軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

649話 出現条件

「あ、ああ、ごめんごめん。ちょっと楽しみ過ぎて……」

「もう! ほら、ここです! この辺りもロキさんが大好きな内容なんじゃないですか?」

「え? なになに、特定の狩場で稀に現れる希少種『黄金ガエル』は、目立たぬ新月の夜になると、《メディナ湖》、《ボイス湖畔》、《カムタール湖沼》の水面から顔を出し、その姿を現す……!? うぉおお、ッぐ……! マジ、かよ……これ、62番か……?」

「?」

意識が飛びそうになるほどの激痛に耐えながら探すと、予想通り62番の文字が源書の上部に書かれており、60番台でこうなるのかとさらに呼吸が荒くなる。

今までにも希少種の情報は記載されていた。

しかし《夢幻の穴》や《ハマンの氷園》と同じく、各狩場情報の中にこんな魔物が出現することもあるよと。

やんわり濁した内容が記される程度だったため、俺がこれだけ狩場巡りをしても未だ2種だけしか希少種という存在に出会えていなかった。

運が全然仕事してねぇって嘆きながら後回しにしていたけど、なるほど。

湧きは偶然ではなく、何かしらの出現条件が存在していたのなら納得できる。

期待していたSSランクの魔物情報は見当たらないが……うん、これはこれでかなりデカいな。

となると、だ。

頭の中で情報を整理しつつ、俺はこれからどう動くべきか。

作りかけの世界地図を広げて吟味する。

すると興味深げにリコさんも俺の世界地図を覗き込んだ。

「どこに行こうか悩んでるんですか?」

「そうなんだよねぇ。北の隠されたSランク狩場に一瞬飛びつきそうになったけど、アルバートでだいぶ時間を食ったから他所の地図も進めていきたいし、でも強くはなりたいし……」

地図作りは今まで以上に加速できるだろう。

アルバートのように初めから精巧な地図を作るつもりはないし、恒常的に存在する魔物もこれだけ源書の情報を拾えれば、既に8割以上狩れていると分かるのだ。

大半の狩場は立ち寄ることもなく飛ばしていけるのだから、動けば出来上がりまではきっと早い。

だから今まで通り、通り道の地図を国単位で埋めていきながら目的地を目指す方針で良いとは思うが、問題はどの方面に向かうべきか……

地図を眺め、視線は一度アルバートの南部へと向く。

未開の大陸南東に向かえば、中途半端に終わっているエリオン共和国の地図を終わらせつつ魔境に入り、エスペヒスモという場所にいるらしい"バイコーン"から、今一番欲しいと言っても過言ではない"黒い雷"のスキルを手に入れられるかもしれないが……

源書にもはっきり希少種と書かれているのだ。

となると出現方法まではっきりしなければ時間を無駄にする可能性が高いし、様々な亜人が住むとされる魔境はハンスさんも強く警戒するような場所だ。

攻撃的なオールランカークラスの亜人に出くわすと今はかなりマズいので、南東方面は候補から外した方が無難だろう。

また大陸の南西も今はそこまで魅力を感じない。

表ボスがいる水の都ハーディアを巡れば多少なりは強くなれるかもしれないけど、帝国が争う戦地とかなり近くなるっぽいからなぁ……

それでも向かうとなると、目的は中級ダンジョンになるが。

「リコさん、中級ダンジョンの『命脈のジルコニア』って、たぶん位置的には大陸の西側だよね?」

「えーと、そうですね……中級ダンジョンを抱えるゴート市街地が形成されたのはザスマラ山脈の南部、山道からシャビナ海を行き交う船が見えたという記述も残されていたので、たぶん位置的にはこの辺り……今は帝国領になるんじゃないですか?」

「あー思ったより南っぽいのか……となると余計に無理だな」

ニローさん経由の情報では未だ勇者タクヤの所と争っているようだし、ようやく最低限の防衛対策を整え始めた程度のこの段階で余計な刺激を与えても、うちにとっては良いことなど一つもない。

