作品タイトル不明
637話 新たな町の計画
教会と狩場を繋げ、その情報をハンターギルドだけでなく、商人達が溜まる馬車の停留所にも立て看板を設置し宣伝しておいた。
これで早ければ今日からハンターや憲兵団に所属している一部の人達が通い始め、その情報が町の外にも伝わっていくだろう。
となれば、次だ。
相談していた空き地を求めて町の南へ向かうと、左手に見える職業斡旋ギルドや右手に広く存在する移民区も少し越えた辺りで、ようやく通りに並ぶ商店が途切れて更地に変わる。
南北と東西に延びるいくつかの大通り沿いは民家の建設を禁止しているようで、その奥の細い通りからは家がポツポツと立ち並んでいるが……
「ん~邪魔にならない程度に余裕はもたせて……」
よくある商店で言えば20店舗分くらいのスペースを確保し、土地を整地。
そこから半日掛けて石や鉄を成形しながら、頭の中で描く砦のような建造物を作っていく。
そして――
「思ってたよりも大きいし、物々しい雰囲気なのね……」
「ふむ、これが町役場というものなのか」
ヤーゴフさんとアマンダさん。
いろいろと協力を願いたいこの二人にその中身を確認してもらう。
「2つの施設がくっついているというのもありますし、万が一を考えてかなり壁を分厚くしていますからね」
「なるほど……カウンターが5つに、奥は事務所か。ハンターギルドと同じように受付の業務を円滑にできる者と、管理や数字に強い者を数名用意すればひとまずは問題なさそうに見えるが、力仕事もあるのか?」
「いや、住民情報が書かれた薄い木板と燃料の魔石をちょくちょく地下に運ぶくらいですからね。護衛は魔物にやらせる予定ですし、力に自信がなくてもまず問題ないと思いますよ」
「ほんとに? 少なくとも私は魅力に感じたし、西でも東でも戦争だっていう話を聞くと、すぐに情報が広まって希望者が殺到しそうな気もしちゃうけどね」
この二人と、日中なので今は来れないがダンゲ町長にも時間を作ってもらい、転移陣を利用した新たな町の計画を伝え、その中身を煮詰める相談もしていた。
基本的には居住区のみで、外敵から発見されないことを一番の目的とした、アースガルド第二の町――『ギムレー』
いずれはベザートと同等か、もしくはそれ以上の規模も視野に入れ、発展と安全の両立を目指すアースガルド第三の町――『ウートガルズ』
ベザートは入り口の町として良くも悪くもオープンであり、入国税がないため他国の人間も自由に出入りできるが、新たに作る2つの町はまったく質が違う。
転移陣でしか辿り着く道がないためどこにあるかも分からず、その出入りもこの町役場で住民登録を行い、町によって異なる毎年の『住民税』と求める土地の規模に応じて初期段階に発生する『借地税』。
それに荷車や馬車と共に通ろうとする時は、都度発生する『物品通行税』をしっかり納めた者だけが転移陣を利用できるという限定的なものだ。
《夢幻の穴》さえ経由すれば、なんでも魔力消費が1で済むようならここまで税を取る必要もなかったが、出口が違えば普通の転移と同じ。
距離や移動したモノの体積によって多量の魔力を消費するので、いくつかの形で税を取ったところで、結局その半分以上は転移陣を動かすための魔石代に充てられることだろう。
まあそれでもある程度は残る計算なので、今後そのお金をどこに回すべきなのか。
ぼんやり考えながら肌触りの良い石材のカウンターに二人を案内し、用意していたモノをその上に置く。
「1週間後くらいを目途に開通させる予定なので、とりあえずアマンダさんに至急用意してもらいたいものが2つ――ハンターのギルドカードと似たような『丈夫で薄いカード』と『カレンダー』です」
すると二人の視線は見慣れたギルドカードではなく、地球と同じ365日分の日付が書かれた木板のカレンダーに注がれた。
「えっと、これは……暦でいいの?」
「ですね。アルバートでは普通に売られていたので、参考にしてもらうには丁度良いかなって」
「ふむ……月の満ち欠けで判断していたが、こうして数字に表されると分かりやすいものだな」
「これでお互いに今日が何日なのかを把握することができるので、特に第二、第三の町へ移り住みたい方達には持っていてほしいんです。まあ強制はできないので、ここの壁に大きなカレンダーと今日の日付を分かりやすく貼り出そうとは思っていますけど」
住民税は最低1年からの年単位であとの期間は任意の先払いとし、1年なら1年後の有効期日を打刻して通行証カードを渡す。
