軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

606話 救援依頼

屋敷の一室で、ベルのような金属音がけたたましく鳴り響く。

それはさして珍しくもない光景で、使用人の一人がいつも通りに受けるも、しかし内容――というよりは掛けてきた人物にその使用人は慌てふためいた。

「シェム様! 王都からの連絡なのですが、私では対応が難しい内容でして……!」

「ん? 極秘用件?」

「い、いえ。いや、たぶんそうなのだと思うのですが、国王陛下から直接のご連絡です!」

「えっ?」

それは若執事シェムも同様で。

本来は決められた高官から連絡が来るというのに、王が直接という、今までにない事態に動揺しながら通信魔道具を手に取った。

――そして、ほんの数秒。

報告を受けただけで頭が真っ白になり、すぐに王への無礼などお構いなしに魔道具を抱えて駆け出す。

「マリー様! マリー様ぁ!!」

「なんだい煩いね! そんな叩いたらドアが壊れる――」

「それどころではありません! 王都が! ディグアス城塞が襲撃を受けています!!」

「…………あ? なんだって?」

この雰囲気は相当マズい……

同室しているだけで吐き気を催すほどの緊張感が漂う中、それでもシェムは抱えていた通信魔道具を差し出すと、すぐに喚く子供のような声が室内に響き渡った。

「マリー! 聞こえておらんのか!? 早く救援に来い! このままでは余の身も危ないのだ! 早くしろッ!!」

「待ちな、ポラン王。まずうちに攻撃を仕掛けているのはどこのどいつで、規模はどの程度だい」

「だ、第五の異世界人ロキだ! 単身でうちに攻め込む阿呆などあやつしかおるまい!」

その答えを聞き、マリーはやはりそうかという納得の感情に共に、その思考が他に考えられる人物がいないという消去法の結果でしかないことを理解し、なぜという疑問の答えを探す。

自らの命と抱える国を危険に晒してまで、安易に攻撃を仕掛けるようなタイプではないと思っていたからだ。

初めからそのつもりなら、アルバートの国内で数か月と時間を費やす前に各地や王都へ攻勢を仕掛けていただろうし、魚人の族長が勝手に動いた時も多少の覚悟はしたものだが、それらしい報復行為というのは確認できなかった。

それだけ慎重であり、感情に振り回されて暴走するようなタイプではない。

にもかかわらず、一人でうちの本丸に攻め込んできているという……

「……なぜこんなことになっている。思い当たる節は?」

「理由など今はどうでもいい! それより早く救援を――」

「いーや、大事だね。動機によって相手がどこまで本気なのかも変わってくる。それによっちゃ用意する戦力だって違うんだよ」

襲撃とは言うが、果たしてどの程度のものなのか。

言いながらマリーは、自身の身を何よりも案ずるポラン王が警護を寄越せと、大袈裟に言っている可能性も考慮していた。

ある意味、今までの行動からロキの性格を信用し、自国の王を信用していないからこその問いかけ。

対して王は、それが怒りによるものなのか、はたまた恐怖によるものなのか。

僅かに震える声で答える。

「あまりに唐突過ぎて、余にもはっきりとしたことが分かっていないのだ。だが……轟音と共に、王都の空が極彩色に染まった」

「極彩色……? まさか……」

「ま、魔天閣から、異世界人ロキに向かって砲撃したらしいという報告が入ってきている……」

「あ゛あ゛ァ!?」

聞いたこともない怒声と共に目の前の机が叩き割られ、様子を見守るシェムと魔道具越しの王は肩が激しく跳ね上がる。

「あれほど手を出すなと言っただろうが……ッ! なぜそんなことになっている!?」

「も、もちろん余が命じたわけではないぞ!? 逃げてきた見張りの兵はオーリッジ子爵が魔導砲を起動させたと言うが、当の本人は行方が分からず確認もとれておらん!」

「オーリッジだぁ……? またどこぞの木っ端貴族が手柄欲しさに余計なことを……!!」

怒りに震えるマリーだが、冷静に努めようとすればするほど強い危機感も生まれてくる。

今、城塞が襲撃されているというのなら、それはつまりロキが生きているということ。

アレは元々異世界人を含む超戦力の侵攻に備えて開発された、古代魔導兵器に近い威力を誇る防衛装置だ。

もしまともに喰らって生きているとしたらただ事じゃない。

移動能力や一国の戦力を潰し切れるほどの火力だけでなく、常識から大きく逸脱した防御能力もロキは備えていることになる。

そんな相手を殺し切るとなると……

暫しマリーが思考に耽っていると、唐突に別の声が通信魔道具を通して発せられた。

どこか達観しているような感情の薄い声。

それはアルバート王国の宰相――ビーネのものだった。

「逆恨みなのか、それとも他に絡んでいる何かがあるのか……はっきりとした理由までは分かりませんが、少なくとも手柄欲しさとは違うでしょう」

「……なんだって?」

「お忘れのようですが、オーリッジ子爵はクルシーズ高等貴族院の襲撃で我が国唯一の実子を亡くした者。異世界人ロキだけではなく町の一部を巻き込み、防衛の要である魔天閣まで倒壊させてしまっているのですから、功績どころか我が国の損失も顧みない行為と言えましょう。……だから陛下を通してお伝えしたのです。子を思う親の気持ちを蔑ろにされては忠誠が失われると」

「「……」」

「もはや敵と言っても過言ではないオーリッジ子爵の消息が不明となると、再び我が国が大きな痛手を負う行動に移される恐れもある。この状況で 出(・) し(・) 惜(・) し(・) み(・) をされては、マリー侯爵が築き上げた王都の全てを失うことになり兼ねませんぞ?」

この言葉で、怒りに震えていたマリーの拳がぴたりと止まった。

「シェム……今、ここには誰がいる」

「え、っと……54位、47位、41位、36位、33位、28位の6名です。あと番外も1名ほど」

「そうかい、じゃあすぐに集めな。全員連れていく」

本来ならば相手一人に過剰とも言える戦力だが、果たしてこれで足りるのか。

現状の戦力にマリーは不安が過るも、かと言って方々巡り、他の素直に従う黒騎士を今から探し出すような時間はない。

だが、それなら――。

「承知しました……私も共に向かいますか?」

「……いや、お前には代わりにやってもらいたいことがある」

告げられたその内容に目を見開き、驚きながら頷くシェム。

そしてマリーは一同を引き連れ、王都ロミナスへと飛んだ。