軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

653話 怪奇料理

アダマントゴーレムは半日狩り続けてようやく出会えるくらいに湧きが絞られていたが、それでも位置付けは一般的な魔物だ。

この狩場に設定されている希少種は別におり、その情報はハンターギルドの資料本にもこのように記されていた。

ラヴァフィッシュ:《パスマキア溶岩洞窟》内部にて、極稀に溶岩の中を泳ぐ下位ランクの魔物に襲われることがある。倒せれば食すことで一時的に暑さを感じなくなるという怪奇料理の1つ、ラヴァトルガの材料になるという逸話も残されているが、人の目に触れるのは10年に一度と言われるくらいに目撃事例が少ない。

ある特定の条件を踏むことで現れる、溶岩の中に潜む魔物。

記憶にある"怪奇料理"という言葉は、自称美食家の放浪貴族ロマンドが書いた本の情報からだと思われるので、その効果はどこまで信用していいか分からないけど、とりあえずハンターギルドも出現率の異様に低い魔物が存在していることは認識しているらしい。

まあこの出現条件じゃ、仮に目撃者がいたとしても既に死んでしまっているパターンの方が多そうだしな。

しょうがないかと思いながら溶岩池の淵に立ち、とりあえず適当な魔物の肉を放り投げる。

「……」

源書に記載されていた条件は、溶岩に餌となる肉を放り込むこと。

え、これだけって思ってしまうくらいシンプルではあるものの、《パスマキア溶岩洞窟》はゴーレムばかりの狩場なわけで、肉なんて自ら持ち込むでもしなければ"人の肉"しか存在していないからなぁ……

誰かが落ちたその肉に釣られて近寄り、慌てふためくパーティに襲い掛かる。

鬼畜のような魔物の姿を想像しながら暫し待つが――。

「あれ……出てこないな……」

溶岩の中から何かが襲ってくるようなことはなく、追加でより多くの肉を放り投げてもその状況は変わらない。

ならばと【広域探査】を使用してみるがそれらしい反応は得られず、本当にこの手順で合っているのかという疑念が湧いてくる。

「与える肉は人じゃないと駄目なのか? いや、場所がここではない可能性も……」

よくよく考えてみれば、黄金ガエルも『新月の夜に特定の水場から姿を現す』というくらいで、具体的な場所や時間までは記されていなかった。

情報はあくまで切っ掛けを得られる程度。

まだこの状況では何かが満たせていない……

そこからは場所を変え、肉を変え、様々に試すも結果は伴わない。

特に溶岩池を横断する一本道なんて地形的にもかなり怪しいと思ったんだが、そこでも何も起きないまま狩場の入り口へと戻ってきてしまう。

やっべぇ……どうしよう。

ヒントは得ているのに答えまで辿り着けない。

受付嬢は何も知らなそうだったが、一旦ハンターギルドに戻って情報を拾い直すか……?

そんなことを考える俺に話しかけてきたのは、見覚えのある買取所のおっさんだった。

「おい、あんちゃん。随分と長く潜っていたみたいだが、種火魔石は拾ってこれたのか?」

「え? ええ、1つは祭壇にあったので」

「ほっほーう。単身で潜って普通に帰ってこれるなんて、あんた只者じゃねーな! で、ゴーレムの残骸は? まさかまったく倒さなかったわけじゃないだろう?」

「それはまあ、途中にいっぱいいましたから――」

「お、回収部隊を回すのか!? だったらうちも一枚噛ませてくれよ! おおよその場所と数さえ教えてくれりゃ~謝礼を渡すぜ! 護衛と道案内までしてくれるんなら、あんたの取り分は4割だ!」

「馬鹿野郎がふざけんな! 俺が真っ先に声掛けたんだから、そこは俺ん所の店で――……」

この怒声に釣られ、店の奥からゾロゾロと出てくる店主達。

再び未回収の残骸という獲物を前に、俺も私もと騒ぎ出す人達を見て、ふと思う。

昔よく見た、抱えた欲を隠そうともしない、見るからに商売っ気の強そうな顔つきをした連中だ。

ハンターのように自ら奥地には行かないだろうが、こうして狩場と出入りする人達を目敏く見続け、様々な情報を抱えているんじゃないのか?