となると、やはり北西――まずはトルメリア王国の地図を作り、その後にファンメル教皇国やハンターの聖地カナン、それにガラスの生産地でもあるオデッセン王国の方面を目指すか。

もしくは北東――ガルム聖王騎士国やアルバート王国辺りから北に向かい、Sランク狩場を抱えているアイオネスト王国を目指すか。

どちらも最終的には北の海に出るはずなので、そのまま《ハマンの氷園》を探すことに違いはないが、聖地カナンはどう考えてもエンドコンテンツな上級ダンジョンを抱える国だ。

俺や仲間の強さだけを最優先に考えるなら一番手っ取り早いだろうけど、一度通い始めてしまうと俺の性格上、数年単位で装備の厳選から抜け出せなくなりそうなのが怖い。

「んー……ごめん、リコさんもう1つ。《パスマキア溶岩洞窟》って地図のどの辺りにありそうか分かる?」

生息する魔物の多くが新種になる、まだまったく足を踏み入れたことがない種別の地形。

そんな狩場がまだいくつか残されている中、Aランク狩場《パスマキア溶岩洞窟》は大陸中央に長く連なるエイブラウム山脈のどこかにあるというくらいで、俺の抱える知識だけだと場所を絞ることができなかった。

規模の大きいハンターギルドで聞いて回るのが一番だろうけど、もしリコさんが知っていてどちらかのルート上に存在するようなら、それを決め手にしてもいい。

そんな気持ちで問うと、リコさんは難しい顔をしながら暫く唸る。

「ん~《パスマキア溶岩洞窟》……"種火魔石"の取得場所として書物でも何度かその名前は見かけましたけど、言われてみれば確かに、どこの国の管理地になるんでしょうね……ごめんなさい私、今この時の情報にはどうしても疎くて」

「あー全然、もし知ってたらなって程度だからさ」

「でも溶岩というくらいですし、それならエイブラウム山脈の最東部が怪しいんじゃないですか? あの辺りは温泉地がいくつもあって、凄く心と身体が癒されると以前におばあ様から聞きましたし」

「温泉? あーそういえば……」

秘蔵院へ向かう途中、ガルムのウォズニアク王に天然風呂の話をされた記憶が蘇る。

良い汗を流せるとかで、ガルムの北にある風呂場にハーゼン騎士団長とお忍びで行っているようなことを言っていた。

その時はいつか自分も寄ってみようくらいにしか考えていなかったが……

なるほど、地熱があるから温泉か。

それなら北東ルートが自己強化にはベストかもしれない。

「そんな不気味な笑い方して……でもロキさんの場合、温泉より狩場の方が楽しみに思ってそうですね」

「はは、強くなれそうかなって思うと、どうしてもさ」

「ふふっ、46番に載っていた《パスマキア溶岩洞窟》の絵を見ても、今までとは毛色の違う魔物が多そうですもんね」

「その期待ももちろんあるけど、でもたぶん、本命はこっちじゃないかな」

そう言って62番の源書にある、3種書かれたEランクの希少種を指差す。

リコさんはしばらく首を傾げていたが、意味を理解した途端、はっと驚きの表情を浮かべた。

「あ、出現地は《パスマキア溶岩洞窟》なのに、Eランクの希少種……?」

「そう。なぜかAランクの狩場に湧く、この場違いな希少種が匂うというか、俺の直感では一番熱い気がするんだよね」

当たるのかどうか。

それは分からないが、俺だけじゃまず一生湧かせられなかったであろう出現条件がここに記されているのだ。

条件が整えられそうな希少種も狙いつつ、北上しながらAランク、Sランク狩場と巡り、北の海に隠された狩場を目指す。

ようやく落ち着いてきたことで始まる新たな冒険にワクワクしながら、その日は当たり前のように徹夜するリコさんと溜めていた情報の整理や収集に明け暮れた。