そのためにも今までのようなざっくりとしたモノではなく、正確な日付を皆には把握してもらいたい。
「これ、凄く売れそうよね。ちなみに作ったら、ここでも販売してもらえるの?」
「もちろんその予定です。これは6枚の薄い木板で1年の暦が表されていますけど、卓上だったり1枚だけで全てを表記したりと僕がいた世界でもデザインは多様にありましたから、ぜひこの町の人達にウケそうなモノを作ってください」
「了解。これなら見本さえあればどうにでもなりそうだから、纏まった数を何種類か作ってみるわ。ギルマス、とりあえず日雇いでこっちに人を回してもらえない? 数は100人くらい、もっと多くても受け入れるわ」
「うむ。明日の朝には新奇開発所の名前で募集の貼り出しをしておこう。日当は力仕事でないことを考慮すると1万ビーケ辺りが現実的だと思うが、希望はあるか?」
「ううん、それで構わない。ただ材料が間に合うか不安だから、木材の調達と切り出しの方でも募集をかけておいてほしい。そっちは日当1.2万ビーケでいいから」
「承知した」
ん~やっぱりこの二人を同時に呼んで正解だったな……
目の前でぽんぽんと進んでいく話にそんなことを思っていると、再びアマンダさんからお声が掛かる。
「で、カードの方はハンターギルドのカードとまったく同じようなものでいいの? それならこの町の工場で作られているから、ハンターギルドで使っている打刻機と一緒に量産の依頼をお願いしておけばすぐに済むけど」
「大丈夫ですよ。ただ欲を言えばどちらの町か一目で見分けがつくように、片方の色を変えてもらえたらありがたいかなーと」
「あ~色ねぇ……」
「ならば1つを銅にすればいいだろう。素材価値も低く安定的に入手できる」
「おお、鉄と銅なら見分けもつきやすいですし、それ良いですね。あとはギルドカードと同じように、首から下げられるよう穴だけ空けておいてもらえると最高です」
よしよし、順調だ。
これであとは転移先の環境さえ整えておけば、滞りなく進む。
混乱を避けるのと、既に建てられている家の移動をそこまで一斉には行えないため、大々的な告知まではしないが……
こうして町の顔役から少しずつベザート以外の町が作られていると伝えてもらえれば、多少のお金でより確かな安全を買いたいと願う人達は、きっとこの町にも――……
少し先の未来を考えながら二人をもう一つの施設へ案内しようとすると、ついてきたのはアマンダさんだけで、ヤーゴフさんはその場に立ったまま険しい表情を浮かべ、俺を見つめていた。
「だが、それは複製もしやすいということだ。許可などされていない敵の侵入を許せば前提が崩れ、逆に住民は逃げ場がなくなる」
「「……」」
「昨夜もその点は大丈夫だと言っていたが、私にはどうにも納得できなくてな……もしだ。私が仮にアマンダの通行証を奪い、成り代わってその転移陣とやらを通過しようとしたらどうする?」
「【探査】で通行証に表記された名前と本人が一致しているか確認すればすぐ分かりますね。仰る通り、町の安全を揺るがす重大事案ですから、侵入を試みようとした者はその時点で死罪が確定します」
「では私の【隠蔽】がもしレベル10だった場合は?」
ヤーゴフさんの試すような眼差しは、きっと本人も極論を言っている自覚があるのだろう。
それでも今のベザートよりさらに安全な町になると、俺が言い切ったその根拠を知りたいのかもしれないが……
「……それこそ僕が敵の立場として誰かの通行証を奪い、後々のことなど一切考えずに力ずくで転移陣を通過しようと思えばできるでしょう。なので100%安全かと言われるとそういうわけではありませんし、そんな場所は探したところでこの世界に存在するかも疑わしいと思っています。僕だって寝首を掻かれて死ぬ可能性はいつでもあるわけですから」
「ふむ……」
「ただ【隠蔽】レベル10の相手が他人の通行証を所持していたとしても、その事実には気付けます。方法はお伝えできませんが、 そ(・) の(・) 程(・) 度(・) の(・) 障(・) 害(・) なら対処できる確証があるから、こうして行動に移そうとしていますので」
そう告げると、ヤーゴフさんは一瞬目を見開き驚くも、十分満足のいく答えを得られたのか。
「【隠蔽】レベル10を想定してもその程度か……ならば十分過ぎる答えだな。我らが王はただでさえ安全だと言われているこの町の現状に飽き足らず、より住民の安全を考慮した新しい町を作ろうとしているのだと、そのように触れ回ろう」
そう言って満足げに笑った。