軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

645話 儚煌の斧

「はえ~前の家より全然綺麗だね……」

「ほ、本当にここに住んじまっていいのか……?」

特別大きくもない、中古の木造家屋。

その前で立ち尽くしている夫婦に説明を続ける。

「前の住人が住んでいた期間は1年2年くらいですからね。お店に近い空き家を僕が買い上げたので、ここなら好きに住んでもらって構わないんですけど……本当にお店は前の建物のままでいいんですか?」

「ああ、仕事場は使い慣れている方が楽だからな」

「それに私達が暮らしていた部分もこれからは保管庫や材料置き場にできるからね。これだけしてもらえたんなら十分だよ」

「そうですか……じゃあ個人的にもまた買いにきますから、何かあればその時にでも言ってくださいね」

そう言ってすぐ近くに建つ、『トムズソース店』と書かれた看板の建物を眺める。

結局こちらから誘ったあの夫婦は、卸しているお店やご近所さんの挨拶回りなどで少し時間はかかったが、こうしてベザートへの引っ越しを快く了承してくれた。

クアドとウィルズさん、それに一番のお得意先になりそうなボーラさん達も紹介しておいたので、これで前のように出稼ぎに行かずとも安定した生活が送れるようになるだろう。

となると……そろそろ頃合いかな?

そう思い、一度俺しか場所を知らない地下の処刑場――『ヘルヘイム』に寄って、余計な感情を殺しながらゴミ掃除と回収を済ませていく。

門番役を担っているフィーリルの存在や転移施設の内部構造など、情報は極力外部へ漏らしたくないため、網に掛かった連中は二重間者の選択肢もなく確殺だ。

くどいくらいに死罪と忠告しているのだからそれくらい当然ではあるが、しかし転移陣を開通させてもう10日。

さすがに噂が広まったのか、邪な考えを持ってここに落ちてくる間者の数もだいぶ少なくなってきたと感じる。

まあこのペースじゃ一向に症状は落ち着かないし、諦めてくれたのならそれはそれで有難いことだが。

「はぁー……そろそろ、外に向けての準備でもするかなぁ……」

そんなことを一人呟きながら、カンストして30分程度で済むようになった【昼寝】と外周工事を繰り返し、夜になってから拠点に帰還。

下台地でリコさんと本を読みながら酒を飲んでいたロッジに声を掛けた。

「ウィグとジェネの防具はできてる?」

「ああ、資材倉庫に置いてあるぞ。デカいから見りゃすぐ分かる」

「お、いいね。じゃあついでに皆の分も配っちゃうか……全員食卓に集合~!」

するとゾロゾロ集まってくる下台地の住民に、用意していた装備を渡していく。

「まずゼオには、前ほどじゃないけど他にもいくつかストアリングが出てきたから渡しとくね。これからはレベルに関係なく魔力を補充したストアリングは全部ゼオに渡していくから、空になったやつはどこか分かりやすいところに置いといてよ」

「む、そうなればだいぶ魔力を使えるな……承知した。風呂の横にでも補充済みと空の置き場をそれぞれ設置しておこう」

「で、カルラにはこれ。ちょっと実験のために種類を変えたから指輪と耳飾りが混ざってるけど、オリハルコンの『攻撃力増加』で【付与】は全て【剛力】にしておいた。これからは気軽――というほどではないにしても作り直せるから、もし付与の補正を別のに変えたいなら言ってね」

「うわーなんか凄いのきた……これはどっちの方が強いとかあるの?」

「いや、もしかしたら使用する素材量が少なければ能力値も下がるかなって思ったんだけどさ。差がなさそうだから、オリハルコンに余力が生まれるまではしばらく耳飾りに統一するかもね」

