作品タイトル不明
625話 成長と代償
ベザートの町を一望できる高級宿、ニューハンファレストの屋上に立ち、ぐるりと周囲を見渡す。
もう21時を過ぎたというのに中心部は煌々と光源魔道具の光が灯り、クアド商会の屋上に造った屋外プールはこの時間でも多くの利用客で賑わっていた。
そして、いつもの定位置から町をぼんやりと眺める、金髪女性の目がこちらを向く。
「む、ロキか。どうした?」
「心配だから俺も見張っとこうかと思って。最近ずっとここに張り付かせちゃってごめんね。暫く俺が見てるから、何か好きな物を買い食いしてきていいよ。まだお店もやってるみたいだし」
「ほ、ほんとか!?」
言いながら金貨を適当に数枚渡すと、満面の笑みで屋上から飛び降りていくリル。
その姿を目で追っていると、大通りを歩く若い男女や千鳥足の酔っぱらい集団を器用に避けながら、爆速で魚人が営む露店市の方へと走っていった。
「この時間でも多くの人達が出歩き、ナイトプールまでやっているとは平和なもんだな……」
直接目にすることで染み渡る安心感。
と同時に、この光景が瞬く間に崩れ去る様子も脳裏に浮かび、掻き消すように大きく息を吐きながらステータス画面を開く。
この景色を守るためにも、できることは全部する。
そして俺自身が、誰よりも強くならなければならない。
どんな悪意や理不尽も跳ね返せるくらいに強く――
「……ん? <その他>枠って、こっちは種族固有スキルだったのか」
まだ目を通していなかったスキルの詳細を開き、内容を確認したら早速2つの鉱物を収納から取り出す。
【鉱操術】Lv5 流した魔力量に応じて鉱物を任意の形状に変化させ、スキルレベルに応じた操作をすることができる
土操術とかなり近い存在ではありそうだが、さてどうなるか。
右手には鉄、左手にはアダマントを。
順番に『100』の魔力を流しながら剣の形状をイメージすると、鉄はすぐにそれらしい形へと変化していくが、アダマントの方は少し柔くなったという程度で形は変わらず、さらに魔力を『1000』流すことでようやく握った箇所からゆっくりと鉱物が溶け始めた。
だがまあ、展開としてはここまで予想通り。
鉱物の総量や整形速度だけでなく、鉱物そのものの等級によっても求められる魔力量が変わり、上位鉱物ほど望む形状へ変化させるためには莫大な魔力が必要となる。
そりゃあデカブツの岩男も、鉄はホイホイと形状変化させていたのに、俺のオリハルコン武器は刃の一部を溶かすくらいしかできなかったわけだと。
そんなことを思いながら、出来上がったそれっぽくは見える鉄の長剣に目を向け、性能値が『15』であること。
そして一応武器の枠に収まっていそうなことを確認してから、魔力をさらに『2000』ほど注ぎ込んだ。
より性能が向上し、硬く鋭い刃になるようにと願うが――
「あーマジかよ……」
そこからの大きな変化は見られず、性能値も結局『17』と僅かに伸びただけ。
対してアルバートの一般兵が所持していたと思われる鉄剣は性能値が『38』と表示されているのだから、控えめにいっても俺の自作品はゴミ。
自前の【鍛冶】スキルと連動している感じもしないし、武具を目的とするなら現状のままでは使い物にならない。
となると、だ。
タグを切り替え、【転換】の余剰経験値を確認すると、『1,086,919,235』という、黒騎士を始末した時よりもさらに桁の増えた数字が、水がめの10分の1くらいを満たした状態で表示されていた。
水がめのデカさにも驚きだが、まあこれだけあるなら問題ない。
(【鉱操術】のスキルレベルを『7』まで上げてくれ)
『【鉱操術】Lv6を取得しました』
『【鉱操術】Lv7を取得しました』
そして先ほどと同様、別の鉄塊に『2100』の魔力を注ぎ込むと、今度は性能値が『24』まで増加していた。
念のためにもう『3000』魔力を段階的に注ぎ込んでみるも数値に変動はなく、上昇幅を考えれば仮にスキルレベルをMAXまで引き上げたとしても、パイサーさんやロッジのような経験を積んだ"本職"の仕事にはたぶん追い付けない。
が、他に選択肢がないなら、代用できないこともない程度……
なら、ここでいくべきか。
そう判断し、再びステータス画面を眺めながら祈った。
(【付与】のスキルレベルを最大まで上げてくれ)
『【付与】Lv7を取得しました』
『【付与】Lv8を取得しました』
『【付与】Lv9を取得しました』
