作品タイトル不明
494話 クイーンアント戦、その後
「ねぇノディアス、これってどういうことか分かる?」
「俺は盾職だぞ? 亜人が得意とする旧型詠唱で唱えているんだろうというくらいで、魔法のことなど聞かれてもよく分からん……」
「いや、魔法のことだけじゃなくてさ」
「何が起きてるのかはよく分からないけど、でも凄く綺麗だよね……」
アウレーゼやノディアス達が困惑するのも無理はない。
参加者は急激に盛り上がった地面の上から、眼下に広がる池の様子を眺めていた。
そう、これは池だ。
ずり落ちた巨体のクイーンアントだけが唯一水面から顔を出しているくらいで、あとは綺麗に水の底へ沈んでしまっている。
蟻の動きが一斉に止まったあの時。
アウレーゼ達を一瞥したロキは、下から上へと、何かを呟きながら手を軽く振った。
その途端、皆の立っていた地面が綺麗にそのまま迫り上がり、その高さは部屋を軽く一望できるほどにまで昇った。
ノディアスが引き付けていたクイーンアントは高台から転がるように落下していったのだから、ただ闇雲に地面を押し上げたというわけでもないのだろう。
距離があるため、どう詠唱したのかは聞き取れなかった。
恐ろしい音を立てながら生み出された、溢れんばかりの水の時も同じだ。
こんな魔法を見たことがないし、なにより事象の発生までがあまりにも早過ぎる。
アウレーゼは助かったという事実を忘れて困惑するも、周囲が全員同じ表情をしていることで、これは答えの出ない疑問なんだということをすぐに悟った。
今はようやく少し落ち着きを取り戻したが……
改めて下を眺めると、徐々に水位が下がっていく水の上を、ロキは何かを探すようにゆっくりと歩いている。
歩く毎、水面を放射状に延びていく稲妻は、薄暗いこの部屋の中を照らし、見ていて息を飲むほど幻想的にも感じられた。
それに、突然のことで気が動転していたとは言え、大地が隆起したあの時。
部屋に広く残されていた卵が、一斉に孵化を始めたようにも見えたのだ。
仮に魔法だとして、そんなことができるのか?
どんな魔法を使えば、地面を覆うほどの蟻の動きを、瞬く間に止められる?
そしてなぜ、ロキは魔法を放つ時。
魔物のような黒い魔力を手足に纏うのか。
分からないことはあまりにも多いが――。
「ノディアス、あんたの気持ち、少しだけ分かったよ」
「だろう? だがおまえはまだ若い、簡単にこっちへ来るなよ」
「当然。幸い私の目標は人じゃなくボスだからね。この目で姿を全部拝むまではしぶとく現役を続けるつもりさ」
「えっ、なになに、ノディさん、レーゼさんにもフラれた――ふぎっ」
アウレーゼは眼下に広がる光景を見て笑う。
あまりにも理解が及ばなくて、それこそひたむきに上を目指し、強さを追い求めていた連中からすれば、ノディアスのように心が折れてしまうことだってあるだろう。
でも自分は違う。
強さは必要だと理解しているが、あくまでボス討伐という目的のためについてきた結果でしかない。
"異世界人"という、隔絶した能力を所持する者との繋がりが、自分の人生に今後どれほどの影響を与えてくれるのか。
(もっとだ……もっと広く、もっと深い情報を……裏ボスっていうのが見つけられるくらいに……)
そのために、自分は果たして何ができるのか。
ロキの姿を目で追いながら、アウレーゼは討伐隊とは別の 組織(クラン) について考え始めていた。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
【招集】で余すことなく集めた蟻を潰し、卵も全て破壊されていることを改めて確認。
無いとは思うが、キングアントの出現条件を潰した上で、クイーンアントの【不動】が終わるのを待つ。
「……4、3、2、1……はい、お疲れ様」
その言葉と同時に、クイーンアントの首を全力で斬り飛ばした。
『【産卵】Lv1を取得しました』
『【産卵】Lv2を取得しました』
『【産卵】Lv3を取得しました』
『【産卵】Lv4を取得しました』
『【産卵】Lv5を取得しました』
『【産卵】Lv6を取得しました』
『【状態異常耐性増加】Lv8を取得しました』
『【魔法防御力上昇】Lv1を取得しました』
