作品タイトル不明
13 始めの聖女と魔王様
「まだ信じられないが、本当に私たちの味方をするつもりか」
部屋に戻って、サラがイーサンとアンナ三人になり防音の結界を張ると、イーサンがぽつりと言葉を発した。
それを聞いたアンナが思わず「サラ様は、獣人の怪我も治して下さった信用できる方です」と口を出し、「あ、あの。実は私も獣人で…」と話すと、イーサンは「知っていたよ。人間とはオーラが違うから」とあっさり答えた。
「おまえが城にいる獣人たちの為に、こっそり下働きの調理場に食料を持ってきている事も気付いていた。もっとも魔族の者でも、特別魔力が高くないとオーラは見えないから、知っているのは私くらいだろう」
「そうでしたか…」アンナは気が抜けたように返事をした。
「イーサン、私はあなた達の味方をするって決めてるよ。
だから、なんで魔王があんな風に封印されたのか知っておきたい。あの子昨日私の夢に出て来て、私を母上って呼んだんだよね。すごい綺麗な顔した可愛い子だった」
イーサンは苦々しい顔で、魔王が封印された時の事を話し始めた。
「魔王様をあんな状態にしたのは、最初の聖女だ。あの女はあなたと同じく黒髪黒目で、その事を利用してまだ幼い魔王様に近づいた」
魔王様は人間の様に生まれてくる訳ではない。
魂はずっと同じで、その肉体が衰えると一旦肉体だけ滅んでまた魔力が肉体を形造り生まれ直す。
魔王様の魔力と記憶は引き継がれるが、記憶がはっきり蘇るのは大体十歳になる頃で、それまでは幼い子どもと同じに育つ。
「そこを、人間どもと召喚された聖女に狙われた。
昨日アンジェラ国王は、当時の魔王が魔族と獣人を従え、人間を虐げ滅ぼそうとしていたと語ったが、それは嘘だ」
「でも、あの時王様から嘘をついてる声が聞こえなかった」
「それは、あの王が本気でそれを信じているからさ。三百年前に何があったのか、あの男が真実を知るすべはない。あれは自分達に都合よく伝えられた話しか、知らない」
当時我々は、人間の国はもちろん、他の国の事を相手にしていなかった。興味が無くて知ろうともしなかったと言うのが正しいな。我々は、獣人と共に魔王様の治世の元、平和に穏やかに満足して暮らしていた。国は豊かで圧倒的な力を持っていたから、周りを侵略する必要なんて無かったんだ。
「でも、人間の王は違っていた。あいつらは機会さえあれば、我々の力を横取りして自分のものにしたがっていた」
奴らは何度も我々の国へ使節を送り、媚びへつらいながらすり寄ってきた。我々は特に脅威を感じなかったから、来れば拒まず滞在させてやっていたが、それが間違いの元だった。
そんな風に城に入り込む中で、奴らは魔王様の生まれ変わりの時が来る事を、偶然知ってしまった。
人間の王はすぐ神官たちを中心として、過去の文献にあった魔王様と反対の力を持つ聖女という存在を異世界から呼ぶ研究を始めさせ、ついに聖女を召喚するのに成功した。
「その文献って、この国に残ってるの?何でそんな物持ってたんだろう」
「神殿が今も保管してる。それを使ってあなたの事も呼んだんだから。
元々は、何かの拍子でこの世界へ迷い込んだ異界の女性について書かれた本だったようだ。彼女の魔力を研究して、今と同じく搾り取って使ったらしい当時の記録を見て、神官が異界からの女性が魔王様の持つ力と反対の力を持つ存在だと気づいたんだろう」
「魔王の力って言うのは、攻撃と破壊で、聖女は防御と維持っていう事?」
「そうだ。結界は聖女の力の最もたるもので、魔王様と同等の力を持つ聖女が作る結界を、魔王様は破る事が出来ない」
アンジェラ王国の人間達は聖女を召喚した事を秘密にして、使節団の中に当時の王太子から密命を受けた聖女を紛れ込ませ、我々の国に送ってきた。
聖女は来た早々王太子に求婚されて彼にすっかり夢中だったから、魔王を滅ぼさないと人間の国が危ないという嘘を信じて、城の中で魔王様に近づいた。
王太子に教えられた通り、魔王様の髪と目の色が同じことを利用して自分は魔王様の母親だと名乗った。
「お母さんなんて、魔王にはいないんでしょ。なのに何で信じたの?」
「まだ記憶が戻っていなかったから、周りの者達の様子を見て寂しさを感じていたんだと思う。私たちや乳母は近くにいたが、本などで読む母と言う存在がいない事を知っていた事に気がつかなかった、私たちの落ち度だ」
気付かぬうちに魔王様を手懐けていた聖女は、自分達の滞在している部屋へ魔王様を連れて行った。
部屋には神官の描いた魔力を吸い取る魔法陣が描かれていて、その上に魔王様をおびき寄せ、そこで結界を張って封印したんだ。つまり、この王宮は、元々は魔王様の城で、アンジェラ王国が乗っ取ったんだ。
「その結界があなたの見た球体で、中にいるのが魔王様だ」