『【付与】Lv10を取得しました』
そしてレベル10の必要経験値が2億であることを確認したら、少量抱えていたオリハルコンを、今もっとも不安な『素早さ上昇』を願いながら指輪の形状に変化させる。
魔力が湯水の如く――というか、本当にエグいな……
こんな小さな鉱石を、なんの飾り気もない指輪に変えるだけで1万弱の魔力をもっていかれたが、それでも出来上がった指輪に【付与】を重ね掛けしていく。
既に自戒の指輪でアクセ枠を1つ潰してしまっているのだから、もう1つのアクセや他の装備品に限界まで付与効果を積むしかない。
1つ……2つ……3つ目……
「…………………ふう、いけたか」
【付与】を最大レベルまで上げ、素材は実質最高峰とも言えるオリハルコンだが、まともな装飾技師が作った品じゃないからな。
どうなるかと少し不安だったが、ここまで成功したなら上々だ。
あまり感情的になると激痛が走るため、静かに結果を受け止めつつ【魔力自動回復量増加】のレベル10が三重付与された指輪を眺める。
オリハルコンの指輪:素早さ上昇『2916』 等級: 神話級(2等) 素材:オリハルコン 付与:【魔力自動回復量増加】Lv10 【魔力自動回復量増加】Lv10 【魔力自動回復量増加】Lv10
性能値はたぶん運の要素だと思うが、同じ製作者が同じ工程を踏んでも『小』や『微小』など、結果に振れ幅があると書物には書かれていたのだ。
あとは未だ謎に包まれたもう1段階上の鉱石を素材に充てるか、もしくは皆の分もこれから作成していく必要があるのだから、【鉱操術】や影響するのか不明な【装飾作成】のレベルを上げていく中で、数値が上回ったらその時は入れ替えるくらいで十分だろう。
どうせこれらの装備も通過点。
最終的にはダンジョン産の特殊付与装備を厳選しつつ、場面に応じて使い分けていくことになるんだろうしな。
さて、それじゃあ次だ。
自戒の指輪にも【魔力自動回復量増加】レベル10の付与を一つ重ね、今可能なアクセの強化を済ませたら次の新スキルへと目を向ける。
【無詠唱】Lv5 精霊へのイメージ伝導割合が100%になり、思考のみの伝達を可能にする ただし魔力消費は基本値の105%に増加する 常時発動型
お~危なかったな……
取得していることは理解していたが、何があるか分からないと思って安易に【無詠唱】を使わないでおいて良かった。
消費魔力の増加デバフ付き。
たかが5%ではあるが、どのタイミングで急に魔力が必要になるかなんて分からないのだから、効果が同一なら節約しておくに越したことはない。
しかし、レベル5で105%か……
レベル毎の変動値が1%であればさほど大きく変わることはないが、もしそれ以上動くのであれば――
(【無詠唱】のスキルレベルを『7』まで上げてくれ)
『【無詠唱】Lv6を取得しました』
『【無詠唱】Lv7を取得しました』
そして再び詳細を確認し、期待通りの変動だったことから、さらにもう2つレベルを上げる。
『【無詠唱】Lv8を取得しました』
『【無詠唱】Lv9を取得しました』
【無詠唱】Lv9 精霊へのイメージ伝導割合が100%になり、思考のみの伝達を可能にする また魔力消費は基本値の85%に減少する 常時発動型
5%ずつの変動。
これで【無詠唱】の発動をすれば、通常よりも魔力消費がカットされる。
消費経験値が重過ぎるのでレベル10にするかは悩みどころだが、ここまでなら上げてしまってもまず損になることはないだろう。
これで残す余剰経験値は『842,199,235』
こいつを自己強化のために、全てぶち込む。
『【昼寝】Lv10を取得しました』
『【魂装】Lv8を取得しました』
『【魂装】Lv9を取得しました』
『【魂装】Lv10を取得しました』
『【地図作成】Lv8を取得しました』
『【地図作成】Lv9を取得しました』
『【魔力纏術】Lv9を取得しました』
『【魔力纏術】Lv10を取得しました』
『【時魔法】Lv9を取得しました』
『【空間魔法】Lv8を取得しました』
『【空間魔法】Lv9を取得しました』
『【神聖魔法】Lv9を取得しました』
『【重力魔法】Lv6を取得しました』
『【重力魔法】Lv7を取得しました』
『【重力魔法】Lv8を取得しました』
『【闘気術】Lv9を取得しました』
『【縮地】Lv8を取得しました』
『【錬金】Lv7を取得しました』
