作品タイトル不明
492話 待ち望んでいた来客
いつものように、隅の個室で本の複製に励んでいると、視界の縁が青く点滅する。
仲魔からの呼び出し――。
ステータス画面を確認すると、入口の黒象ギリオ君からだった。
先日はハンターギルドの本部から視察が来たって話だったが……今回は誰だ?
そう思って個室の中からそのまま転移すると、ギリオ君の前には赤い髪にムキムキの腹筋が特徴的な大柄の女性。
グリムリーパー戦でお世話になったアウレーゼさんがいた。
「おぉ! お久しぶりです~とうとう時期が来ましたか?」
用件は分かっているのだ。
開口一番に問いかければ、アウレーゼさんはニヤリと笑って答えてくれる。
「あぁ、今回はクイーンアント戦だよ。明日の予定だから一応前日に足を運んでみたけど、ロキの予定は大丈夫だった?」
キタキタキターッ!
表ボスはもうボーナスタイムのようなもの。
そんなの、何よりも優先して参加するに決まっているでしょう!
「もちろんですって。あ、明日なら今日はこの町でゆっくりしていってください。もし何か買い物するなら、荷物を運ぶくらいのサービスはしますから」
「え、マジ!? それじゃお言葉に甘えちゃおうかな!」
足取り軽く、人の出入りが激しいクアド商会へ向かっていくアウレーゼさん。
その動きを止め、制服姿のままだが一旦ニューハンファレストに連れていく。
この人は結構お金持ちっぽいからね……ふふふ。
ウィルズさんに伝え、客人ということで宿泊費はタダのVIP扱いに。
気持ちよくクアド商会で散財してもらえる環境を作ってから、俺は図書院の個室へすぐに戻った。
そして、翌日。
輸送サービス付きの効果は絶大だったようで、大量に買い込んでくれた荷物をジュロイの王都『フォブシーク』にあるアウレーゼさんの自宅に運んだ後、 俺(・) 達(・) 三(・) 人(・) は久しぶりに訪れる《デボアの大穴》の入口に転移した。
「すまんなロキ殿、俺まで運んでもらって」
「いえいえ、このくらいの距離なら二人も三人もさほど変わりませんから」
「戦争の影響もあってかなり参加者が少ないんだ。こんな時くらい鍋じゃなく盾を握ったっていいだろう?」
そう、急遽参加することになったのは、ニューハンファレストの料理人であり、Sランクハンターでもあるノディアスさんだった。
どうやら昨日宿泊した時にレストランで鉢合わせたアウレーゼさんが誘ったようで、料理長のボーラさんから夕方までには戻るようにという条件で許可も得られたらしい。
それもあって久しぶりに大きな盾を持つノディアスさんの下へ、見覚えのある人達が騒がしく駆け寄る。
戦争の時、マルタの東でゲンコツを食らっていた、元パーティメンバーの人達だ。
「うお~ノディさんにロキ王様も! 今回は不安過ぎたけど、こうなるとやっぱ安心感が違うよな~!」
「ねえねえノディさん、盾持つのはどれくらい振りなの?」
「身体が鈍らんようにしょっちゅう握ってるぞ? 昨日も裏庭の巨木相手にシールドバッシュ100本を――」
「はいはい、話は歩きながらでも十分だろう? 移動を開始するよ!」
どうやらここのリーダーもアウレーゼさんらしく、内心このくらいの数ならまとめてボス部屋まで転移できるんだけどなーと思いながら大人しくついていく。
チラホラ会話に出ていた通り、数で言えば20人ちょっとと、今までのレイド戦を考えればだいぶ少ないようだが……
「そういえば、マルタのハンターギルドは正常に稼働しているんですか?」
こないだベザートに顔を出したゴリラ伯爵も、かつてと同じくらいまで町の機能を取り戻すには、早くて2年はかかると言っていたのだ。
横を歩いている、オランドさん達と共に戦っていた記憶だけはある優しそうな顔したおじさんに声を掛けると、なんとも微妙な返答が返ってくる。
「決して正常とは言えません。《ボイス湖畔》の魔物は非常に素材需要も高いのですが、『蟻』は食すことができず、固い外殻も町の復興に必要な素材とは言い難いので、実質買取不可に近い状況が続いています。今は素材を外に運び出すための馬車も余っていませんし、泊まれる宿がまだ少ないですから、安定した素材量もないマルタには外の商人も買い付けに来ていないようですね」
「そうですか……マルタで活動していた上位層のハンターはなかなか厳しい状況ですよね」
「元からデボアは癖があって事故の起きやすい狩場でしたし、今は地図もありますから多くが他所へ遠征に出ていますよ。それもあってこんなに参加者が少ないんですけど」
人手が少ないのは若干俺のせいな気もするけど、こればかりはしょうがないよなぁ。
より死ににくく美味しい狩場があるなら、多くがそちらに魅力を感じるのは当然のこと。
しかし……なるほど。
聞いた話が事実なら、俺にとっては悪い話じゃない。
「それならクイーンアントの素材は、皆さんが良ければ僕が買い取ろうと思っていましたけど、道中の蟻も全て買い取りますよ。ギルド買取の単価はおおよそ把握しているので、人数割りで報酬に足しておきますから遠慮なく狩っちゃっていいですからね」
「えっ、良いの? 普段はそのまま捨ててくし、死人が出ないようにしてくれるだけでも大助かりなんだから、無理はしなくていいよ?」
アウレーゼさんは心配したようにこちらへ振り返るが、とんでもない。
狩る人が減れば、獲得総量は減り、素材価値は上がる。
蟻の湧く狩場はここだけじゃないので絶対とは言えないけど、ギルド買取の値段でいいならまず俺が損を被ることもないので、お互い利点があるだろうというそれだけの話だ。
道中の戦闘自体はまったく問題なさそうなので、光玉出したり【鼓舞】してバフを掛けたり。
勝手に集まり道を塞いでは倒されていく蟻の死体を、最後尾で忙しなく回収しながら進むこと2時間ほど。
怪しい卵が地面から大量に生える、懐かしの大部屋に辿り着いたところで、以前とは違う光景が視界に入る。
奥の祭壇のような高台。
そこには大きな腹を抱えた、遠目からでもかなり目立つ巨大な蟻が居座っていた。