作品タイトル不明
646話 宝物庫に残されていたモノ
「危ない装備もあるから、下手に触ったりしないようにね」
そう言いながら、これは困ったなと。
どうこの場を収めようか頭を悩ませつつ、アルバートの地下道で得られた様々な装備を食卓に並べる。
数だけ見ればそれなりに等級の高い装備品も得られたと思うが、その全てが希少なだけで強くはないか、もしくはかなり癖が強く使い難いか。
あとは一見強力そうに思えて実はハイリスクな爆弾を抱えた呪具でしたという、この3パターンのどれかに該当してしまうため、改めて見直してもエニーにしっくりくる装備というのは見当たらなかった。
だが、エニーも簡単には引かない。
よくよく考えれば、ゼオには魔力貯蔵が可能な『ストアリング』をあるだけ。
カルラには互いに出血効果が高くなる呪具の短剣『赤無垢』を渡していたところに、今回『儚煌の斧』と『地天棒』というジェネとウィグ用の武器まで与えてしまったわけで。
戦闘組の中では、エニーだけがダンジョン産のレア装備を何も持っていないという現状に我慢ならなかったのだろうし、気持ちが分かるだけに問われればとりあえずは応えるが……
「これは?」
「『仙視の耳飾り』っていう呪具だね。身に着けている間は視覚が大幅に向上される代わりに聴覚を失うみたいだけど……いる?」
「……じゃあ、これ」
「『凍結の首飾り』は試したけど相当癖が強いよ。【氷属性耐性】が無効化レベルまで上昇して、水属性と火属性の攻撃に対してもかなり強くなる代わりに身に着けている間は常時冷気を放出するから、結構な量の魔力を持続的にもっていかれる。それにエニーが得意な【火魔法】も阻害されるからまともに撃てなくなるね」
「うう……あ、杖もあるじゃん! これは!?」
「ん~この中では一番当たりの可能性があるけど、この『混沌の杖』も呪具だよ? 【消費魔力上限突破】のレベル6が付いている代わりに【暴発】っていうヤバそうな特殊付与も付いてくるから、使ってたら文字通りそのうち暴発するんだと思う」
「え……それってどうなっちゃうの?」
「さあ。手がこんな状況じゃなかったら確率とか効果を自分で試してただろうけど、今はこの指輪が壊れたらマズいからね。自分の腕や身体が吹っ飛ぶのか、それとも仲間や関係ない人達に攻撃が向くのか……俺の【鑑定】レベルでも稀に暴発するくらいしか情報が出てこないから、はっきりとしたことは分からない」
「……………」
案の定だな……
明らかに拗ねた様子のエニーに、ため息を吐きながら事情を伝える。
「エニーに向いている装備があれば預けるつもりだけど、今回はしょうがないよ。マリーが支配する国という時点でまともな装備は全部押収されているだろうから、装備品はあってもこの手の弾かれた余りものしか残っていないんだ」
かつて見たヴァルツやガルム聖王騎士国の宝物庫と比べれば、単純な数と価値は確かにあるのかもしれないけど、そのほとんどが美術品や骨董品と煌びやかな貴金属ばかり。
俺が欲しい魔道具や装備といった実用性のあるモノは、ごっそり抜かれた感が強いからなぁ……
あの状況でわざわざその手のモノだけ残してきたということもないだろうし、マリーにとっても重要なものは予め奪うか回収していたというのがオチだろう。
「でも自由都市ネラスの裏オークションには潜り込めそうだから、もしかしたらそこで良い装備が手に入るかもしれないし――……」
とはいえ別ルートで希少装備を手に入れられる可能性はまだあるわけで、唇を尖らせちょっと涙目になっているエニーをフォローしていると、そのエニーが突然肩を跳ね上げ、俯きながら足を押さえる。
「いたっ」
「「「え?」」」
何事かと覗き込むと、エニーの太ももから血が垂れており、足元には刃の一部を赤く染めた純白の短刀が転がっていた。
その瞬間血の気が引き、すぐに【神聖魔法】を唱えて治癒を施す。
「……ッ! これ触ってたのはカルラ!?」
「え? ボクこれ飲んでたし、装備は何も触ってないよ?」
そう言って、手に持つ血の入ったコップを差し出す。
じゃあ、どういうことなんだ……?
エニーはしょぼくれながら俺の話を聞いていたわけだし、間違いなく何も触ってはいなかった。
他も腰を上げ、分かりやすく手を伸ばさなければ位置的に届かず、だからエニーの横に座っていたカルラがてっきり落としたのかと思ったが……
いや、それより問題はエニーが傷を負ったというこの状況だ。
傷自体は戦闘組なら日常的と言えるほど浅く、痕も残らずあっさりと完治したが、この呪具はかなりマズい……
果たしてこれで無効化できるのか?
固唾を飲んで見守っていると、エニーの肩越しに白い靄が浮かび上がり、それは次第に獣のような形へと変化していく。
そして数秒後――
「えっ? なにこれ!?」
瞳だけは青く尻尾が異様に長い、純白の狐のような獣が身体を丸め、飛び退いたエニーを追いかけるように肩へ乗る。
その存在は僅かに透けており、何も語ることなくじっとエニーの顔を見つめていた。