作品タイトル不明
14 準備を整えクーデター!
「その後はあっけなく悲惨なものだった。私たちは捕らえられた魔王様を救い出そうとしたが、聖女の結界は崩れない。その上、魔法陣は魔王様の魔力を吸い取り、聖女が力を込めた魔道具に蓄えられて、それを使って強力な攻撃魔法を放ってくる。
人間達は私たちの気づかない間に、さまざまな魔道具を作っていたよ。普通ならそんんなものは我々の力で壊せるはずが、魔道具に聖女が魔力を込めて破壊出来ないようになっていた。
魔王様の魔力を吸い取る量は、魔道具に登録された使用者の意志で決まるから、我々はあいつらの要求に従うしかなかった」
アンナが「私はその頃はまだ生まれていませんが、代々語り継がれてきた話があります」と続けた。
「私たち獣人は、それまで魔王様の国で平和に暮らしていました。それなのに人間の支配下になってからは、奴隷として扱われ、時には戦いの道具にされたそうです。魔王様の事を思って、ほとんどの獣人は人間の言う事を大人しく聞きましたが、時には逆らって人間を倒そうとする者もいたそうです。そうすると、人間は魔王様から搾り取った強大な魔力を使って攻撃魔法を放って、逆らった者たちを根絶やしにしました。勝ち目が無いと悟った私たちは、逆らわなくなって今に至っています」
「その最初の聖女は、用済みになったら殺されちゃったんだよね。沢山魔力を使わされて、抜け殻みたいになって」
「その通り。騙されたまま、毎日いくつもの魔道具に聖力をこめさせられて、生きる力が枯渇したんだ。やつらには回復させようという気は無かったからな」
「それはどうしてなの。自然に死ぬまで利用すれば良かったじゃない」
「聖女に媚びる事が嫌だったんだよ。聖女を騙すためには、聖女を大切にしなければならないだろう。そんなを事しなくても、百年はもつんだ。自分が生きている間は安泰なんだから、次の奴らは自分達で聖女を呼べば良いと考えたんだ」
「なるほど」
自分の前の聖女達も、心の声が聞こえるこの能力があれば騙されないですんだのかな、とサラは一瞬思ったが、いや、それでもきっとダメだっただろうなと思いなおした。
この能力は、聞きたくないと思えば遮断できる。きっと王太子に惚れ込んでいたという初代聖女は、王太子の本音を何かの間違いだと思って遮断しただろう。
(私は、ああいう男が一番嫌いだから大丈夫だけどね)
サラは使い捨てられた聖女達に同情する事は止めにした。
召喚された事は別として、その後の事は自分の選択だ。聖女の力は、自分で言うのもなんだが相当大きい。抗う意志さえあれば、何とかなったはずなのだ。
「イーサンは、私が今日した事を見たでしょ。あれを、毎日続けるつもりよ」
「あれは結界の球体から、聖女の魔力を抜き取っていたのか」
「そう。レイモンドの心を読んだら、結界強くなれ~って祈りながら触れると強化されるって言ってたからさ。つまりは私の願う通りになるってことだろうな、と思って、逆を願ったの。結界の魔力を吸い込んじゃえ~って。
だから今私、疲れたどころかすごい元気。元気過ぎて、何かに力を使いたいくらいだよ」
「すごいです!サラ様」アンナが嬉しそうに褒めてくれたので、気を良くしたサラは溢れてしまいそうな力を使って、アンナに魔法をかけた。
「アンナの疲れが癒されますように~」
白金の魔法がアンナを包み消え去った後、髪はつやつや、肌はモチプル、頬はバラ色で美しさが七割はアップしたアンナが立っていた。
「おお!これは良いね。自分にも効くのかな」
自分にも同じ魔法を使うサラの姿を見て、イーサンは脱力しながら、いつの間にか口元に笑顔を浮かべていた。
イーサンの魔王様が囚われて以来、実に三百年ぶりの笑顔だった。
どうも自分よりも人にやる方が効くんだな、さすが聖女仕様と思いながら魔力放出が終わったサラはイーサンに「いずれ封印の球体は、力が無くなって消えちゃうと思うから、輝きをマシマシに纏わせて誤魔化していく。最後に消えちゃったら、すぐに魔王を魔法陣から救出するよ」
「魔王様が消えたら、やつらは今まで貯めてきた魔力を使って、我々を攻撃するだろう。我々も、魔王様ほどではないが魔力を吸い取られているので、抵抗ができない」
「何を使って吸い取ってるの」
「この腕輪だ。これが、その魔道具だ」
イーサンはいつも手首に巻かれている金属製の腕輪をサラに見せた。
「なんだ、早く言ってよ。これもどうせ、聖女の魔力入りだから外せなかったんでしょ。吸い取るわよ」サラがつと手を伸ばし、腕輪に触れた。すると、これを巻かれて以来ずっと感じて来た魔力の無くなる感覚が消え去り、すっと身体が軽くなった。
「はい、終わり。これで外せるはずだけど、まだ外さないで油断させとこう。まだ結界を解除するには何日かかけるつもりだからね。その間に、イーサンは魔力を回復させなよ。出来れば、あいつらが魔力を貯めこんでる魔道具も壊したいな」
しばしぽかんとして腕輪を触っていたイーサンが、「魔道具の所へは王と王太子しか行けない」と教えた。「そっか。じゃあ、何とかあの王太子を信用させなきゃね」
イーサンはサラを見つめ「城にはまだ何人も腕輪をはめられた魔族がいる。城下にもだ。そいつらの腕輪も無効化してもらえるか」
「もちろん。さあこれから、準備を整えてクーデターだよ!」こぶしを突き上げてやる気を漲らせるサラに、
「あの、サラ様。獣人たちも、奴隷にされて身体を壊したり、身体の一部を失った者もいます。いざとなった時戦えるよう、治してもらう事は可能でしょうか」アンナが遠慮気味に尋ねた。
「大丈夫だよ。あの結界から、これから毎日吸い込むし、何だか元々魔力が多いらしくて全然減った気がしないから。よし、こうしよう。毎日結界に行って魔力を吸い取ったら、限界だって言って部屋にこもる。その時にこの部屋一帯に防音と目くらましの結界を張るから、みんなを連れて来て」サラは親指を立ててニカッと笑った。