軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

626話 夢境

相手はその気になれば思考や記憶も読み解く女神様だ。

理由を聞かれたら答えないわけにもいかず、なぜ俺が蹲っていたのか。

少し落ち着いてから事情を話すと、リルは困惑した様子で俺の告げた答えを反芻しながら質問を重ねる。

「力の抑制だけでなく、痛み……? しかも感情が高ぶったらって、望ましくない感情が膨れ上がった時だけではないのか……?」

「これも抑制の1つなんだろうね。嬉しいとか、美味しいとか、何かに喜んでもその感情に比例して身体中に強い痛みが走る。けど、あくまで痛みだけ、死ぬわけじゃないから」

「そ、そういう問題じゃないだろう!? それでは人としてあまりにも……!」

リアだって断片的な情報を抱えているという程度で本当にこのことは知らなそうだったし、誰もこれほどの痛みを伴うなんて想定していなかったんだ。

だったらしょうがない。

痛みに慣れるか、もしくは感情を殺せればいいのだから、まだなんとかなる――そう思っていたのは俺だけだったようで。

「……その指輪は壊せ。外せないと言っても、ロキなら破壊はできるだろう?」

「え?」

「この状態のまま、すぐに切っ掛けとなる記憶を私が消してやる」

「でも、それで成功しなかったら?」

「……」

フィーリルも、あくまで解決する可能性があるという程度で、できると断言まではしなかった。

その会話も【神通】を通してリルは聞いていたはずだ。

「そ、その時は……済まない。別の指輪をもう一度嵌め直してもらうことになるが、それでも何か他に方法を――」

「無理だよ」

「えっ?」

「俺が持っていた、これ――自戒の指輪っていうんだけど、かなりレアリティが高いんだ。経験上、特殊付与のレベルが『8』なんて、そんな数値はまず探しても都合良く見つかるものじゃないし、かと言って低いレベルの代替品だと効果が弱まって町や拠点に暫く戻れなくなる可能性も出てくる」

「……」

「それに、リアも言ってたでしょ? 仮に治せたとしても、また同じようなことが起きるって。それは自分でも分かっているんだ。親玉の異世界人が西や東で動き続ける限り、争いはなくならない。それどころか、今後より激しくなっていくんだと思う」

「だが、こんな状態……一時的ならまだしも、終わりなく続けばロキの心がもたないだろう!?」

怒気も孕んだように思えるリルの言葉。

それが俺を心配してくれてのことだと分かるから、今は笑顔を作る。

「大丈夫だよ。必ず終わりはあるから」

「終わりだと?」

「俺が誰よりも強くなればいい。争おうなどと……勝てる見込みや望みがあると思わせないほどに俺が強くなれば、少なくとも国レベルの大きな争いは消えると思ってる」

「それまで、耐え続けると言うのか……? 愉悦すら許されない枷を背負って……」

「世界のためとか、女神様達のためとかじゃなく、それが俺の望みだから。だから耐えてみせるし、できればこの事は他の女神様達にも言わないでいてほしい。知られても心配掛けるだけだろうから」

「……」

負い目を感じてほしくなくて、あくまで自分のためだと。

そう告げたらリルは暫く黙って空を見上げていたが、手はぎゅっと強く拳が握られ、視線を落とした時の表情はどこか思い詰めたような……苦しそうな表情を浮かべていた。

だから少しでも話題を変えられればと。

そんな思いもあって気になっていたことに触れる。

「そういえばさ。問題の異世界人と戦っている時、そこにいるのに何をやっても触れられないし攻撃が当たらないっていう、謎の現象があったんだけど……それって理由は分かる?」

「む? 相手が避けるような動きもしていないのに、ということか?」

「そうそう。見えてはいるんだけど、そこだけ隔離されているような感じで、何もできなかったんだよね」

「ふむ、隔離か……少し待っていろ」

そう言ってリルが【分体】を消したので、回収物の整理を始めながら待っていると、いろいろ試してきたのだろう。

「たぶんこれのことだと思うが……軽く何かを振るなりして試してみろ」

10分ほどで戻ってきたリルがこんなことを言うものだから、先ほど自作した鈍剣を握って近づく。

そしてゆっくりとリルに向かって剣を振ると、あの時見た光景と同じ。

剣と、それに俺の腕も一部が消失してしまい、振り抜いた辺りで何事もなかったように消えた腕と剣が元に戻る。

痛みもなければ、何かおかしな感覚があったわけでもない。

「まさにこれだよ。【空間魔法】の応用かと思ったけど再現できなくって、結局なんのスキルを使ったの?」

「【結界魔法】だ。その中でも『夢境』という、最上位の結界を発動させるとこのような効果が生まれる」

「最上位のレベル10……だからあんな反則級の効果だったわけか」

「これが反則……?」

言いながらリルは首を傾げるが、そう思うのは常識外れの神様専用スキルをいくつも抱えている女神様くらい。

使われた時点で何もできなくなるのだから、普通に考れば十分反則級だろうと。

そう思っていたが、ゆっくりと腕を伸ばしてきたリルの姿を見て、何が言いたいのかを理解する。

「あーなるほど。これって 双(・) 方(・) なんだ」

「うむ。確かに一切攻撃を食らわないかもしれないが、逆にこの結界を発動している間はこちらも外に触れることすらできなくなる。回復や複合的な魔法の構築を目的に、時間を稼ぐということなら確かに秀でた能力だとは思うが……私なら自らの攻撃手段も塞ぐこのような手は好んで使わない」

再びスキルを【神眼】に戻し、買ってきたご飯を食べ始めたリルを眺めながら、それでもかなり厄介なことに変わりはないなと嘆息を漏らす。

この世界に置ける絶対防御スキルといった位置付けなのだから、使用されてもこちらが脅威に感じることはない。

しかし、【空間魔法】との相性があまりに良すぎる。

それが一番の問題だ。

これを使われたら最後、【空間魔法】持ちならその間に転移で逃げ出すこともできてしまうので、よりマリーを仕留める難易度が上がったと痛感する。

先日のような正面からの正攻法ではかなり厳しい。

となると奇襲……

(一発で仕留めきるくらいの状況を整える必要があるか)

そんなことを考えつつ、少しずつ静かになっていく町を見下ろしながら終わりの見えない回収物の仕分けを行なっていき、自分が使わないと思うモノは全てクアド商会に丸投げしてから拠点に帰還した。