軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

567話 見えない壁

昼も沿岸部を中心にマッピングを進め、夜になって再びマルタくらいの規模感がある大きな街。

トマリの周辺に戻ってきた俺は、早速東に広がる未開の海へと飛び込んでいく。

おおよその場所を掴めていたCランク狩場と違い、ここから先は予測や推測が多分に含まれた曖昧な情報だ。

それにどこからともなく謎の歌が聞こえるという情報もあるため、名称の割れている2体の魔物を【広域探査】に掛けつつ、周囲の海ではなく、マッピングされていく地図をひたすら眺めていた。

――【広域探査】――『ゴアスケイルフィッシュ』

――【広域探査】――『カプリコーン』

ヘルデザートを探索した時のように、足を踏み入れたことのない地域なら、マッピングを端から埋めるように移動していけば漏れや重複調査を防ぐことができる。

Aランク狩場の予測海域はさらに南方なので、このやり方で最初に出会えるのは果たしてBランク狩場か、ミノ諸島か、それとも話に聞く怪現象なのか――。

小島1つ見当たらない海の地図が次第に広がっていく中で、最初に訪れた変化は風に乗って微かに届く『音色』だった。

「これが、噂の……」

一度地図を閉じ、飛びながら周囲に視線を向けるも、目新しい何かがあるわけではない。

だが、次第に近づいてはいるようで、歌というよりは女性が声で奏でる綺麗な曲が、徐々にはっきりと聞こえていた。

【広域探査】で発生源を探るも、それらしい反応は拾えない。

しかし、数時間掛けてようやく拾えた変化だ。

この先にきっと何かがある。

そう思って地図を再び開いた時。

「……なるほど」

東に直進していたはずが大きくズレ、既にマッピング済みの北へ向かっていることで現状を少なからず理解した。

かつてゼオとカルラが眠っていた、あの洞穴を隠すように設置されていた古代の魔道具。

アレと似たような現象が、今俺の身に起きている。

となれば、どうするか……

地図を拡大し、ギリギリマッピングが完了している地点に戻って再び周囲を見渡す。

やはり美しい音色が風に乗って聞こえてくるくらいで、他にそれらしい異変はない。

なので結界の類いかと、適当に微弱の【雷魔法】を放ってみるも。

「ん?」

以前とは違って弾かれた様子もなく、俺の放った魔法はそのまま直進しながら霧散してゆく。

魔道具と音色。

現象から同一の効果かと思ったが、どうやら似ているだけで何かが違うらしい。

まぁそれならそれで、何がこの怪現象を打ち破れるのか、持ち得る手札で試すまで。

俺は自然と笑みを零しながら、目の前の"見えない壁"を壊すべく攻略に着手した。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

そして翌日。

「ロキがここまで沈んでるって珍しくない?」

「うむ……」

「そんなことよりお腹空いた! 今日のご飯は何――」

「まてまてまてーい!」

下台地で机に突っ伏し、自作のマイお箸を握りながらゼオ達の戻りを今か今かと待っている男がいた。

そんなの、もちろん俺である。

「そこの薄情小娘。稀に見る俺の大ピンチに、ちょっとくらい手を貸そうとは思わないの?」

「えーだってロキが解決できないってよっぽどじゃない? 師匠やカルラみたいに昔のこと知ってるわけじゃないし……あ、でも今日久しぶりにオリハルコンが1個落ちたよ!」

「それナイスゥ! って、そっちも大事だけど、今は違くてだね。実は――」

皆で食卓を囲み、意外と好評だった海鮮モノや肉を摘まみながら事情を話す。

当初は歌で惑わし、進路を強制的に塞ぐ程度。

それなら抜く方法なんていくらでもあるだろうと。

目の前のギミック攻略を楽しむくらいのノリで挑んでいたわけだが、見事に全て押し返され、最終的には歌の聞こえない抜け道探しに奔走した結果、地図には歪な楕円系の不可侵エリアが出来上がっていた。

耳を塞ごうが、海や上空に逃げようが、それでも踏み込もうとするとあの音色が聞こえてくるのだから、魔物ではなく魚人種が【拡声】でも使っているんだと思うけど……

はっきりと聞こえ始めたら最後。

いくら意識しようが明後日の方向に後退させられるし、転移の繰り返しによる強行突破や、それこそ自身に強烈な【風魔法】をぶつけて強制的な移動で内部に食い込もうとしても戻されてしまうので、もう理解不能なレベルの鉄壁っぷりである。