そう言って、エニーには『魔法攻撃量増加』に【魔力自動回復量増加】を三重で【付与】した耳飾りを2つ。

ロッジとリコさんにも【身体強化】や【自動書記】を使い続けられるように、【魔力自動回復量増加】を三重付与したオリハルコンの指輪や耳飾りを2つずつ渡しておく。

戦闘組ではない二人にはだいぶ贅沢品になってしまうが、素材がアダマントでは三重付与に成功しなかったのだからしょうがない。

そしてゼオやカルラの背後で大人しく待つジェネとウィグにも目を向け、装備の1つを食卓の上に置いた。

「続いて、ジェネにはこんなのどうかなって」

「え? これは武器、ですか……?」

「いや、さすがに小さ過ぎるだろ」

「もしかして料理道具?」

「あ、ジェネに料理を覚えてほしいんでしょ」

「わ、我が主……」

散々な言われよう。

ジェネもこの世の終わりみたいな顔をしているがちょっと待ってほしい。

「ちなみにその『儚煌の斧』、俺が今までに見たどの武器より性能値高いからね? しかも、断トツで」

「「「え?」」」

「まあこれは直接見せた方が早いか……」

近くでは危ないため、斧刃が10cm程度しかない玩具のような斧を手に取り、食卓から離れる。

そして力を込めると、斧刃が3M近くまで瞬く間に巨大化し、振り下ろすと地面が綺麗に裂けていく。

地中でさらに巨大化させたため、引き抜くとウィグの全長と同じくらいの長さになっていた。

「う、うおおおっ!?」

「すっごぉおおおおお!?」

酔っぱらいのロッジやエニーはその光景に思わず立ち上がるほど大興奮。

だが、様子を静かに見ていたゼオはすぐに俺の異変を察知する。

「ふむ……呪具の類いだろうなとは思っていたが、その【飢渇】というのはそんなに早く症状が出るのか?」

「うん。まだもう少しは振れるけど、ここまで巨大化させたら精々あと30秒くらいかな……それ以上この状態を維持させたら俺は空腹で死ぬと思う」

「えー! 死んじゃうの!?」

「よくある一般的な大きさに抑えれば、3分くらいは耐えられたけどね」

それでも3分。

リコさんがそう呟いたことで場は沈黙する中、再びジェネに目を向ける。

「だからこの武器は、まともに人が扱うには難しい。けど、魔物の枠に収まるジェネなら扱えるかもしれないと思ってさ」

「そうなの?」

「狩場を知るエニーなら分かるでしょ。都合良く餌になってくれる人もいなければ動物すらいない――それでも《夢幻の穴》に住む魔物は、共食いしている様子もなく普通に生き続けているんだよ?」

「あ、そっか……」

魔物という、世界にとって都合の良い試練であり資源である存在だからこそ可能性がある。

そう思ってエニーに説明すると、聞いていたジェネは何を思ったのか。

無言のまま手を伸ばし、その武器を握る。

だから咄嗟にジェネの腕を掴み、上空へ舞った。

「死なないとは思っているけど、極度の飢えで暴走する可能性はありそうだからね。何かあったら俺が握る腕を切断してでも助けるから、遠慮なく試していいよ」

「感謝します、我が主」

そしてジェネは、空に向かって斧刃をゆっくりと伸ばしていく。

5M……10M……

すぐに先ほど俺が見せた大きさを越え、それでも巨大化し続ける斧。

そして最近作り続けていた城壁の高さくらいまで伸びたのだろうか?

もはやどれほどの長さなのかよく分からなくなってきた辺りで、ジェネの表情にも目を向ける。

するとまさに耐えるといった表現が正しく、目は血走り、歯を食いしばって自らの握る斧を見つめていた。

「……俺ならもう、確実に餓死するレベルの巨大化と継続時間だけど、どう?」

「物凄く苦しい、ですが……ある時を境に、空腹の底を衝いたような……そんな感覚があります」

「なるほどね……じゃあその状態でも武器を振れる? ウィグじゃ暴走しそうだし、感情を制御したまま飢餓による能力値の低下もなく戦えそうなら、ジェネにその武器を託すけど」