『【魔法防御力上昇】Lv2を取得しました』
『【魔法防御力上昇】Lv3を取得しました』
『【魔法防御力上昇】Lv4を取得しました』
そして【転換】のポイントを確認後、レベル7までは必要なら上げると決めていたスキルを1つ上げ――
『【魂装】Lv7を取得しました』
――すぐに使用する。
――【魂装】――
すると得られた結果は防御力『667』。
とりあえず枠は一つ広げたので無条件に採用だ。
ここからしばらく――、それこそ【転換】がレベル10に到達するまでは、よほどのことがない限り【魂装】は7枠のまま。
あとは地道に少しずつ数値を上げながら入れ替えていく選別作業の始まりだ。
まぁそれはいいとしても。
「一見ショボそうに見えて、3つ目がまさかのクイーンアントとはなぁ」
スキルを覗いて、あ、こいつショボいと。
最初は軽く凹んでいたのだ。
【産卵】なんて俺が産めるわけもなく、100%グレー文字だろって思っていたら案の定だし、【不動】はすでに持ってるし。
ただ、割合上昇系のスキルを所持しているのは熱い、熱過ぎた。
黒象から得られた【物理攻撃力上昇】と、懐かしいボイス湖畔の蟹から得られた【物理防御力上昇】。
魔物専用であることがほぼ確定の『割合上昇系』は、ようやくこれで3つ目。
魔法防御力もあるということは、まず知力や敏捷など。
他の項目もレアスキルとして、どこかの魔物が所持している可能性はこれで濃厚になってきたな。
いや~いいねいいね。
想像以上に強くなれたことにホクホク顔のまま、無理やり上げた地面の上からこちらを覗く皆を救出。
全員に感電死した大量の蟻を集めてもらい、
「えーと、一人当たり8500万ビーケってところですね。どうも、おつありでした!」
なかなかの分配金をその場で精算。
皆もホクホク顔になったところで初のクイーンアント戦は終了した。
そして、夜。
下台地の庭に大量の蟻を放出後、資材倉庫で別の素材を弄っていたロッジにクイーンアントを渡す。
「ほいこれ、新しいボス素材だよ」
「おう、例のクイーンアントか。実物を見るのは初めてだが……コイツは想像以上にデカいな!」
言いながらも、手の届く範囲をペタペタと触るロッジ。
その感触ですぐに理解したのか、腹回りは特に使い勝手が良さそうだと独り言のように呟いていた。
「みたいだね。昨日話したボスマニアの人も同じこと言ってたよ。魔法に強くて弾力性と伸縮性もあるから、装備素材としてはかなり優秀で市場価値が高いって」
【鑑定】で覗いても、特性が魔法攻撃耐性になっているのだから間違いない。
腹の辺りなんて卵を産む前はかなり伸びていたし、マントやローブはもちろん、関節を覆う部分なんかもこの革を使用すれば動きやすそうだ。
「魔法全般に対しての耐性か。ならカルラがしょっちゅうエニーがぶっ放す魔法の標的になってるから、アイツ用にマントでも作ってやるか。おまえはどうする? なんか作るか?」
「うんうん。革の色が黒いし、ローブを1個作ってほしいかな」
「了解だ。そのくらいならすぐ終わる」
「あ、あと、ボスマニアの人もローブ作ってほしいって」
「んあ? 構わないが、サイズは?」
「んー身長180cmくらいの人。ムキムキだけど太ってはいない。あと乳はデカい、凄く」
「いや、ローブに乳は関係ないが……そうか、凄くデカいか。分かった、任せとけ」
ロッジが何を分かったのか不明だけど、アウレーゼさんはお金じゃなく素材に手を加えたローブを報酬にしてほしいという話だったからな。
20メートルくらいはある魔物なので大した素材量でもないし、より多く作ることでロッジの技術も上がる。
となればお互い得のある話なわけで、あとは予定通り、出来上がったら注文品としてパイサーさんに預けておけば問題無いだろう。
ここでふと、バルニールならこの素材加工でいくら取るのか。
そんな考えが頭を過ったが……
(望まれたわけでもないしな)
先日様子を見に行ったら、バルニールは既に看板が外されていた。
けどそれらの事情を伝えたところで、ロッジの喜ぶ姿はあまり想像できない。
そんな理由から伝える必要はないと判断し、サラマンダーレザーの鎧を着込んで終わりの見えない夜の砂漠へと向かった。