そう思うと、言葉が勝手に飛び出していた。

「その必要はありませんよ。素材は全て僕が回収していますから」

「「「??」」」

言いながら収納から取り出したのは、ここで最も希少なアダマントゴーレムの残骸だ。

そいつを手に持ち、集まっていた10人ほどの店主達に目を向ける。

「ただ僕の狙いは、この狩場で稀に現れるという『ラヴァフィッシュ』でして……そんなにこの手の残骸が欲しいなら、情報と引き換えにあげましょうか? 有益であればあるほど、多くの残骸を提供しますので」

そう告げると場は一瞬静まり返るが、最初に声を掛けてきた店主が探るように目を細めながら呟く。

「今、目の前でそいつが突然現れたのは……いや、それより換金じゃなく、残骸そのものをくれるのか?」

「ええ。ラヴァフィッシュの発見に結び付く有益な情報だったら、ですけど」

「つまり事後ってことか。あんちゃんが目的を達してそのままトンズラこかない保証は?」

「はは、そんなつまらないことするつもりはありませんよ。でも、まあ……心配ならこれをどうぞ」

「「「ッ!?」」」

取り出したのは1枚1000万ビーケに相当する白王金貨。

それらを集まった店主に1枚ずつ渡していく。

「これは保証金のようなものとしてお渡ししておきます。もし僕が自分勝手に情報だけを得て逃げたら最低でもその白王金貨は手にできますし、ちゃんと戻ってくればそのお金は返してもらいますが、それ以上の価値になるであろう残骸であっても情報次第ではお渡しします。それなら皆さんも納得しやすいでしょう?」

「た、確かに……」

「あっさりとこれほどの大金を払うのか……それなら心配はなさそうだが、残骸は当たり外れがあるし、砕いて抽出してみないと価値なんて分からないから俺達は相応の量を求めることになる。情報の対価はいいとして、それほどの量があるのか?」

別の店主の試すような眼差し。

だが気にすることなく、その背後にある店の中を軽く眺める。

砕くための作業場と数人の人影は見えるが、そこまで奥行きがあるようには見えない。

「……あなたのお店が残骸で全て埋まるくらいの量ならすぐに渡せますけど、それでも不満ですか?」

「「「ッ!?」」」

「ただし、似たような情報を個別に聞かされてもこちらとしては意味がありません。なので目撃された場所や当時の状況など……何か発見に繋がりそうな情報があれば、重複を避けるためにも皆さんがいるこの場で発言してもらいます。要は先に情報を公表した人が優先ということです」

そう伝えた途端、一人の店主が叫ぶように口を開く。

「俺んとこの利用客に昔、ラヴァフィッシュを持ち帰ってきた連中がいた! 店を開けてて俺もその死骸を見たんだから、当然時間帯は夜間じゃなく日中。雪がちらつく冬の時期だったのは間違いねぇ!」

「あたしの店にももう10年以上前に、一人だけ生き残って帰ってきたジュエルハンターがいたねぇ。一本橋でラヴァフィッシュの群れに襲われたって言ってたよ」

「ああ、懐かしいな。いつも2台の荷車を用意して、左手の通路から奥地に入ってダマスカスゴーレムを狙ってた5人組だろ? 珍しく人間だけでパーティを組んでたからよく覚えてる」

「そういや、いつの間にかパーティ丸ごと行方が分からなくなっちまった連中も、よく狩場に入って左手側で動いていたような気がするな……たぶん偶然じゃねーだろ」

……やはりだ。

真偽は不明であるものの、次々に出てくる情報は的を絞り込むのに有益そうなモノが多く、すぐに可視化しようと適当な台座を取り出し、記憶にある《パスマキア溶岩洞窟》の簡易地図をその場で描き上げる。

すると興味津々といった様子で周りを取り囲む店主達が覗き込んだ。

「《パスマキア溶岩洞窟》の内部構造はおおよそこんな感じでした。溶岩地帯を突っ切るように抜けていく道は計13本。うち狩場の入り口から左手に入っていくルートだと7本……このうちのどこで過去に遭遇したハンターが狩っていたか、分かる人はいますか?」

