作品タイトル不明
493話 『穴』
道中、クイーンアントに対してどう戦うのか。
通常の半分以下という人手不足も考慮された話し合いが行われていたため、淀みなく各人が準備に入る。
ちなみに今回も俺は、一人遊撃隊。
本音を言えばとっとと倒して図書院に戻りたかったけど、あまりにもおんぶに抱っこなそのやり方をアウレーゼさんは許してくれず。
逆に俺がいるからこそ、安全マージンをいつもより削った攻め手が試せないかと、全体に発破を掛けて戦術の幅を広げようとしていた。
マルタが最寄りである以上、今後も人手不足が続く可能性は高いからね。
そんな前向きな考えを持たれてしまうと、俺は「じゃあギリギリまで見守りましょう」と言うしかない。
『土よ、我が声に応じ、石となりて競り上がれ、何よりも硬い、妨碍の壁を、" 岩壁(ロックウォール) "』
だから参加者の一人が、真っ先にボス部屋の入口をゴツい大岩で塞ぎ始めたけど、この賭けとも言える行動だって静かに見守る。
そして全員が配置につき、酸対策用だという厚手のローブを被ってから始まったクイーンアント戦。
やはり要はノディアスさんらしく、先頭に立って盾を握りヘイトを奪っていくが、今までとはまた質の違うボスだなーと、始まった戦いを見てすぐに思ってしまった。
正直、このボスにはあまり面白みがない。
スキル構成を見ても、
クイーンアント:【指揮】Lv8 【鼓舞】Lv6 【丸かじり】Lv7 【不動】Lv6 【産卵】Lv7 【状態異常耐性増加】Lv6 【魔法防御力上昇】Lv5 【威圧】Lv6
このようになっており、まずこのクイーンアントはその場から大きく動くことがなかった。
いや、正確にはすぐ腹がデカくなり、動けなくなった、かな。
こちらが近寄り戦闘態勢に入った途端、パンパンになっていた腹の先から、オベベベベベ~っと大量の卵を周囲に勢い良く吐き出す。
これが所持するスキル、【産卵】の効果なのだろう。
壁や元から存在していた卵に当たり、割れるように孵化するモノ。
卵のまま床に転がるモノと様々だったが、まぁ数は多い。
そして皆に群がる、孵化した幼体蟻。
対してクイーンアント本体は、腹の萎んだ時だけ少し動くが、それでもヘイト管理しているノディアスさんを捕食しようと脚を動かしながら頭を下げるくらい。
そうこうしているうちにまた腹が膨れ始め、一定時間経過で再び卵を周囲に撒き散らす。
この繰り返しだ。
だからこそ、本来であれば真に恐ろしいのは、孵化した中に紛れている飛行型のレヴィアントだろう。
あいつは【招集】持ち。
呼ぼうと思えばボス部屋の外にいる蟻まで呼べるわけで、その侵入を防ぐために、今回はボス部屋入り口を岩壁で塞ぐという荒業を作戦に取り入れていた。
自分達の逃げ道も塞ぐというかなりリスクの高いやり方なので、本来はこんな危険なことはせず、入り口側に最低3パーティを配置し、雑魚処理班として応戦するようだが……
今回は参加者が少ないこと。
いざとなれば俺がヘルプに入るため、今後を見据えた一つの実験として試してみるという話だった。
「間違っても範囲攻撃は撃つんじゃないよ! 斬撃や刺突だ! 頭が動いている時を狙って腹に穴を空けろ!」
アウレーゼさんの指示が飛ぶ。
周囲の卵を自分達で割らないよう意識しつつ、クイーンアントの使用する【不動】の隙間を縫い、無駄に指揮系統の取れた雑魚を始末しながら攻撃を重ねていく。
ボスという強烈な強さを誇る個体を討伐するというよりは、如何に酸を撒き散らす雑魚蟻の猛攻を躱すかが決め手となるようなレイド戦。
もし【招集】で集まった外の蟻まで大量にボス部屋へ侵入させてしまうと、確殺レベルでもなければ範囲魔法もろくに撃てず、ジリ貧になって雑魚蟻に喰われる。
そういうことなんだろうけど、ここまでくればもう安泰。
近接である程度固めた構成なら、Aランクハンター20人程度でも時間を掛ければ十分倒せる見込みが――。
「あ」
「げ」
「えっ?」
その時、俺を含む何人かの声が重なる。
あぁ。
途中まで順調に思えたこの作戦にも大きな『穴』があったらしい。
そういえば連中は、『穴』を掘るのが得意だった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「ノディアス! マズいぞ! 塞いでいた外の蟻が壁に穴を空けようとしている!」
「ボス部屋の壁をか……? そんな話聞いたこともないぞ!?」
「いや、でも間違いなく、っていうか……あぁ、これは本当にマズい……壁が、崩れる……」
アウレーゼを含む、多くの参加者達が眺める先には、様々な場所から泡のようにボコボコと、土壁を突き破って侵入してくる蟻の群れ。
しかもその数が多過ぎるため、穴の空き過ぎた箇所から徐々に壁が崩落し始めていた。
そして――。
「ひっ……」
誰かの小さな悲鳴が、地鳴りのような響きに掻き消される。
空き始めた大穴から、濁流の如く押し寄せる、黒い塊。
まっすぐこちらに向かってくる様子から、既にクイーンアントの指揮下に入っていることは明らかであり、それぞれが押しのけ合って迫ってくるため、周囲に散乱する卵もその塊に呑み込まれ、さらに幼体が生まれることでその数を増やしていった。
もう範囲攻撃に制限など掛けている場合ではない。
しかし、アウレーゼは瞬時に判断する。
まず、これほどの数を――、広範囲を押さえ込めるのか?
仮にできたとしても、高位の魔法であるほど詠唱には時間が掛かる。
もう今から動いたのでは、ロキでも……
口を動かすよりも先に不安が頭を過り、アウレーゼは思わず上空へ視線を向けると、ロキもまた、アウレーゼを眺めていた。
「もう、交代でいいですか?」
淡々とした言葉。
その顔に焦りはなく、しかし平然とし過ぎていることが逆に周囲の不安を募らせる。
「頼む! この策は失敗だ! 皆を救ってくれ!」
間に合わなければ、外側にいる人間から、呑み込まれる。
誰もが焦燥に駆られる中、宙を浮くロキが無言で下へ視線を向ければ――
「えっ?」
「は?」
「な、なんだ、これ……」
濁流の如く押し寄せていた蟻の動きはなぜかピタリと止まり――。
ギギッ……ギギギギッ……
まるで標的を変えたかのように、一斉に上空を見上げ始めていた。