正攻法と呼べる類いの方法は一通り試しても通過できそうにない。

だから何かお知恵を。

そんな俺の言葉に、心配そうな顔をしたケイラちゃんが口を開く。

ここに来てすぐ、予定通りに進んでいないことだけは伝えたが、本人も乗り気だっただけに相当気にしているっぽい。

「そんな広範囲となると、歌っているのは一人や二人じゃないってことですよね?」

「だね。場所によって微妙に聞こえる音色も違ったし、魚人種が組織的に侵入を妨ごうとしているんだと思う」

「ふむ……となると、1万年という時を経ても未だ引きずっているというわけか」

ゼオの、この意味深な言葉に皆の視線が向く。

「どういうこと?」

「声で人を惑わすのは、魚人種と鳥人種の女だけが稀に発現するという後天的な能力だ。その効果は非常に強力ゆえ、かつては鳥人種がプリムスに狙われ、種の存続が危ぶまれるほど数を大きく減らしていた。生息域の問題から魚人種はさほど影響を受けていなかったはずだが、当時の出来事が今の時代にも伝わっているのなら、安易に人を寄せ付けようとは思わないだろうな」

「なるほど、そんなことが……」

だから生活物資のために人との交易はしていたけど、ミノ諸島に人間が立ち寄ったという話は出てこないのか?

それに魚人種だけでなく、鳥人種も………あっ。

思わず声をあげながら資材倉庫の上階を眺めると、それに気付いたゼオが頷く。

「うむ。石化していた小さいほうの鳥人種も持っていたはずだ」

あの時は大して気にも留めなかったけど、【惑声】という見覚えのないスキルを所持していたことは覚えている。

ということは、もしかしたら誰の手も届かない安息の地を求めて、逃げるようにパルメラの奥地へ潜ろうとしていた可能性もあるのか。

予期せぬところから繋がった鳥人種の情報。

暫しそのことに思考を巡らしていると、鼻の頭を赤くしたロッジが貝を穿りながら呟く。

「さっきは正攻法って言ってたし、警戒している理由を聞くと、尚更に術者を潰すような強引な方法も取れないわけか」

「そうなんだよねぇ……今回はこっちが無理やりお邪魔しようとしているわけだし」

ある程度のゲーム知識があれば、今回の声による阻害は"セイレーン"だろうと想像がつくわけで。

自然現象ではなくスキル使用者がどこかにいると予想できるのだから、無差別に広域魔法をぶっ放せばいずれ道は開けたのかもしれない。

だがそれは、あまりにも後先を考えないやり方だ。

少なくともケイラちゃんと魚人種を引き合わせようとしているやつが取っていい方法じゃない。

だから、なんとか被害を与えない正攻法で声の阻害を突破したい。

そんな問い掛けに、リコさんがパンと手を叩き、思い出したように声を上げる。

「あ、ちなみに魚人にまつわる本はもう読みました?」

「いや、まだ読んでないと思うんだけど、どんな内容?」

「物語なので真実かどうかは分からないですけどね。浜辺で怪我をしていた魚人を助けた人間が、お礼に魚人の住む都に案内され、そこで手土産を持たされるというお話です」

「あー! それって、箱を開けたら急に老けちゃうとか、そんな話でしょ!」

「全然違います。中身は希少な宝石でしたから」

違うんかーい。

遊び心のない物語だなと心の中で文句を垂れつつ、しかし、その内容からふとあることに気付く。

(案内……無条件に弾かれているわけではなく、認められれば中に入れる可能性か……)

そう考えると、あの内部にあるとしか思えないBランク狩場だって、かつては案内人と共に出入りしていたハンター達だっていたのだ。

認められ、ちゃんと接点を持てれば……

と、その時。

なんでもないという感じで、肉を齧りながらエニーが言う。

「なら本人も行きたいって言ってるんだし、ケイラを連れてっちゃったらいいんじゃないの?」

「え?」

「だって、魚人と一緒なら通過できるかもしれないんでしょ? ケイラなら認めてもらえる可能性もありそうじゃん」

「……」

そう上手くいくのか?

すぐに疑問は湧くが、絶対にないとも言い切れないこの提案に。

「……ナイス、試してみるわ」

そう告げ、小さく頷くケイラちゃんを見つめた。