「内部構造なんて初めて知ったけど……場所が決まっているのだとしたら一番手前、たぶん1本目か2本目のはずよ。ボロボロになって帰ってきたハンターの依頼で回収部隊を用意した時、場所はその辺りを指示された記憶があるから」

「……それはそいつがそこまで運んだってだけで、少なくとも中盤以降、5本目から7本目が濃厚じゃねーか? ダマスカスゴーレムはそんな手前じゃ滅多に出会えないのに、あいつら半月に1度くらいは残骸を持ち込んでただろう。狩場の入り口付近じゃ絶対にそんな頻度で狩れやしない」

「いや、待て待て、だからと言って奥地とも限らねーぞ。ダマスカスゴーレムは昔から引き狩りと呼ばれる狩り方がある。要は狩場内を探索して見つけたら、足の遅い他のゴーレムは置き去りにしてダマスカスゴーレムだけを安全度の高い手前の方まで連れてくるってやり方だが、そいつらがその方法を使って狩ってたら場所なんてはっきりしなくなるだろうよ。まあ手前じゃほぼ出会わないのは事実なんだから、事故でパーティが壊滅するくらいの実力ってなると、精々中間の3本目か4本目辺りを拠点に動いていたと思うがな」

「「「……」」」

まいったな……

周囲の反応からしてもまったく見当違いなことを言っているわけではなさそうだが、どうにも当たった時の対価を目的に、空いた場所へ滑り込んできたような印象も持ってしまう。

とは言え商人相手に交渉を持ちかけたのは俺自身だし、まだ試せていない左側の7本に場所は絞れてきたのだから良しとするべきか?

そんなことを考えていると、聞き覚えのないしわがれた声を耳が拾う。

「ふん、あわよくばという考えが透け過ぎて、聞いてるこっちが恥ずかしくなるわい」

「ああ?」

「チッ……ヤマ爺か」

振り向くと、腰の曲がった小さい老人が杖を片手に立っていた。

見るからにヨボヨボだが、垂れ下がった長い眉毛から覗く眼つきだけはここにいる誰よりも鋭い。

それにこの爺さん……ドワーフか?

「お主に一つ、問いたい。なぜラヴァフィッシュを求める?」

「え、っと……面白いことが起きそうだから、ですかね」

なぜこんな質問を俺に投げ掛けてくるのか。

少し考えるも意図が分からず、少しぼかして今の気持ちを伝えれば、爺さんの片眉がピクリと上がる。

「面白いこと……?」

「ええ。もしかしたら、世界が広がるかなって」

「まさか、ラヴァトルガの伝説を信じているわけではあるまいな?」

「あーまあ、怪奇料理というやつでしたらあり得なくはない話だと思いますよ。そういった部分も含めて面白そうだなと思っているので」

あくまで俺の狙いはラヴァフィッシュが持つスキルだ。

しかし特定の素材や食事を口にすることで何かしらの効果を得るなんて、MMOやRPGの世界では珍しくもないわけで。

この世界を創ったフェルザ様が、並々ならぬ拘りを感じさせるほどファンタジーな要素を取り入れているのだから、そんな隠し設定があったとしたってまったく不思議ではないだろう。

そう思っての答えに、ヤマ爺と呼ばれた老人は何を思ったのか。

無言のまま暫く俺を見つめたあとに、フムと小さく頷く。

「いつでも構わない。手が空いたらうちの店に寄っとくれ。通路の右手、一番狩場の入り口に近いのがワシの店じゃ」

「え?」

「この場で情報を明かさなきゃ報酬はないって言ってんのに、ヤマ爺は話を聞いてなかったのか?」

「じゃない? 白王金貨を配ってた時はいなかったし」

「それでもあの爺さんなら会話くらい聞いていたと思うが……ふん、相変わらず薄気味が悪いな」

そして何か情報を明かすでもなく自分の店へと戻っていくその後ろ姿を、この場にいる者達は様々な眼差しで見つめていた。