軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

608話 7人の黒騎士

同一の不気味な文様が入った黒の仮面に黒いローブ。

これが噂の黒騎士と呼ばれている連中で間違いないだろう。

背丈の違いは見られるが、スッポリと頭からフードを被った存在が総勢7名、入り口を塞ぐように立ち並ぶ。

と、しわがれた女の声が耳に届いた。

「ここに来るまで、どこもかしも通路は死体だらけ。随分と派手にうちの兵士を殺してくれたじゃないか」

「警告もお構いなしに斬りかかってくる兵士を相手にしただけで、これでもかなり遠慮はしたんですけどね。それにあなたがなかなか来ないから、兵が身体を張って僕を止めていたんでしょう?」

「はっ、まるで私を待っていたような言い草だね」

「その通りですよ。あの砲撃は冗談で済むような威力じゃなかった。僕を本気で殺そうとした責任はこの国の王とマリー、あなたにとってもらうつもりですから」

「……そうかい」

目の前から声が聞こえてくる独特の感覚はたぶん【遠話】だ。

敢えてこの距離でもスキルを使うのは、特定されるのを避けるためだろうが……

当たり前のようにスキルは見通せず、気配などの感覚も掴めない7人の黒騎士を順に眺める。

異様にガタイの良いのが一人と、巨大な鎌を持ったヤツが一人に、杖を持ったヤツが二人。

あとの三人に目立つ特徴はなしか……

7人のうち、どいつがマリーなのか。

全員が違う可能性も考慮し、後方にも意識を向けつつ黒騎士の動向を注視していると、先ほどのしわがれた声が独り言のような呟きを漏らす。

「まったく、ここまで予定が狂うことになるとはねぇ……」

「……」

「場所を変えようか。この町の南にある湖を越えれば、その先はだだっ広い平野だ。とりあえずそこに来な」

「なぜ、あなたの望む場所に行く必要が?」

ここに現れるまでそれなりに時間も掛かっているのだ。

狡猾な女がわざわざ指定する場所など、何が仕掛けてあるのか分からない。

それに、まだ……

一瞬、背後に目を向けようとしたところで、先ほどまでとは違う怒気も孕んだ声が耳に響く。

「これ以上ここで暴れるつもりなら、今すぐにベザートの町を消し炭にしてやる。ただの一人も生かしやしないよ。それでもいいなら好きにするんだね」

それだけを告げると、こちらの返答も待たず7人の黒騎士が固まるように集まり、数秒後には転移だと分かる消え方でその場から全員が姿を消す。

向こうは向こうで、自国を守るための行動をとっているわけか……

罠があるのかないのか、そもそもどんな場所なのかも分からないが、こうなると仕方がない。

「……命拾いしましたね」

改めて振り向きそう告げると、玉座を隠すように固まっていた兵士たちは、それでもなお茫然と立ち尽くしていた。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

静けさの漂う広間にコツコツと、徐々に離れていく一人の足音だけが響き渡る。

そしてロキが巨大な入場門から消えていくその姿をひとしきり眺めたあと、緊張を吐き出すように大きく息を吐いた団員の一人が、堪らずといった様子で声を漏らした。

「わ、我々は助かったのですか……」

するとその言葉に、周囲の者達も様々な反応を示す。

「ああ。マリー侯爵が救援に来てくださなければどうなっていたことか」

「間一髪だったな……本当に……」

「お、おい、お前達! まだ終わったわけではないのだ。気を緩めるな!」

言葉だけでなく、極度の緊張からその場に座り込む者達もいる中で、思わずその様子に声を張り上げ叱咤する副団長。

しかし、真正面から対峙していた近衛騎士団長ホーゼは剣を納めると、小刻みに震える手を隠すように強く拳を握った。

同じ異世界人ということなら自国にはマリーという存在がいるし、普通ではないことだけは分かる黒騎士の面々もこうして幾度となく目にしている。

しかしあれは……

圧倒的な強者を前にした時とはまた違う独特の恐怖感が心を浸し、姿が消えた今となっても震えが止まらない。

アルバート国軍の精鋭だけでなく、黒騎士やマリー侯爵を前にしても変わらない、あの目や雰囲気に中てられたのか。

呼吸を整えながら自らを落ち着かせていると、副団長から声が掛かる。

「ホーゼ団長。ひとまず難は去ったようですが、どうされますか?」

「うむ……まずは陛下にご報告だ。ディグアス城塞――いや、できればこの王都ロミナスから一時的にでも避難していただく準備を進めなくてはならん」

この言葉に周囲がザワつき、真意を確かめるように副団長が問う。

「それはつまり、まだこの王都で何かが起きると……?」

「さあな。宰相曰く、オーリッジ子爵は異世界人ロキだけでなく、アルバートという国そのものに恨みを抱いている可能性があるという。安否が分からぬ以上何をしでかすか分からぬし、異世界人ロキは確かに砲撃の責任を陛下とマリー侯爵に取らせると言っていた」

「だ、団長は、あの数の黒騎士とマリー侯爵が敗れ、再びあの男がここに現れるとお考えなわけですか……」

信じられないといった様子で副団長が呟くと、ホーゼは否定とも違う、曖昧な態度で首を緩く横に振った。

「黒騎士が同時に6人動くなど聞いたことがないし、マリー侯爵自身も戦われるおつもりなのか、あのような恰好をされていたのだ。私だってまずないと思いたい。が……可能性がまったくのゼロではない以上、対策を取るのが我らの務めだろう。各部隊長と共に準備をしておけ」

「承知しました。しかしそうなると、近衛だけでなく王宮騎士や王宮魔導士部隊にも準備を進めてもらった方が良さそうですな」

「だろうな……他にも回せるよう献言してみるが、そうなる可能性は高いと思っておいてくれ」

本音を言えば、戦力と人手を割きたい箇所は山のようにある。

空を虹色に染めた魔導兵器によって、町は鳴り止まぬ警報と脱出を図ろうとする住民達で混乱状態。

外周壁に近い町の一部も砲撃により破壊され、未だ被害状況ははっきりとしていないし、魔天閣の倒壊によって城壁や周囲の建物を巻き込み多数の者達が生き埋めになっていると報告も受けていた。

それに一般兵では立ち入れない特殊な警備区画も城塞内部に複数あるが、このような状況であればいつにも増して陛下は強く身辺警護を求められるだろうと。

分かり切った答えに溜め息を漏らし、一難去ったアルバートの精鋭部隊は慌ただしく動き始めた。