作品タイトル不明
566話 一緒に
もうそろそろ夕飯時かな。
そう思って数日振りに下台地へ飛ぶと、まだ食卓には3人の姿しか見えず、今日はケイラちゃんが当番なのか。
火に薪をくべながら何かを焼こうとしているところだった。
「あれ、ゼオ達は?」
「アイツらならまだ狩場だ。もう通い始めて1か月以上経つってーのに、エニーが相当夢中になっているみたいでな。日を追うごとに帰り時間が遅くなって、ついでに持ち帰る素材量も少しずつ増えていってる」
言いながらロッジが親指をクイッと背中の方へ向けると、裏庭には以前ほどではないにしても、魔物の小山が出来上がっていた。
なんだなんだ、最近こっちには魔物を放出していないのに、結構頑張ってるじゃん。
これはそろそろ、倉庫整理をしておかないとゼオに怒られるなぁ……
そんなことを思いながら、今いる3人にお土産を渡す。
「今日はこの3人に用事があったから丁度いいや。ほい、まずはリコさん、Cランクまでの海の魔物と所持スキルの一覧ね。たぶんこれで、いるか分からないレア種以外は出揃っているはずだから」
「わーありがとうございます! 1、2、3、……全部で20種!? ひゃ~海だけでも結構いるものなんですね……」
そう、Cランクまででもう20種だ。
ちなみに各ランクの魔物と所持スキルを一覧にすると、このようになっていた。
・Fランク
シーマウス(砂と同じ色したネズミ):【突進】Lv1
キシュキシュ(やどかり):【水魔法】Lv1
ブリーズシェル(二枚貝):【風魔法】Lv1
リリークラブ(踊るカニ):【挑発】Lv1 【穴掘り】Lv1
パロ(歩くヒトデ):【毒牙】Lv1
・Eランク
フーア(泥人形):【泥化】Lv2 【擬態】Lv1
ポートイール(ウナギっぽい):【気配察知】Lv1 【噛みつき】Lv2
スパインタートル(甲羅に刺のある亀):【噛みつき】Lv1 【硬質化】Lv2
メイドーマ(イソギンチャクっぽい):【光合成】Lv1 【麻痺針】Lv1
ビッグモレー(デカいウツボ):【丸かじり】Lv2
・Dランク
キラーロブスター(手が鎌のエビ):【威圧】Lv1 【鎌術】Lv2 【旋風】Lv2
サハギン(手足のある魚):【槍術】Lv1 【捨て身】Lv1 【跳躍】Lv3
タニファ:(海トカゲ):【毒牙】Lv2 【急速再生】Lv2
ノッケン(クラゲっぽい):【隠蔽】Lv4 【麻痺針】Lv2 【分裂】Lv1
ストーンバード(狩場を示しくれる鳥):【遠視】Lv2 【飛行】Lv3 【土魔法】Lv1
・Cランク
レモラ(吸盤のあるカジキっぽい):【突進】Lv2 【逃走】Lv3 【洞察】Lv2
スカードレイ(複眼のエイ):【視野拡大】Lv3 【麻痺針】Lv2 【熱感知】Lv2
ケルピー(角のある半馬半魚):【水蹴】Lv2 【突進】Lv3 【噛みつき】Lv2
イピリア(クリオネ?):【属性変化】Lv3 【水魔法】Lv3 【雷魔法】Lv3
ケートス:(セイウチのような海獣):【突進】Lv3 【丸かじり】Lv2 【威圧】Lv2
現状では各ランク毎に5種ずつ。
《夢幻の穴》と同じ流れなので、Bランク、Aランクも5種ずつ存在している可能性が高そうだ。
「その代わり、場所が変わっても魔物の構成や比率が変わるだけ。ハンターギルドの情報だと、大陸北東や北部の海でもそれと同じ魔物が生息しているみたいだよ」
「地形分類が様々にある陸地と違って、海は海、みたいな?」
「たぶんね。魔物じゃない普通の魚だと、場所によって気候や温度も全然違うから、まったく違うモノが獲れるらしいけど」
リコさんにリポップの話をしても、ゲームの概念がなければ混乱させるだけだろうしなぁ。
説明はこのくらいで十分だろうと、お次は食卓の横にそれぞれの魔物を放出していく。
「ロッジにはこれ。一応ハンターギルドの資料室にあった素材情報は纏めておいたんだけど、どう? 触ってみたい素材はある?」
「ふーむ……地場の方じゃ亀の甲羅が盾にされるくらいで、あとは食用と日用品への加工ばかりか」
「そそ、だから今までは全部ベザートの方に運んじゃってたんだけど、ロッジが欲しいなら今のうちにこっちへ回しておこうかなって」
「この辺りのランクなら、無理して装備素材に回す必要はなさそうだが……しかし、鋭利な針を持つ魔物が多いな」
木板を持ちながら、ペタペタと魔物を触っていたロッジが興味を示したのは、意外にもノッケンという名のクラゲみたいな魔物が持つ長い触手だった。
