軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

607話 報復

迫ってきたら迷わず殺す。

そんな忠告も空しく、四方八方から湧き出たように兵士達が群がり囲まれる。

石材だけでなく、何かしらの金属も多用された重厚感のある城の入り口。

そこですぐに俺は足止めを食らっていた。

「しーーーしゅッ!! なんとしても死守だ!! 絶対に螺迎門を通すなぁああああ!!」

まあ、わざと足を止めているとも言えるが……

マリーがこの付近に潜んでいるのか。

何も反応が拾えないためそれは分からないけど、不確かな隠れ家を見つけ出すよりは、この場に現れてもらった方が俺としても都合が良いからな。

あの女のことだ。

俺がまだ生きていることを知り、尚且つ自分が必要としているモノを次々奪われていると分かれば、嫌でも止めにくるだろうと。

そう思い、手始めに損耗を避け、方々から人を集めて抱えていたであろう大事な兵力を削ぎ落としにかかる。

「怯むなぁああああ!! 武器を突き出し道を塞げ! 相手は手負いだ! 身を挺してでも動きを止めろォ!!」

しかし、酷い 面(ツラ) だ。

先ほどから指揮官らしき人物が声を張り上げ、その度に兵士達が毒液か、それとも麻痺薬か……

何かが塗りたくられた刃をこちらに向けて突撃してくるが、強く記憶に残る、かつてラグリースに侵攻してきたヴァルツの兵士達とは大違い。

なんの覚悟もできておらず、この行為に対して夢や希望を抱いている様子もなく。

ただ道を塞ぐための捨て石として、避けられない命令に絶望の表情を浮かべているのだから、あの奇をてらった塔からの攻撃が周知されたものではなかったことが窺い知れた。

そんな中、じわりじわりと押し寄せていた衝動が、ジュロイで約8000人を始末した時の覚えある感覚まで到達したことに気付く。

一瞬背後を振り向けば、城門前の広場に広がる大量の死体と、それらの死体を乗り越えて迫る兵士の群れ。

(まだ6000人弱……だいぶ早まってきてるな……)

想定よりもペースが速く、このまま敵の本拠地で戦い続けた場合、どこまでこの衝動が強くなるのか。

少し不安に感じつつ、目の前で奇声を発しながら振りかぶる兵士達を纏めて斬り飛ばしていると、再び指揮官と思しき男の叫びが響き渡る。

「避ける隙間を与えるなグズ共がッ! ここで身体を張らねばどこで国と陛下のお役に立てるというのだ!? 斬られようと腕を掴むくらいの気概を――……」

「さっきからうるせぇなぁ……」

一度大きく飛び跳ね、そのまま上階から見下ろすように指示を飛ばしていた男の下へ向かうと、まったくこのような動きを想定していなかったのだろう。

小さく悲鳴を上げながら後退るので、無言のまま近づき腹に剣を突き刺す。

「あが……ッ」

「ほら、どうしたんですか。腕を掴んで僕の動きを止めるんでしょう?」

言いながら捩じり、刃を下に向けて僅かに押し込むと、その男は顔面を蒼白させながら懇願した。

聞くに堪えない、ノイズのような言葉。

「ぉご……!? まっ、て……た、たすけ――……」

「……てめぇでできもしないことを、偉そうに指示してんじゃねーよ」

「あ゛あ゛あ゛……」

そのまま真下に切り裂き、まだ意識のある頭を掴むと、抗いようのない死を理解したのか。

先ほどとは一転して力なく俺を睨み、息も絶え絶えに恨み節を吐き出す。

「た、った一人で、何が、できる……マリー様が、来れば、貴様なんぞ……」

「そのマリーをこっちはずっと待ってんだよ、アホ」

「へぁ……?」

用がなくなりそのまま放り投げると、異様に足の長い男は悲鳴と共に、いろいろなモノをぶちまけながら先ほどの広場へ落ちていく。

ほんの少し前までの喧騒が嘘のような静寂。

他にも聞こえていた指揮官らしき声はピタリと止み、固まったように上を見上げて動かない兵士達を眺めながら思考に耽る。

自己回復のためにかなり消費した魔力を少しでも回復させておきたいのと、始末した数をカウントしておきたいという狙いもあって、比較的ゆっくりと攻め寄ってくる兵士を狩っていた。

が、いくら警戒してもマリーが紛れて襲ってくるようなことはなかったし、先ほどの男もまだマリーがここにはいないような話しぶりをしていた。

大した立場でもなさそうな男がそこまでの情報を握っているとは思えないが……

この程度の動きじゃ足らないのか?

