軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

684話 女王への道①

歓迎の宴とは言うも、この時に全てが懸かっている。

そうリエンから聞かされていたため、ユマは開始当初から会話の流れに全ての意識を傾けていた。

決してリエンとシャウラの会話を邪魔しないように。

かつ、不自然なほど黙りこくらないようにと、影を潜めて補助に徹する予定だったが。

「森と共に生きるエルフの伝統的な料理だ。外で食す機会などそうないと思うが、ユマは口に合うかな?」

「えっ、あ、はい。優しい味付けで凄く美味しいです。特にこのシャキシャキとした触感は……もしかしてエナダケですか?」

「ほう。外じゃまず見かけないという話なのに、よく分かったな」

「この五角の独特な形状をしたヒダは、エナダケしか聞いたことがありませんので……」

「どこで食したのだ?」

「それはグリフォード家の屋敷です。珍しい食材が入れば持ち込む御用商人がおりまして、ジュロイ王国やトルメリア王国など、エイブラウム山脈西部の麓で極少量取れることは理解していましたから、初めて口にした時はその芳醇な香りと歯切れの良さに甚く感動した覚えがあります。ただここまで傘が大きく肉厚なモノは見たことがありませんが」

「この森に良く育つ場所があってな。気に入ったのなら帰りに持たせよう。ちなみにこいつは分かるか? 我らエルフが好んで食す若茎で――」

咄嗟に答えた結果が良かったのか。

食材から植生、生物に地域環境と。

シャウラからの問い掛けはその後も続き、次第に試されていると感じたユマが知る得る知識で言葉を返せば、暫くしてシャウラが納得したように深い笑みを零す。

「ふむ……いいな。リエンよ、そなたの孫娘は実にいい。この若さでそなたと同じように会話を楽しめる」

「それはそれは……シャウラ殿からそのような言葉を頂けたとなれば、これはもういつ私が身を引いても問題ありませんね」

「ははは、何を言うか。そなたがいなくなっては私の楽しみが減る。それに――どうだ? 頼まれていたことに進展はあったか?」

……きた。

これまでとは表情を変え、真剣な眼差しでリエンを見つめるシャウラを見て、ここで大きく流れが変わったことを理解したユマは固唾を飲んで二人のやり取りを見守る。

するとリエンは、限られた時間の中で必死に探し求めた依頼の結果について語りだした。

「残念ながら、依然として"菌人種"に関する情報は得られておりません。持ち得る限りの伝手を利用し情報を募っていますが、先祖返りの目撃事例はおろか、それらしい文献情報や伝承すら一切見当たらないというのが正直なところです」

「そうか……」

「しかし、今回は1つの可能性が……もしかすると、とある地にその菌人種とやらが眠っているかもしれません」

「なに?」

「ユマ、そうですよね?」

問われ、自然とシャウラの目もユマに向けられる。

するとユマは緊張からゴクリと一度喉を鳴らし、鍵となる古文書に記されていた文字を思い浮かべて正確に読み上げた。

「パウロンより北、生命の息吹が失われた蕭々たる大地のその先で、数多の探索者達が閉ざされた海氷の中で眠る。決して近付くなかれ。永遠なる氷原の底には氷結の蜘蛛が潜んでいるに違いない――誰が記したかも分からない、古い時代の石板に残された同種同族への警告に類する文書はこの目で確認しております」

「パウロン……? エルシャラムの時代に栄華を誇ったとされる古代都市のことか?」

「まずそういうことでしょう。となると、かつてはこの森にも存在していたというミャクヤン王朝の時代から、多くの亜人種が世界から消えた魔導王国プリムスの暴乱――エルシャラムはこの間に位置するわけですし、その古代人種が眠っている可能性もあるのでは?」

シャウラに求められ、菌人種の情報を探し続けて既に5年以上――その中でようやく見つけ出した糸口なのだ。

これでどうにか前に進むことはできないのか?

そう思って反応を窺うリエンとユマに対し、シャウラは顎を摩りながら数十秒と押し黙り、難しい顔をする。

「……ちなみに、リエンが先ほど申していた、折り入っての相談というのは?」

「兼ねてよりお伝えしておりました戦力の提供についてです。先日、大陸西方で争う異世界人の一角から、敵か味方かを迫る最終通告ともとれる手紙が届き、エルフを含む戦力提供がなされない場合、想定よりも早い段階でアイオネスト王国が大きな戦火に見舞われる可能性が出てきました」

「チッ……相変わらず愚かなことを……」

「つきましては取り急ぎ女王エディナ様への拝謁を認めていただきたく、こうして参った次第です」

「用件は理解した。しかし菌人種を連れてくればそなたとの面会を認めると、そう決めたのは女王エディナ自身だ。血が薄いくらいであればまだ言い訳も立ちそうなものだが、さすがに可能性があるという程度の情報だけではな……それにもし居たとして、氷漬けにされているということならば生きているわけがなかろう? 我らが女王は死体が欲しいわけではないと思うが?」

「それはつまり、女王エディナ様から生死の指定をされなかったということでしょう。シャウラ殿ほど博識なお方であれば、当然【死霊術】の存在もご存じのはず……何があってこの森を離れたのかは存じ上げませんが、その後の菌人種に関係する情報を求めてということであれば、ある意味この時代に生まれた先祖返りよりも価値があるのではないですか?」