『【魔法学】Lv7を取得しました』
『【魔道具作成】Lv7を取得しました』
『【魅了】Lv6を取得しました』
『【魅了】Lv7を取得しました』
『【視界共有】Lv7を取得しました』
『【麻痺耐性】Lv8を取得しました』
『【魅了耐性】Lv8を取得しました』
『【呪い耐性】Lv8を取得しました』
『【闇属性耐性】Lv8を取得しました』
『【雷属性耐性】Lv8を取得しました』
『【光属性耐性】Lv8を取得しました』
『【神通】Lv7を取得しました』
『【神通】Lv8を取得しました』
『【神託】Lv5を取得しました』
『【神託】Lv6を取得しました』
『【神託】Lv7を取得しました』
『【死霊術】Lv7を取得しました』
『【睡眼】Lv7を取得しました』
『【硬質化】Lv8を取得しました』
『【状態異常耐性増加】Lv9を取得しました』
『【嗅覚上昇】Lv7を取得しました』
『【白火】Lv8を取得しました』
『【炎獄柱】Lv8を取得しました』
『【灼熱息】Lv8を取得しました』
『【凍結息】Lv8を取得しました』
『【物理攻撃力上昇】Lv8を取得しました』
『【物理攻撃力上昇】Lv9を取得しました』
『【物理防御力上昇】Lv8を取得しました』
『【物理防御力上昇】Lv9を取得しました』
『【魔法防御力上昇】Lv8を取得しました』
『【魔法防御力上昇】Lv9を取得しました』
『【不動】Lv8を取得しました』
『【衝撃波】Lv7を取得しました』
『【廻水】Lv8を取得しました』
『【鏡水】Lv8を取得しました』
『【透過】Lv8を取得しました』
『【恐怖】Lv8を取得しました』
『【封印】Lv7を取得しました』
『【陽炎】Lv7を取得しました』
『【砂硬鱗】Lv8を取得しました』
『【帯電】Lv7を取得しました』
『【底力】Lv8を取得しました』
『【紫水】Lv8を取得しました』
『【穢れた霧】Lv7を取得しました』
『【水蹴】Lv6を取得しました』
『【水蹴】Lv7を取得しました』
『【月喰】Lv7を取得しました』
『【座陣刃】Lv8を取得しました』
『【烈風】Lv7を取得しました』
『【泥化】Lv6を取得しました』
『【泥化】Lv7を取得しました』
『【粘糸】Lv5を取得しました』
『【粘糸】Lv6を取得しました』
『【粘糸】Lv7を取得しました』
『【脱皮】Lv7を取得しました』
『【火光尾】Lv6を取得しました』
『【火光尾】Lv7を取得しました』
『【地縛り】Lv7を取得しました』
『【無面水槍】Lv7を取得しました』
『【睡夢鱗粉】Lv6を取得しました』
『【睡夢鱗粉】Lv7を取得しました』
『【膨張】Lv4を取得しました』
『【膨張】Lv5を取得しました』
『【膨張】Lv6を取得しました』
『【膨張】Lv7を取得しました』
『【共食い】Lv7を取得しました』
『【分裂】Lv7を取得しました』
『【麻痺針】Lv7を取得しました』
『【産卵】Lv7を取得しました』
『【毒牙】Lv5を取得しました』
『【毒牙】Lv6を取得しました』
『【毒牙】Lv7を取得しました』
『【放天乱羽】Lv5を取得しました』
『【放天乱羽】Lv6を取得しました』
『【放天乱羽】Lv7を取得しました』
『【寄生】Lv2を取得しました』
『【寄生】Lv3を取得しました』
『【寄生】Lv4を取得しました』
『【寄生】Lv5を取得しました』
『【寄生】Lv6を取得しました』
『【寄生】Lv7を取得しました』
『【魔物使役】Lv9を取得しました』
『【紫水】Lv9を取得しました』
『【座陣刃】Lv9を取得しました』
『【砂硬鱗】Lv9を取得しました』
『【鉱操術】Lv8を取得しました』
『【土操術】Lv8を取得しました』
『【光合成】Lv8を取得しました』
「…………キ……ロキッ! 大丈夫か!?」
余剰経験値を使い果たしてステータス画面を閉じると、いつの間にか戻っていたリルが抱えた荷物を放り出し、しゃがみ込んで心配そうに俺の様子を確認していた。
そんなに酷い顔をしていたのだろうか……
だとしたら申し訳ないな。
まだこの痛みには慣れていないんだ。
でも大丈夫。
今までもそうだったし、これからもそう。
痛みはいずれ慣れるから。
だから、きっと大丈夫。
「心配、しないで……すぐ、収まる、はずだから……」
そんな言葉を口ずさむも、リルは苦しそうな表情を浮かべて暫く俺を見つめていた。