軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

654話 ラヴァフィッシュ

狩場の手前にずらりと並ぶ、岩板をくり抜いて作られた地下の買取所。

他はもう閉まっているというのに一番入り口に近いこの店だけは人の動きがあり、中に入るとヤマ爺と呼ばれていた爺さんは作業の手を止めることなく、チラリと横目で俺に視線を向けた。

「来たか。思ったより諦めるのが早かったの」

「……まるでこの結果が分かっていたようなセリフですね」

投げ掛けるも答えは返ってこず、カンカンとゴーレムの残骸を叩き割る音だけが響き渡る。

結局あの後、目星を付けた7本の一本橋で思いつく限りの方法を試すも、ラヴァフィッシュは姿を現さなかった。

この爺さんがなぜ俺を店に呼んだのかは分からない。

だが、きっと何かを知っている。

そんな予感から暫く作業を眺めていると、一区切りついたのだろう。

爺さんが取り出した鉱物や宝石を分別しながら呟いた。

「もう他の連中は帰ったのか?」

「……? 他のお店ならもう閉まってますし――、誰も人は残っていないようですけど」

「ふむ、ならばこの場でも問題ないか」

「……」

「まずな、山が動いていないうちは現れんよ」

「山が、動く……?」

「ラヴァフィッシュが現れるのは、この町に富を齎す恵峰ラトアナが活性化した時じゃ。山の頂から煙が上がっていない日にはどうやったって出会えん」

恵峰ラトアナと言われてもどの山を指しているのか分からないけど、話の流れからすると町に最も近いあの山だろう。

活性化――つまり火山活動が活発になった時、ラヴァフィッシュは現れるということ。

そして今は外へ流れ出た溶岩も黒く固まり、町の人達が採掘している真っ最中で煙など上がっていなかった。

となると、次はいつ活性化するのか。

「周期のようなものはあるんですか?」

「2~3ヵ月に1度は恵峰ラトアナの横穴から火を噴き、溜まり場に向かって恵みが流れてくる。はっきりと決まっているわけではないが、もう半月もすれば時期に入るじゃろうて」

「ああ、その程度なんですね。数年単位だったらどうしようかと焦りましたよ」

「他所とは違い、明らかにこの狩場の影響を受けての噴火じゃろうからな。ただし時期になったからと言って、狩場に向かえばどこでも出会えるわけではない」

「あ~やっぱり一本道ですか?」

問うと、これだけでは不足しているのだろう。

爺さんは顎髭を扱きながら曖昧に頷く。

「それはそうじゃが……重要なのは場所だけでなく、流れじゃ」

「流れ?」

「山が大人しい時はどこも溶岩が溜まった池のようになっとるはずじゃが、活性化した時は一部が川のように動き出す。その流れがある場所でないとラヴァフィッシュは現れん。まあワシが知っとるのはこれくらいじゃな」

「おお……ありがとうございます。本来はあの場で抱えている情報を公表したらという話でしたが、誰からも出ていない内容ですし、時期が来て無事出会えたらきちんと謝礼の素材はお渡ししますよ」

言われてそういうことかと納得する。

確かに俺が試した時は、どこも池のように溶岩の動きは静かだった。

しかし、妙だな……

「ちなみになぜ、僕にここまで詳しく教えてくれたのですか? 先ほども他所の店を気にされていましたし、本当は秘匿しておきたい情報だったのでは……?」

当初のルールを崩してでもお礼の素材を提供しようと思ったのは、単純にその中身が有益そうで有難かったからという、いわば俺の気紛れだ。

事前に対価の交渉を持ちかけられたわけでもなく、わざわざ他に聞かれたくない情報を明かしてきたというこの流れに疑問を抱いて口にすると、爺さんは作業の手を止め、初めてこちらに向き直る。

「……お主、異世界人じゃろ? 名は異世界人ロキ――違うか?」

「え、っと……合ってます、けど……」

「フレイビル王国から知らせが来ておってな。向こうでワシらの仲間が大層世話になったと聞いておる。だったら少しは協力してやろうと思ったんじゃ」

「あ、ドワーフ同士の繋がりがあるわけですか」

「今はこの町にいくつかの氏族が残っておる程度じゃが、元々は恵峰ラトアナの裾野がドワーフの郷里とも呼べる地。向こうに移り住んだ者達も元を辿れば同胞じゃよ」

「なるほど……」

だから感謝の気持ちも含めて、俺に情報を寄越したということか?

だったらいいのだが。

「では、また時期が来たら訪れますので」

そう告げて去る時。

俺を見つめる鋭い眼差しを見てしまうと、決して親切心だけではないんじゃないかと。

そんな感情を抱きながら、その日は《パスマキア溶岩洞窟》をあとにした。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

そうして約半月後――。

どうせならそれまでにこの国の地図作りを終えてしまいたい。

そんな思いで、想像以上に広い国土を有する火河の国ナフカを高速で巡ったのちにオランゴートへ戻ると、爺さんの予想通り。

山頂付近から滲みだすように、いくつかの白い煙が上がっていた。

まだ溶岩は溢れ出していないようだが、これでもう恵峰ラトアナが活性化に入ったということ。

待ちに待ったこの状況にワクワクしながら狩場の内部へ直接転移し、すぐに目的の一本橋を近場から順に回っていくと、3本目で爺さんが言っていた状況を目の当たりにする。

「へ~確かに……」

まるで川のように流れていく溶岩は非常にゆったりとしたもので、こうして意識しているから判別できたものの、そうでなければいちいち気にも留めやしないだろう。

魔物によって出現条件の難易度に差はあるのだろうが、今後も希少種探しは苦労しそうだなと。

高揚したこの気持ちを落ち着かせるためにも一度大きく息を吐き、試しで魔物の肉を放り込む。

すると"人の肉"というのは条件に入っていなかったらしく、溶岩の中からこちらに迫ってくる反応を捉えた。

「よし……まずは第一段階クリア……」

となると、問題はここからだ。

新種のスキルを持っているのか、いないのか。

両手をだらりと下げ、静かにその反応を追っていると、目前で溶岩の中から跳ねるように現れた4匹のラヴァフィッシュが俺目掛けて襲ってくる。

その瞬間、真っ直ぐに獲物を見つめ――

「ははっ……!」

歓喜と痛みに震えながら岩のような鱗を掴み取り、素早く頭部を毟り取った。

思っていた通りだ。

ヘルデザートにいたEランク魔物の『サンドフィッシュ』。

あれも砂漠の全域に現れる"場違いな魔物"として異彩を放っていたが、やはりこいつも似たような存在だった。

『【溶岩渡り】Lv1を取得しました』

それはすなわち、【砂泳】のような特殊環境を泳ぐ能力を有しているということ。

しかも今回はラヴァトルガという、似たような効果を一時的に得られるような怪奇料理の噂だって存在していたのだ。

だったら【砂泳】とは違い、可能性はある。

俺も扱える、白文字の可能性が。

(頼む、頼む、頼む……)

もし使えれば、同じ新種でも【落岩】とはまったく異なる実用性が期待できるかもしれない。

煩いくらいに鼓動の高鳴りを感じる中、祈るような気持ちでステータス画面を開き――

「……!?」

グツグツと溶岩の泡立つ音だけが聞こえる狩場の奥地で、俺の叫び声が木霊した。