「この中の3種が【麻痺針】持ちの時点で、弱らせてから殺しに掛かる気満々だよね。海じゃ一度引きずり込まれたらそう簡単には抗えないし」
「こんな透明で見えにくそうな針が大量に襲ってくるとか、海に落ちたヤツは悪夢でしかないだろ。だが……弾力もあるし、この特性なら暗器として利用できるんじゃねーか? まあお前がそんなモノに頼らなきゃならない場面というのもいまいち想像できないが」
言われて、確かにと納得する。
いくら弾力があろうと、その気になれば簡単に引き千切れるわけで、そんなの振り回して麻痺効果を狙うなら【呪術魔法】を唱えるだろうし、なんならその前に頭を潰してしまった方が確実で手っ取り早い。
が……それは俺ならという話。
別に自分自身が使えるかどうかの基準で決める必要などない。
「いいんじゃない? エニーとかカルラの隠し武器にしたっていいし、少し用途を変えてケイラちゃんやリコさん達の護身用にその針を利用したっていいわけだしね」
そう言って、同じ【麻痺針】を備えるスカードレイの長い尾を引き千切り、ブンと軽く振り回す。
「おお~なんか凄いですね!」
「あ、私知ってますよ! それは拷問の時に使う『鞭』というやつでしょう!」
「お、だいぶ情報が偏ってるけど、リコさん正解!」
この世界に鞭のスキル補正はなさそうだし、扱うなら間違いなく訓練は必要だ。
しかし近接戦を不得手とする人向けに、中距離用の状態異常と拘束を狙える武器があってもいいじゃない。
そんな話をすると、ロッジが魔物を眺めながら地蔵のように固まってしまったので、これは素材をキープしておいた方がいいかなと思いつつケイラちゃんに視線を向ける。
「ケイラちゃんはとりあえずこれ、焼くと絶対美味しいからさ。みんなで食べてよ」
「えっ、あ、はい……」
次々と魔物素材を渡していくと、若干戸惑いながら、それでも素直に焼き始めるケイラちゃん。
ただ、自分の用事はこれかぁと、肩を丸めて小さく呟く姿を見て、そんなわけがないとばかりに口を開く。
なにせ今日は、誰よりもケイラちゃんに用があってここに来ているのだから。
「ケイラちゃんはさ、ご先祖様っていうか、繋がりのある魚人種に会ってみたい?」
「え?」
「今夜このままBランク狩場がありそうな海域に行ってみて、それで順調に探索が進めば、魚人種が縄張りにしているとされるミノ諸島にも明日くらいには向かえると思うんだ。だからケイラちゃんがもし会いたいなら、連れていくこともできるかなって」
こう問い直すも、あまりに唐突過ぎたのか。
動揺したまま少し視線を彷徨わせ、なぜか最後は縋るような眼差しでリコさんを見つめるケイラちゃん。
対してリコさんは、目を伏せて少し考える素振りを見せたのち、一人納得したように小さく頷く。
「ケイラ、会うか会わないかは他の誰かが決めるのではなく、あなたが決めるべきことですよ」
「でも、私どうしたらいいか……」
「会って会話を交わし、魚人種の生活や生き方を直接目にすることで、ケイラの今後の人生が豊かになる可能性もありますし……逆に、自分の血筋と種の特性を深く知ることで、大きく気を落とすことだってあり得ます」
「「「……」」」
真面目な表情で語るリコさんの言葉を、この場にいる3人は黙って聞いていた。
言っていることはその通りで、この行動が必ずしもケイラちゃんのプラスになるとは限らない。
だからこそ本人の意思や考えを尊重しようと思っていたが……
まあ、今すぐ結論を出す必要はないのだ。
ようやく『トマリ』という南方の大きな港町に着いたので、早ければ明日にはミノ諸島に着くかもしれないというだけ。
ここ20年ほどの情報はまったく拾えていないわけだし、まずは俺一人で見て回り、その情報を基に行ってみるか判断したっていい。
一人そのようなことを考えていると――
「ただ、こうして目の前に選択肢が与えられ、悩めることは凄く幸せなことだと私は思いますよ」
――リコさんがこのように発言したことで、困惑していたケイラちゃんの表情が大きく変わった。
「私……行きます。行ってみたいです」
「え、ほんとに?」
「会ってどうしたいとか、まだ頭の中がふわふわしていて、何も決まってないですけど……それでも魚人種に会えば、何かが変われそうな気もするから」
「そっか……じゃあ一緒にミノ諸島を探検してみる? ロッジに超特急で護身用の武器でも作ってもらってさ」
笑いながらそう言うと、ケイラちゃんは笑顔で大きく頷き、リコさんは母親のような優しい笑顔でその姿を見つめていた。