作品タイトル不明
621話 自戒の指輪
「これか……」
ほぼ無意識に近い中で、死体と共に回収した記憶だけはある兵士達の所持物を漁っていると、聞いていた通りの形状をした装飾具を発見する。
対になっている2つの指輪と、その2つを繋ぐ1本の鎖。
どうやらこの全てが1つの装飾具という判定になっているようで、【鑑定】を通して見るとこのように表示された。
自戒の指輪:素早さ上昇『815』 等級: 幻想級(3等) 素材: 黒鉄(ダマスカス) 付与:【抑制】Lv8 衝動的な欲求を抑える代わりに装備者の能力を低下させ、抑制のための痛みを与える
スキルレベルがカンストしたことで等級の表示が変わり、あの時リルだけが見えていた『性能値』もようやく把握できるようになった。
これはこれで興味深く楽しみではあるが、今重要なのは特殊付与と思われる『抑制』の方で、こいつがリアの言っていた効果を引き出してくれるのだろう。
「これを、それぞれの手に……」
先ほどリアに言われたことを思い返しながら、鎖で繋がれた2つの指輪を最もサイズの合う中指に嵌めていく。
するとなんとも言えない脱力感と共に、自分自身でもはっきりと分かるほど、湧き上がる黒い感情が薄らいでいくのを感じた。
ああ……こんな言葉が適切とは思えないし完全に消えたわけじゃないけど、久しぶりに人に戻れたような、そんな感覚だ。
痛みも指先がチクチクと痛む程度で、これなら問題なく拠点やベザートにも帰れる。
となると、あとはどれほど力が抑制されているのか。
町に異常はないと言っていたので軽く身体を動かしながら山を駆け、数日前にも自然と足を運んでしまったAランク狩場 《シトラスの森》に到着。
誰もいない狩場で感触を掴むように魔物を倒していき、おおよその現状を理解する。
「力というか、全てだな……」
筋力だけであればありがたいと思っていたけど、そんなことはない。
魔法の威力は明らかに規模が小さくなっているし、露骨に差を感じる敏捷なんかは体感で半減しているのではないかと思えるくらい、自分の動きが遅くなっていることを実感できてしまった。
判別不能な幸運を除けば、一切影響がなさそうなのは魔力量くらい。
でもまあ、魔物を倒す分には苦労することもないし、この状態のままだとマズいのはオールランカークラスの強者と遭遇した時か、もしくは裏ボスを相手にする時くらいか。
そんなことを考えながら一度指輪を外そうとするも、
「ん……あれ、これってそういう仕様なのか……?」
強引に引っ張っても外すことができず、ここでリアが大罪人用の装飾具と言っていた本当の意味を理解した。
考えてみれば当然で、衝動的な欲求や能力を抑えるための装飾具なのに、そいつを自由に取り外せたのなら意味がない。
つまりこれは、枷や手錠の一種。
鎖は30cm程度しかなく、武器は両手で握らなければ満足に扱えないし、何かを殴りつけるような動作もまったくとれそうになかった。
【空間魔法】や新しく入手した【鉱操術】を使用すれば、まず間違いなく破壊はできるだろうが……
気になるのは【抑制】レベル8という付与レベルの高さで。
謁見の間でも見た顔が、大事そうに場違いな荷物を抱えながら陛下を護れと必死に叫び、派手な服を着た肉の塊が地位や宝がどうだと叫んで命乞いをしていた光景が蘇る。
等級を見てもそうだし、あの状況から考えてもこの指輪のレアリティは相当高い。
それこそアルバートでは、国宝クラスと判断されるくらいに。
そうなると、安易には壊せない。
もし替えを見つけたとしても、【抑制】のスキルレベルが下がることで俺の抱える症状が強く表に出てしまっては意味がないのだから。
「しばらくはこのまま様子を見るしかないか……」
今はそう判断するしかなく、一度狩場から空を舞い、荒廃した王都『ロミナス』の状況を確認。
現実をしっかりと受け止めてからベザートの様子を見に帰還した。