軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

685話 女王への道②

シャウラから提案された条件を耳にし、ユマは改めて手紙の内容を思い返していた。

ユマもダリヤという名に覚えはなく、性別すら判然としないこの名前から特定の人物に辿り着くのは不可能に近い。

だが、あと少しでこれまで閉じられていた女王への道が開けるのだ。

もう1つの気になる点。

偶然にもリエンと声が重なった"額"という記述からどうにか特定できないものかと、背に掛かる重圧を感じつつも再び思案に暮れる。

「その額はきっとあなたに大きな力を与えてくれる――つまりこのダリヤという子は、まだその時は力を持たない幼子であったということですよね?」

「だろうな。アロイオスが目覚める予定の我が子に向けて謝罪をしているということは、事前に事情を話して了承を得ていたわけではないということ。となるとまだ言葉を十分に理解できないか、もしくは話したところで親元から離れることを拒絶するような年頃であった可能性が高い」

「でも行く先々の国で、人々は力を持たないその子を拒絶した……ということは、多くの者達に強い負の感情を抱かせるほどの、よほど目立つ特徴がその額にはあった……」

ユマのこの言葉で、この場にいた3人が各々に想像を巡らす。

そしてリエンが数秒の間を置き、はっきりとした口調で持論を述べた。

「そのような可能性がある種族など、私は1つしか思い浮かびません。極めて希少でありながらいくつもの文献に登場し、"呪いを振り撒く者"として恐れられた鬼人種……ダリヤは鬼の子以外に考えられないと思うのですが」

「……私も同じ考えです。ただ問題はダリヤという名に覚えがなく、その子が凍結後に目覚めた可能性のある時代――つまりアロイオスの名が初めて登場したエルシャラム王政以降に実在していたと思われる鬼人種は2名いるものの、それぞれが違う名であるということです」

「ふむ……鬼人種だからとて、必ずしも惹起し世界を騒がすとは限るまい。史に名を遺すこともなく生を全うしたか、もしくは幼子ゆえにそれすら叶わず絶命したか……アロイオスは子に名を届ける意図もあったのだろうが、敢えてその名を名乗らなかった可能性もなくはない。ちなみに、その二人の名はなんという?」

「ヨンとシンバです。ヨンは当時の大陸北西部で覇権を握っていたとされるジストリア帝国の人間を見境なく狂人に堕とし、さらには極めて解呪が困難な呪病を蔓延させて周辺国にまで強い影響を及ぼした人物として。シンバは歴史上類を見ない教皇殺しを行なった人物として有名ですね」

「ならばどちらも違うな。ヨンはジストリア帝国の貴族家出自だ。にも拘わらず強い迫害を受け、結果的に祖国を滅ぼし東へ逃げてきたため、我らエルフの近縁に当たる種族が一時的に匿った歴史がある。それにもう一人が殺したのは亜人に対して異常なまでに排他的な姿勢を見せ、大陸中央からの締め出しを行ったとされる教皇アトモファスだろう。となると時代は人間至上主義が広く浸透したカンタレニア大連合国時代の末期。人間と亜人の対立を憂いてトクア大陸戦争を止めるために森を出たとされるアロイオスはまだ生まれてもいない」

「そうですか……」

呟き、ユマは静かに下唇を噛みしめる。

他にも先日目を通した古文書から繋がりのありそうな記述も見つかっているが、果たしてそれがどの時代に該当し、本当にその対象は鬼人種なのか。

精査する時間がまったく足りていないため判断が曖昧になる部分も多く、そのことを悔やみながら焦りを感じていると、二人のやり取りを静かに聞いていたリエンが口を開いた。

「となると、いよいよ可能性が高くなりますね」

「む?」

「ばあ様……? 何かご存じなのですか?」

「ええ。ちなみにシャウラ殿は、現代に存在しているオールランカーという組織はご存じですか?」

「ああ、詳しいわけではないがな。森を出た一部のエルフがそのような徒党に加担していることは耳にしている」

「ならば話が早い。傭兵という、対価と引き換えに荒事だろうと請け負う組織の中でも、際立って個体戦力の高い者達を集めた陰の精鋭集団――その中に自我を崩壊させて意のままに操るほどの呪術を扱える者がいるという噂を耳にしたことがあるのです」

