軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

636話 33種

時刻は19時過ぎ。

「よーし。もういい時間だし、そろそろ片付けて飲み行くか」

「おっ、今日もまたあの店っすか?」

「あたぼーよ! ウサ耳のチーコちゃんが俺を呼んでるからなぁ~」

最近町の中央区にできたコンセプト酒場なるものにドハマりし、解体場主任のロディが締め作業の指示を出すと、丁度そのタイミングで焦った男の叫び声が木霊する。

「ま、待って……今日は帰らないください! これから緊急の会議です!」

「え?」

それはハンターギルドベザート支部の元サブマスであり、ヤーゴフが職業斡旋ギルドに移った今はギルマスを務めるイリーゴのものだった。

事情は分からないが、ギルマスの指示となれば無下にはできない。

渋々といった様子で解体場の面々がイリーゴについていくと、一番大きな応接室には受付嬢や会計事務の人間など、ハンターギルドの職員が勢揃いしていた。

「おいおい……とんでもない事件でも起きたのか?」

自分達だけじゃないことにまず驚くも、集まっている面々はただゲンナリしているだけというか、事態を深刻に捉えているような雰囲気があまり感じられないのだ。

そのため、新米ギルマスが早速何かをやらかし、これから応急処置に追われるのだろうと。

ロディは場を和ます冗談のつもりで口を開いたわけだが。

「ええ。事件ですね、間違いなく」

イリーゴは真顔で言葉を返し、同時に1冊の本を皆が見えるよう机の上に置いた。

そして全員が自然と首を傾げてしまう言葉を吐き出す。

「まずは見ていただいた方が早いでしょうから、こちらを。先ほどロキ王から提供されました、新しいうちの資料本になります」

「は?」

「この、武器になりそうなくらい分厚い本が……?」

誰も言っている意味を理解できず、ただただ本を見つめて固まる中――ギルマスに次ぐ年長者のロディが恐る恐る手を伸ばす。

そして皆にも見えるようにぱらぱらと1ページずつ捲っていくも、やはりその場の沈黙は変わらない。

と、途中で動きを止めたロディがイリーゴに視線を移した。

「……意味が分からないんだが、パルメラ全域の魔物情報を纏めてうちの管轄にしたってことなのか?」

「違いますね……紛れもなく、今後うちで取り扱う魔物情報が詳しくそちらに記されています」

「どういうことだ? この近くにDランクやらCランクの魔物なんていないだろう? しかも、これほどの種類……」

「正式な決定はギルド本部が狩場の現地視察を行ってからとなるでしょう。しかし実質的には本日から、そちらにも記されている『草原エリア』のF~Dランク魔物15種、『城下町エリア』のD~Bランク魔物15種。それに既存のパルメラ周辺に生息しているフーリーモールに、ルルブの森のフォレストウルフとリグスパイダーの3種――重複を除いたこの計33種がうちの管轄になるということで間違いありません」

そして事の経緯――ロキが転移陣なるモノを設置し、2つの狩場と教会を一瞬で行き来できように繋げたことを伝えると、徐々に現実味を帯びてきたのか場が騒めく。

「う、うちが、Bランク狩場の管轄……?」

「いやいや、それもヤバいが扱う魔物が33種って、そんなギルド、大陸全域探したって存在してないだろ!?」

「っていうか、どこにそんな素材を置く場所があるのよ……それに受付だって3つしかないわよ!?」

「皆さん落ち着いてください! 確かに33種もの魔物を扱うギルドなど他に存在しないでしょうが、先ほどヤーゴフさんにも相談してきましたので、人材を雇用して必ず回しきれるように私が動きます。それにこうして狩場が湧いて出てきたような状況なのです。広く認知されるまでにはそれなりに時間が掛かると予想されますから、その間にベザート支部の2号館を建造することも予定していますのでご安心を!」

いきなり混み合うようなことはなく、利用するハンターが増加しても増員と増築で対処する――宥めるようにイリーゴが説明したことで多少は皆の不安も取り除かれるが、しかしロディだけは目を細め、再び資料本に目を向けていた。

「ギルマス。素材置き場だけは追々じゃ間に合わないぞ。上位ランクになるほど魔物の図体もデカくなる。こんな『F』と『E』ランクを想定して作られた小規模ギルドじゃ、下手すりゃ10匹程度持ち込まれただけで許容を超える」

「そこは問題ありません。先ほど私も確認してきましたが、ロキ王が教会の敷地内に『出張解体場』を建造していました。このギルドよりも大きい建物全てが解体場で、地下にはロキ王独自の巨大な冷凍設備まで整っていましたから、あの規模であれば当面はもつでしょう。なのでロディには明日から解体員をもう一人連れて、そちらで働いてもらうことになります」

「え!? ちょっ……待て待て! 俺が今まで解体していたのはEランクまでの魔物なんだぞ? やたらと詳しく金になる部位なんかも書かれちゃいるが、そもそもCランクやBランクなんて刃がまともに通るかも分かんねーよ!?」

いきなり解体しろと言われても無理があるし、それならできる人材を雇ってから動いた方が間違いない。

そうロディは訴えるも、なぜかイリーゴは笑み湛えた。

「その点も問題ないでしょう。横の応接室にロキ王が解体用にと置いていった、アダマントやダマスカス製の武器がいくつもありますので」

「ま、マジかよ……」

「しかも、それらの武器を使ってなお解体が難しいと感じるようなら、ロキ王が直接皆さんの力を押し上げてくれるそうなので、その時は遠慮なく私に言ってください。……ただあの子が昔、毎日ボロボロになるまで身体を酷使していた姿はよく見ていましたので、どんな修行になるのか、想像すると少し怖くなりますけどね」

「「「……」」」

相手がただ金と権力だけを持つ王などではなく、現場を知り尽くした生粋のハンターであるが故に、これ以上言い訳の言葉が出てこなくなったロディは、せっかく人が増員されてここ最近は落ち着いてきたのになぁと。

天井を眺め、甘えた声で酒をおねだりしてくるウサ耳のチーコちゃんを思い浮かべながらぼんやり考える。

「……給金、増えるのか?」

「各国に1つあるかないかと言われている高位狩場の管轄になるのですよ? 忙しくなる分、軌道に乗れば皆さんの給金は数倍に引き上がると思ってください」

「「「う、うぉおおおおお!?」」」

そう告げると、先ほどとは違った意味で場が沸き、大騒ぎする若い部下達。

そんな姿を目にして、ロディとイリーゴは思わず苦笑いを浮かべた。