それならもう少し派手に――いや、それこそ陛下がどうのと言っていたし、ケジメを付けさせるためにもこの国の王を直接探して狙ってみるか、もしくは始末した上でこの国が抱える宝物の類いを奪った方がマリーも動くのではないかと考えを切り替え、探査を使用しながら城塞内部を進んでいく。

王の反応が拾えないのはこの城が広いからなのか、それとも魔道具か何かで守られているからなのか。

相変わらず四方から兵士が武器を片手に駆け寄ってくるも、俺自身も動き続けているため、先ほどのように身動きがとりにくくなるほどの混戦になることはない。

腹の限界を感じつつ、それでもこの国で仕入れた魔力ポーション(中)を飲みながら徘徊し、時に寄ってきた兵士から場所を聞き出しつつ探索を進めていると――

「へえ……これは凄い歓迎だ」

ようやく謁見の間だと、一目で分かる広大な部屋に到着する。

そこには数百人――もしくはそれ以上の人間がいるんだろうな。

派手な鎧を着た兵士達が部屋の中央で身を寄せ合うように固まり、その両脇にはローブや軽装を纏った魔導士風の者達がずらりと並ぶ。

近衛と思われる兵士達が玉座を隠すように陣取っているけど、肝心の王はその奥にいるのか。

そしてこの中に、マリーは潜んでいるのか……

「巨大な砲撃型の魔道具で僕を殺そうとした。その責任をこの国の王に取らせるためここに来ましたので、そこをどいてくれませんか」

一応声を掛けると、先頭に立つ一際派手な鎧を身に纏った男が言葉を返す。

「そのような提案が呑めないことなど、貴殿も分かっていよう。今、許可なく撃ち放ったオーリッジ子爵を捜索している最中だ。生きているのか死んでいるのか、それすら分からぬが……必ずその者は引き渡す故、それまで待ってはもらえ――」

「それこそ、無理な話だって分かっているでしょう?」

生死不明の実行犯を差し出すだけで許されるなんて、そんな馬鹿げた話に納得するわけないだろう。

そんなことが罷り通るのならば、切り捨て要員さえ作ればこの先なんでもありになってしまう。

先頭に立つ男も、内心では分かっているんだろうな。

余計な言葉を吐き出すことなく瞳を閉じ、何かを決心するように大きく息を吐くと、城の入り口付近にいた連中とはまったく異なる鋭い視線をこちらに向けながら剣を抜く。

「ならば国を――、陛下をお守りするため、貴殿とはここで戦うしかあるまい」

「……今戦えば、この場にいる人達は途中離脱も許されることなく確実に死にますが、本当にいいんですか?」

「ッ……国家存亡の機に臆してなどいられるものか! 総員、構えよ!! ここでの我らの動きがッ! 覚悟がアルバートの未来に大きな光を灯すと思え!!」

「「「ハッ!!」」」

守るべき立場がある者ほど盲目的になりやすいのか?

大層な覚悟だが、マリーが実効支配している時点でアルバートにろくな未来などありはしないだろう。

まあセルリック侯爵と違い、こうして国の中枢に居場所がある者達にとってはまた見え方が違うのかもしれないけど……

下層にいた連中よりも明らかに強い相手。

堪らず一歩、また一歩と足を踏み出すと、分かりやすいくらいに表情が強張り、空気がヒリつくほどの緊張が伝わってくる。

大義を抱え、死を覚悟した者達との戦いだ。

ここでアルバートの精鋭集団を食らい尽くせば、俺はどれだけ強く――……

抜き身の剣に手を添え、言い知れぬ高揚感に呑まれないよう指先を軽く傷つけながら一団に向かい歩いていると、不意に兵士達の一部が喜色を浮かべ、僅かに空気が緩んだことを肌で感じる。

兵士達の視線は、俺よりもさらに後ろ。

振り返ると、謁見の間を仕切る巨大な扉から、異質な雰囲気を醸し出す黒ずくめの存在が一人、二人と。

一切の気配や焦りを感じさせない歩みでこの部屋へと入ってくる姿が視界に入った。

「ようやくか……」