作品タイトル不明
16 めちゃくちゃ良い事言う!
昼食後に衣装係と共に現れたルーカスと、サラはドレスのデザインについて打ち合わせをした。レイモンドとマリアンはいなかったが、ルーカスの婚約者であるジャネットだけは、ドレスについてのアドバイスをすると言って付いて来ていた。いつも通りイーサンも、部屋の隅に控えている。
「出来るだけ装飾がなくて、動きやすい服が良いの」サラの希望を受け、衣装係が簡単なデザイン画を描いてみせた。
「動きやすいというと、これ位スカート部分は広がりがあった方が良いですよね」
「そうね。あと上半身も腕が動かしやすいように、ここら辺は余裕を持たせて欲しいわ」
「では、袖はレースにしましょう。それなら腕の動きを妨げません」
衣装係は王太子から、サラの事を聖女様と呼ばれている女性と聞いているだけで、その実体も、ましてや魔王との関連も全く知らされていなかった。
ただ王太子が手厚くもてなす令嬢という事で王家の賓客と理解し、全てにYesと答えると決めていたのが幸いし、きちんとサラの希望をデザインに取り入れてドレスはスムーズに決まった。
こうして衣装の話し合いが和やかに終わると、黙って見守っていたルーカスは「気に入った物が出来そうで良かったです。聖女様」とホッとしたように言った。彼は午前中のエイヴァ解任があったので、ドレス作りでもサラがあれこれ難癖をつけるのではないかと警戒していた。
このまま丸く収まるかと思ったところで、ジャネットが口を挟んできた。
「聖女様。これでは、あまりにも質素です。もっと宝石など付ける方がよろしいのではなくて? ほら、胸元に聖女様の瞳と同じブラックダイアモンドなどどうかしら」
最上級に値が張る宝石を勧めて来るジャネットにルーカスは驚き、サラは面白くなって心を読んだ。
『ブラックダイアモンドは、うちの領地でしか取れない宝石。これでルーカス様と王家に恩を売れば、私が王妃になってからやり易いわ』
単純に自分の事しか考えていないジャネットの思考に、サラは(あなたが王妃になる時この国はどうなってるか分からないし、そもそも国が存在するか分からんが)と考えたが、念のためイーサンに確かめた。
『イーサン。ブラックダイアモンド、欲しい? 何かの役に立つかな』
『宝石は魔力を貯めるのに適しているし、その中でもブラックダイアモンドは魔族の魔力には最適だ。魔王様を助け出した後、使い道はあると思う』
それを聞いて、サラはジャネットに大げさに感謝した。
「まあ。ありがとう、ジャネット。あなたってすごくセンスが良いのね。
ルーカス、ジャネットの言うように、ブラックダイアモンドをここに着けたら素敵だと思うわ。衣装係さんもそう思うわよね?」
問いかけると彼は何度もうなずき、「それはもう。素晴らしいお考えです」と褒めたたえた。
ルーカスは苦い顔をしたが「では、すまないがジャネット。ラングリー公爵にダイアモンドの用意を頼んでもらえるか」と仕方なく依頼した。
「かしこまりました。殿下と聖女様のお役に立てるなら、私、これほど嬉しい事はありませんわ」『この女がいなくなればダイアモンドは取り戻せるし、私の功績だけが残るんだもの。確かにこんなに嬉しい事はないわね』
「では、ドレスについてはこれで」ルーカスが衣装係をさがらせた。
「聖女様。それでは、今日も魔王の封印へ魔力をお願いします」
サラがイーサンのエスコートで封印の間へ行くと、そこにはレイモンドとマリアンが待っていた。昨日一日でマリアンは既に飽きてレイモンドに文句を言い、ドレスの話し合いなんて絶対に嫌だと同席しなかったらしい。マリアンを溺愛しているレイモンドは、彼女の言う大抵の我儘は受け入れて許していた。
『レイモンドの甘いのにも困ったものだ』ルーカスが内心で愚痴をこぼすのが聞こえた。『しかしその代わり、エイヴァをクビにするのには目を潰らせたからな』
レイモンドの従弟の婚約者であるエイヴァを解雇するのは、さすがにルーカスにも遠慮があったらしく、サボりを容認する引き換えに出来てむしろ良かったようだ。
前日と同じ様に、ルーカスが板のような魔道具をくぼみに押し当て扉を開け、四人は封印されている魔王の所へ来て球体を見上げた。
(うんうん、よく輝いてるな)
昨日サラがかけたキラキラ魔法はそのままで、ルーカス達は皆、封印が強まっているのだと信じきった。
「それでは、祈ります」サラが声をかけて球体に触れ、中に込められた聖女の魔力を吸い取ると同時にキラキラ魔法を強化した。バレない程度に魔力を吸い取って封印を弱めてから「もう無理です。疲れました」とふらついて言うと、控えていたイーサンがすかさず身体を支えた。
「お疲れさまです、聖女様。また明日もよろしくお願いします」
そんな事を毎日繰り返し、四人が気づかない内に封印はどんどん薄れ、代わりに周りに浮かぶキラキラが目に痛い位になった。
その日もサラが作業を終えて倒れてみせると、つまらなそうに見守っていたマリアンが珍しく声を発した。
「素晴らしいわ。聖女様、もう完璧に出来るみたいですね。
これなら私たちがいつも付き添わなくても、ううん、むしろ付き添わない方が良いんじゃないかしら」
「どういう意味だ」ルーカスが尋ねると「だって聖女様は、終わった後いつも倒れてしまうでしょう。私なら疲れ切って倒れる姿を、毎日人に見られるなんて嫌よ。淑女として恥ずかしいもの。 ね、聖女様だってそう思うでしょう」『そう思うって言ってよ。毎日これじゃ全然遊びに行けない!』
サラは(こいつめちゃくちゃ良い事言う!)と心で喝采を送った。
「マリアン、気づいてくれてありがとう。あなたの言う通り…。本当は、毎日とても嫌だったの。こんな姿を見られたくないわ」
「さすがマリアン、優しいな」感心したレイモンドも、ルーカスに「聖女様もこう言ってるんだ。明日からは、ルーカスの侍従だけがエスコート役として付き添えば良いじゃないか」と賛成した。すっかりこの任務が嫌になっていたジャネットも、横で黙って頷いている。
「しかしこの扉の鍵は、私しか持ってはならない物だから。それに、平和に暮らしているとはいえ、魔族に鍵を預けたら父上が何と言うかわからない」『魔族をこの部屋に入れた事だけでも叱られると思うのに、鍵を預けるなどとんでもない』と、ルーカスは首を振った。
「じゃあ鍵は使う時に聖女様に預けて、終わったらすぐに聖女様からルーカスに返せば良いじゃないか。聖女様一人で完璧に出来る作業の為に、俺たちの時間を半日も取られるのはおかしいよ。我々も、自分のやるべき事が多い身なんだ。効率的にやろうよ」
そう言われたルーカスは、本音を言えば毎日これを繰り返すのに嫌気がさしていた事もあり、遂に聖女に預けるならと同意した。
「聖女様。それでは明日からは鍵をお届けしますので、イーサンをエスコートに封印の強化をなさっていただけますか」
「もちろんよ。任せてちょうだい。私の気持ちを分かってくれてありがとう、みんな」