「問題ありません。今の私で扱える限界はこの程度の大きさですが、能力値の低下はないように感じますし、この空腹感を耐えることは可能です」

「オッケー、それなら預けるよ。他にジェネ用のアクセと防具もあるけど……キツそうだし、とりあえず何か食べてきていいよ」

そう伝えると、降り立ってすぐに死体の山へ走っていくジェネ。

武器を手放せば空腹が回復するというモノではないからな。

ギリギリを試した身としてはその気持ちも分かるだけに、苦笑いを浮かべながら放っておくと、横で興奮した様子のウィグが叫ぶ。

「あ、主! ワシも……! ワシのは……!?」

「大丈夫だよ、ちゃんとウィグにも向いていそうな武器は見つけたから」

言いながらウィグ用に用意していた装備を一式取り出す。

「まずこれがウィグに渡そうと思っている武器――『天地棒』ね。あと【魔力感知】の反応からして明らかに人よりは魔力量が多そうだけど、一応アクセと防具の付与は全部【魔力自動回復量増加】にしておいたから、顔のどこかにでもこの耳飾りをぶっ刺しといて」

「え? 棒……? ワシは棒なの……?」

「ウィグよ。その手では刀剣を貰ったところで満足に振れぬだろう」

「だよね。棒ならまだ握るの楽そうだし、似合ってるよ? 強くはなさそうだけど」

「あ、あ、主……? でもジェネの武器みたいに実は凄く強いのだろう……?」

訴えかけるような瞳。

だが見た目は両端に石突がある、長さ2M程度の金属棒だし、実際強くはないからな……

「さっきみたいなぶっ飛んだ火力はまったくないよね。まず刃付いてないし」

「主ぃいいいいいいいいいいい!?」

「でも俺がただの棒切れを渡すわけがないんだから――ウィグ、それにカルラもちょっとついてきて」

「え?」

ゼオはもうこの棒の性能を薄々理解していそうだし、俺じゃ食らったところで意味がない。

だからカルラを無理やり支障のない場所まで連行し、ウィグに使い方を助言する。

「じゃあウィグ、あの木を意識しながらその棒で地面を軽く叩いてみて。できれば3回」

「ふむ……」

すると大きな4本指の両手で掴み、覚束ない様子で地面を叩く。

と、その瞬間――

「うわああああああ!」

「お、おお……!?」

特殊付与の効果が発動し、天地が逆転。

周囲の砂や小石と一緒にカルラとウィグは空へ落ちるも、動揺したウィグが連続して叩けなかったために1秒で効果が途切れ、再び反転。

地面に落下し、呻きを漏らす。

「これで効果は分かったでしょ? 武器自体の強さには何も期待できないけど、【天地返し】の付与効果で1度地面を叩くと1秒間――最大でも3度叩いた場合の3秒間、使用者が意識した範囲の天地が反転する」

「び、びっくりしたぁ……でも凄いね。ボクこんな面白い武器、今まで見たことないよ」

「そりゃ大国で国宝認定されていたような特殊付与武器だからね」

「あ、ああ、あ……主ぃいいいいい!! ワシ信じてたぁあああああ!!」

空から唾が降り注ぎ、思わず顔を顰める。

喜びまくっているようだが、この竜、たぶんリスクを何も分かっていない。

「ただし、この程度の範囲でもかなりの魔力をもっていかれるからね。範囲指定を誤ったら魔物も魔力枯渇で昏睡するんだろうし、この能力を使っただけじゃ敵はほぼほぼ死なないんだから、やらかした時点で自分が殺されるって思った方がいいよ」

「う、うむ……」

「まあそれでも空を自在に飛べるウィグなら上手く扱えると思って預けるんだから、失くさないよう大事に扱ってね」

「も、もちろん! 感謝するぞ主ッ!!」

相変わらず煩いが、自分では使いどころがない癖の強い武器でこれほどご機嫌になってもらえるならそれで結構。

装備配給も終わったし、あとは次の行先を決めるためにも相談を――

そう思って食卓に戻ると、なぜか小型犬のように唸る小娘がこちらを睨みつけていた。

「みんなズルい! 私にもなんか凄い装備ちょうだい!!」