「ほう?」

「仕事を依頼する側にも素性は明かされず、組織の中の 階位(ナンバー) だけでやり取りが進むため、仮に鬼人種が混ざっていたとしても名前はおろかその姿を確認することも叶いません。ですが過去ではなく、この時代に生きているかもしれないのです。同種の者達も参加されているとなれば、シャウラ殿なら事実確認が取れるのではないですか?」

「ふむ……確かに、組織に加わっていた者であれば表に出ない情報を握っていてもおかしくはないか……」

そう呟くと、シャウラは難しい表情を浮かべつつもリエンとユマから視線を外し、何もない宙天に向かって声を発する。

すると少しの間を置いて、シャウラの前方から姿なき女性の声が響き渡った。

「ティアニス、いるか? さすがにまだ寝てはいないだろう?」

『…………ちょっと、急に話し掛けられたから、スローモンキーがラポルの実を持ったまま逃げちゃったじゃない』

「む、すまんな。どうだ、そちらは順調か?」

『ええ、とっても。熱源となる光火球の属性配分だけでなく、効果時間も5分単位で調整してみたら、エイブラウム山脈より以南の作物をさらに追加で150種くらいは育てることに成功したわ。ふふ、これならそろそろ例の種にいくつか手を出してみても良いかも』

「そうか、順調そうで何よりだ。ところでティアニス、かつて傭兵稼業をしていたお前に聞きたいことがある」

シャウラがそう言って本題に入ると、姿は見えずともティアニスの声が明らかに弾む。

『あら、あなたが毛嫌いしていた異世界人の組織に興味を示すなんて珍しいわね』

「そうも言っていられなくなってきたのでな……ティアニスよ。オールランカーの中に、ダリヤという名の者は存在していなかったか?」

『ダリヤ? そんな名前、聞いたことないけど、なぜ?」

「現世に蘇っているかもしれない、ダリヤという名の特異な能力を所持しているであろう存在を探しているのだ。現時点では額に大きな特徴を持つという理由から、鬼人種である可能性が高いと見ている」

「蘇るって……何言ってるのかちょっと分からないけど、鬼人種っていうならあの親子のことかな」

「親子……?」

シャウラは呟きながらリエンに目を向ける。

しかしリエンもその情報は初耳のようで、横に小さく首を振った。

「ティアニス、その親子は二人とも鬼人種なのか?」

「みたいよ。私は娘の方としか会ったことないけどね」

「ふむ……他にその二人について知っていることは?」

「え~大したことは分からないわよ? 元締めの護衛の時くらいしかランカー同士が出会うことなんてなかったし、その時だって専用の衣装と仮面を身に着けることが義務付けられていたから、大半は相手の素顔も知らないままだしね。ただあそこの上位層はうちの女王様並にヤッバイのが揃ってるみたいで、あの勝気なイグリアが若い頃その父親と揉めて死にかけたらしいわよ。もう二度と会いたくないとか言って、この年になっても引き摺ってたから、思わずシーレと一緒に笑っちゃったわ」

「「「……」」」

部屋に女性の笑い声が響く中、3人は渋い表情を浮かべて押し黙る。

話の内容からすると、アロイオスの子である可能性があるのは父親だ。

しかもエルフの中でかなり長命な部類のイグリアが若い頃というくらいなのだから、その揉め事は少なくとも数百か、下手をすれば千年以上は前の話……

滅多に存在しない鬼人種がどれほどの寿命を持つのかは3人も知らなかったが、それほど昔ということであれば、明らかにエンシェントエルフである母アロイオスの血を強く引き継いだ結果のようにも思えてくる。

しかし、可能性が高いというだけで、断定はできない。

それがシャウラの表情にも表れていたため、あと一歩が届かずリエンとユマは焦りを隠せずにいたが――

「あ、そういえばイグリアが、その父親のことをタリーだかダリーって呼んでたわね。それって本当の名前がダリヤだからなんだろうし、今度本人が帰ってきた時にその父親のことを聞いてみたら?」

この言葉で、電撃が走ったように目を見開き、リエンとユマは顔を上げた。