軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

568話 魚人の町

夜は普通に寝るケイラちゃんに合わせて翌日の日中に出発した俺達は、昨日足止めを食らったポイントで一度周囲を見渡す。

「凄く綺麗な音色ですね……」

「うん。でも魚人がこの音色で阻害しているわけだから、もし仮に俺達が突破できたとしても歓迎されるなんてことはまずない。そこはもう覚悟できてる?」

「はい、大丈夫です」

「よし、それじゃ行ってみようか」

ケイラちゃんを背に乗せ、まずは上空からの侵入を試みる。

俺は目を閉じて画面いっぱいに広がる地図を、ケイラちゃんは周囲を確認しながら、何が異変があれば教えてくれと伝えたが。

「ロキさん! いきなり凄い曲がってますよ!」

背中をペシペシと叩かれながらの突っ込みに、ですよねーと思いながら答えを返す。

「地図を見てても自分が曲がってくの分かったわ。それじゃ、次は本命っぽい海から……って、ケイラちゃんは俺が曲がっていくのが分かったの?」

「え? それはもう、少しという感じでもなかったから」

「……オッケー、それじゃもう少しこのまま試してみようか。今度は俺も直接見てるよ」

おおよそ状況は理解できたと思うが、それでも確認だ。

今度は俺も正面を見据えながら 真(・) っ(・) 直(・) ぐ(・) 飛(・) ぶ(・) と、案の定ケイラちゃんに背中を叩かれすぐに突っ込みが入る。

「ロキさんまた! また曲がってます!」

「あーやっぱり? 間違いなく、俺は真正面を見据えて飛んでたし、飛べてたんだけどね」

でもこれで確定だろう。

俺はどういう原理か、認識ごと捻じ曲げられて真っ直ぐ進めないようにされているけど、ケイラちゃんにはそれが作用していない。

当初は海という環境だと狩場の境目が不明瞭で目印もないから、そのために魚人の案内人がいると思っていたが、あくまでそれはCランク狩場までの話。

Bランク以上は本当の意味で案内人がいないと辿り着けないとか、魚人種もなかなか面白いことをやってくれる。

ということは――うん、これ以上俺が深く考えてもしょうがないだろうな、これは。

「情報が入ると余計なこと考えそうだし、俺はもう何も考えずに目を閉じて案内に従うからさ。無意識にしょっちゅう曲がると思うけど、ケイラちゃんの思う正面に向かって上手く俺を誘導してよ。そうすればそのうち目的の場所に辿り着けると思うから」

「わ、分かりました。それじゃ曲がってほしい方向の肩を叩くとかでいいですか?」

「オッケ~それじゃ出発!」

船なら影響を受けない魚人が引っ張ればそれで済むのだろうけど、俺達の場合はそうもいかない。

右へ左へと、ポンポン肩を叩かれながら【飛行】を続けること約1時間。

あくまで外周部だけ、ドーナツ状に音色の網を張っていることが分かってからは楽なもので。

「あ、ロキさん! 島が見えてきましたよ!」

「だね~人が住んでそうなのはどれかな」

俺達は無事、大小様々な島が存在するミノ諸島に到着した。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

上空から見た規模感で言えば、Dランク程度の狩場を抱える中規模の町と同等くらいだろうか。

大きな港に降り立った俺達は、正面に延びる道を度々ジャンプしながら進んでいく。

「いや~凄いね。結構いろいろな場所を旅してきたけど、今までの中で一番衝撃的かも」

「ほんと、凄い……凄いです……これが、私の……」

共通しているのは、足の替わりとなる長い尾ヒレくらいか。

獣人同様、様々な特徴をもった半人半魚の魚人種が多数存在しており、逆にそれ以外の人種はまったく見かけない。

だからだろう。

町も魚人種に合わせて作られていて、道の代わりとなる水路がそこかしこに張り巡らされていた。

外から見える範囲だと、石造りの建物の中まで水を引き、浸からない高い場所で生活をしているという感じか。

せっかく来たのだし、できればどんなモノがこの町で売られているのか、買い物くらいはしてみたいが。

(これはちょっと、厳しいかな……)

恐怖とは違う、周囲からの好奇と強い警戒が入り混じったような眼差しを見ていると、そう感じてしまう。

警戒心の薄い子供達ならちょくちょく話しかけてくるんだけどなぁ。

「ねぇねぇ! お姉ちゃんは私達と同じなの?」

「うん、そうだよ。私はあなた達と同じ血が少し混じってるの」

「お兄ちゃんも?」

「ううん、俺は人間だよ。少しこの町を見学しに来たんだ」

「うわー人間だ~! でもあんまり怖くなさそぉ~!」

今日は無駄に警戒されないよう、商人っぽい恰好で来てるしね。

しかしそれでも人間と聞くと一度隠れるように水中へ潜り、少し離れた位置からこちらの後をついてこようとするし、近くに親がいれば手を取り引き留めようとしていた。

「本当はここで食事も摂りたかったんだけど、やっぱり予想通りだねぇ……」

「でもこうして魚人種の生活様式を見ることができましたし、直接お話しすることだってできましたから。それに本番はこれからなんですよね?」

「まぁね。だいぶ取り囲む準備ができてきたっぽいし、そろそろ来るんじゃないかな?」

警戒網を潜り抜けてここに来ているのだ。

となれば当然、取り締まる立場にいる者達が黙っていないわけで。

暫く町の様子を眺めながら、通りの先にある宮殿のような建物に向かっていると、四方から動きを合わせたように槍を持って武装した魚人達が現れる。

そして正面には、明らかに位が高いと分かる豪奢な鎧を身に纏った黒い肌の魚人が、器用にヒレを立たせて俺達の前に立ちはだかった。

スキル構成を見ても明らかに武闘派。

兵士でこれならかなり強い部類だ。

「侵入者よ、まずは聞こう。お前達がここを訪れた目的はなんだ?」

「いくつかありますけど、魚人の血を引くこの子に本物を見せてあげたかったっていうのが一番ですかね。あとはこの町のお店や市場なんかも見て回れたらなと」

そう告げると、目の前の魚人は一瞬ケイラちゃんに目をやり、納得したように軽く頷く。

「ふむ……つまり、お前は商人ということになるのか?」

「ですね。行く先々で市場調査と仕入れを行っているので」

「なるほど……まあいい。掟により、この島への上陸を許可していない者は侵入者と見做し、処遇は我らが族長の判断に委ねることとなる。この槍の餌食になりたくなければ大人しくついてまいれ」

そう言って槍の石突を上手く利用し、蛇のように陸地を移動し始めた兵士の後をついていく。

チラリと後ろを振り返ると、囲むように移動する兵士達に混ざって一人、背後にも突出した力量の兵士が槍を構えて張り付いていた。

どうやら逃がすつもりはないらしい。

「大丈夫だよ」

予めあり得る展開の一つとして伝えてはいたものの、それでも不安げな表情を浮かべるケイラちゃんの背中をゆっくりと摩る。

(さて、俺を本気で倒せると思っていそうなのだから、この人達はどう見てもセーフだが、この先はどうなるかな……)

交易が止まって約20年、情報が途絶えていた魚人種の現状はどうなっているのか。

ここから本当の姿が見えてくる。

全力で感知系を作動させながら思考を巡らしていると、町の規模に似つかわしくない大きさの宮殿が目の前に広がり――

「侵入できた理由はその娘か……」

「……」

案内された奥の広間にて、頬杖を突き、 片(・) 膝(・) を(・) 立(・) て(・) て(・) 座る青白い肌の男が俺達を静かに見つめていた。