人がいるんじゃない? 王様と王太子じゃ、実務は出来ないでしょ」

サラはあれ以来会っていない嘘つきの王様と、結界強化も結局丸投げした王太子を思い浮かべてそう聞いた。

「そう言われてみれば、掃除の者は部屋に入らないんでしょうか。王様や王太子殿下が掃除をするはずも無いですし」アンナが言うのに「確かに、そうだよね。お掃除担当は獣人だったよね。あいつら、獣人を人と思ってないから、部屋に入れる人数に入れてないだけかも」

気を取り直したイーサンも「そうだな。貴重な魔道具を、埃だらけの部屋に置いておくとは思えない。奴らは我々魔族の事は警戒しているが、獣人の事は物のように扱って油断しているから、あり得るかもしれない」と同意した。

「じゃあアンナ、部屋の周りにも結界をかけるから、癒やして欲しい獣人がいたらミルコと一緒に連れてきて。 イーサンも魔道具を無効化させたい魔族がいたら、お願い」

連れて来られたミルコは、他の獣人をサラが癒したり、魔族の魔道具を無効化している間、大人しく部屋の隅に座って待っていた。

自分と家族の怪我も癒やしてくれた白金の魔力が、他の皆も元気にしていくのを、キラキラした目で見つめている。

『聖女様。綺麗だなあ。ミルコも、お母さんもお父さんも、皆元気にしてくれた。ありがとう。聖女様』

ミルコから聞こえてくる純粋な感謝の声が、この世界に来てからささくれだっているサラの心を癒やしてくれる。ミルコの頭上にあるふさふさの白い毛に包まれた耳も、くるんとした尻尾も、可愛さしかない。

(ありがとうはこっちのセリフだよ!ミルコ。可愛さにありがとう~)

そもそも獣人の皆さんは、サラの性癖に突き刺さる事が多く、異世界モノでも獣人の物語が大好きだったサラは、皆の治癒がものすごく楽しかった。

治った時ありがとうと言いながら、ぶんぶん揺れる尻尾や、ピクピク動く耳を見る時は聖女になって良かったと思えるのだ。

反して魔族の皆さんは、ほとんどがイーサンを代表格としたクールキャラで、簡単に聖女なんて信用しないぜという冷たさがある。それ故に媚や嘘がないので、心の声が口に出す言葉とズレが無く、清々しく感じて安心できる。魔王が人質になった為にこんなに搾取されているのに、それを恨まず、忠誠心が揺らがないところも尊敬できる。

(魔王が聖女に捕まっちゃう前は、本当に平和で美しい国だったんだろうな…)

聖女なんて綺麗な言葉で呼ばれているけど、自分も含めて人間は欲にまみれていて、その悪企みが成功したばっかりに、こんな歪な世界になっちゃったんだな、とサラは悲しみを感じた。

『だから!私が頑張ってこれを正すよ!』何だか気合を入れたくなったサラは、イーサンとアンナへ大声の念を飛ばした。

二人は一瞬驚いた顔をしてから、真面目な顔でうなずいて『私も出来るだけの事をします』『背中は任せろ』と返事をくれた。

集まった獣人と魔族への対応が済んで、サラはアンナ、イーサンと一緒にミルコに話を聞く事にした。アンナに頼んで、ミルコにお砂糖を入れたミルクと、ふわふわのカップケーキを出してあげると、ミルコは目を輝かせた。

大事そうにミルクに口を付けるミルコに「美味しい?」と聞くとうなずいて、口の周りを白くして「甘いです」と笑った。

可愛さに身もだえして役立たずのサラに代わり、アンナがミルコに質問した。

「ミルコ達は、王宮のお掃除をしているのよね」

「はい、そうです」ミルコは質問されると、きちんとカップをテーブルに置いて、両手を膝の上に乗せた。それを見たサラは、また悶絶してイーサンにあきれ顔をされている。

「貴族の前に出ちゃダメって言われているので、王宮の中は夜中になってから掃除します。この前は廊下を汚した貴族がいたので、すぐに掃除しろって言われて、見つかって怒られましたけど」思い出して悲しそうにするのに、サラは「ミルコの仇は取ったからね」と頭を優しく撫ぜた。

「東の奥にある、誰も近寄らない部屋は知っているか。扉が開かない部屋だが、誰か掃除はしているのかな」イーサンが尋ねた。

「一つだけ青い色のドアですか」

「そうだ」

「あそこは神官様が鍵を持っています。普段は鍵をかけて使わないんですけど、お掃除の時は私たちが鍵を渡されて、一晩かかって掃除します。ひと月に一度だけですけど、とても広いので大変なんです」それを聞いて三人の目が輝いた。

「ミルコ、次のお掃除はいつか分かる?」

「もうすぐです。陽の週が終わったから、次の週の初めです」

サラは、ミルコの肩をガシッとつかんだ。

「ミルコ。その時、私たちも一緒に掃除させてもらうわ」