「ふむ……てっきり種の復活を狙ってのことだと思っていたが、確かに我らが女王は何を求めているのか、それ次第か……」

「それに私が拝謁を希望したから菌人種を欲したなどということはないでしょう。それ以前から女王エディナ様は探し求め、それでも見つからないから私に依頼した――そう考えると、可能性があるだけでも大きな前進だろうと私は考えています」

「……もしや、森を抜ける者達に甚く寛容になったのもそのためなのか……?」

独り言のように呟きながら悩むシャウラ。

その姿と反応を見て、懸念していた実在しない種族の調査を突きつけられていた可能性は限りなく薄いかと。

そうリエンが判断していると、横から「あっ」と小さく声を漏らしたユマが口を開く。

「あの……可能性は低いと思うんですけど、もしかしたらその氷漬けにされた人達、生きているかもしれません……」

「なんだと……?」

「どういうことですか?」

「先日見た古文書の1つにこのような文書が残されていたのです」

そう言って、ユマは記憶にあるその内容を口にした。

"ああ、愛しの我が子、ダリヤよ。あなたを仄暗い地下に隠し、先の時代に送ったことを許してほしい。私はあなたを護れなかった。どの国もあなたを受け入れてくれなかった。でもその額はきっとあなたに大きな力を与えてくれる。願わくば、目覚めた時代、起こす者があなたに寛容であることを……試練なき終生の中で多幸があらんことを母は望む――"

母が子に充てたと思われる謝罪と幸せを願う手紙。

しかし、その中身を聞き終えた二人は顔を見合わせ、怪訝な表情を浮かべる。

「……ユマ、その内容と今回の件がどう繋がるのですか?」

「うむ。いまいち内容も掴めぬし、さして繋がりはないように思えるが」

「私も先ほどまで気付けていませんでしたし、これだけだとそう捉えられてもしょうがありません。しかしこの古文書は綴られていた4枚の金板書のうちの1枚に書かれており、他の金板書からこの想いを記した母に当たるであろう人物が、"アロイオス"という名であることが分かっています」

するとこの発言にシャウラの眉がピクリと動く。

「それは、あのアロイオスか?」

「どうなのでしょう。こちらでは比較的温暖なチャタラム地方に、主なき後も500年以上溶けることなく形を保ったとされる氷の城――青楼殿を造った人物として有名ですが……人間ならばありえないほど様々な時代の転換期にその名が登場するのですから、もしかするとシャウラ殿に近しい人物なのではないですか?」

「うむ。確かに高祖祖父母の時代、エンシェントエルフの身でありながら森を出た数少ない人物として、私も幾度となくその名を耳にしたことがある」

「なるほど……最初は不可解な内容だと感じていましたが、氷艶の魔女と呼ばれた人物が母なのだとするなら、子を凍らすことで先の時代に送ったと捉えられるわけですか」

「はい。しかも成功事例があったのか、それともそう願うしかなかったのかは分かりませんが、文脈から彼女には我が子が先の時代で蘇る確証があったようにも思えます」

「氷艶の魔女アロイオスの御業と、実在するかも不確かな氷結の蜘蛛とやらが似たような能力を有する可能性か……リエンよ、そちらで探索隊を組み、その地を調査することはできるか?」

問われ、リエンは敢えて悩む素振りを見せつつも首を横に振る。

可能な限りシャウラの意向に添えた方が交渉は有利に進むと分かっていたが、今の造船技術では海氷に捕まると抜け出せずに難破する可能性が極めて高く、特にこの時期、分厚い氷の大地が広がる遥か沖の海へ調査に乗り出すなど自殺行為。

向かわせても帰還できる可能性がほぼゼロに近いなら、安易に安請け合いすることが逆に大きな損失となるし、そもそもそのような時間の猶予も残されていない。

「さすがに荷が重すぎますね……草木も生えない荒涼とした大地はアイオネスト北西部から西に向かってかなり広く伸びていますから、かつての古代都市パウロンがどの辺りに存在したのかはっきりとしない現状では場所が絞り込めませんし、仮に冬期を避けつつ国で動いたとしても、数年から数十年は時間を要する大調査になることでしょう」

「うーむ……となると、ダリヤという未来に送られた人物が後世で無事生き永らえていたのかどうかだな。子に残したと思われるその古文書が人目に触れられているということは、既に誰かが凍ったその者を発見しているということ。もし氷塊を封印のように利用し、中に閉じ込められた者が生還を果たしているのならば状況が状況だ。そなた達の言葉を信じ、発見には至らずとも可能性の一つとして生き永らえた古代の菌人種が見つかるかもしれないと上申し、私から女王エディナに面会条件の変更を願い出よう」

ようやく出てきた譲歩案。

だが、リエンは心の中で焦りを感じる。

ダリヤという名の著名な人物に心当たりがない。

アースガルド王国から持ち帰ってきた情報の中にもそのような人物はいなかったはずだ。

その証拠にユマも口を閉ざしたまま険しい表情を浮かべており、このままでは後一歩のところで立ち止まってしまう。

一度持ち帰って情報を拾い集めるという手もなくはないが……いや、無理だ。

いつエルグラント王国から見切りをつけられるか分からないこの状況下ではあまりにリスクが高く、できることならこの場でなんとか押し切りたい。

何か……道を開き、シャウラの心を傾かせる切っ掛けになり得るモノを………何、か……………?

その時、リエンはハッと目を見開く。

意識が氷海との関連性や母アロイオスの方へと向けられていたからこそ抜け落ちていた気付き。

と同時にユマも呟いたことで、偶然にも二人の声が重なった。

「「額……」」