軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

484話 不合格

ガルム聖王騎士国の旅を開始してから約2週間。

まったく引き当てられる気がしないまま、都合21回目のSランクチャレンジが失敗し……

カウント用の専用木板にグギギと、ナイフで憎しみを込めた正の字を追加しつつ、俺はこの国のやや西部に位置する巨大な街『王都ゲルメルト』に戻ってきた。

時間は早朝。

本来なら【昼寝】を使って少し寝るところだが、情報収集していく過程でこの王都の東側に『クルシーズ高等貴族院』があることは掴んでいたのだ。

昨日、町に辿り着いた時は既に日も暮れた後の時間帯。

直感で選んだ小粋なお店で晩御飯を食べた後は、すぐにヘルデザートのSランク狩場探しを開始したので、ここが目的地である王都だということくらいしか分かっていなかったのである。

となれば、寝ている場合じゃないでしょうと屋台巡りで朝ご飯を食べ、ハンターギルド、傭兵ギルドと寄りつつ、かなり広大で自然豊かな学院へと向かった。

そして――、槍を持つ門番っぽい人から衝撃の言葉を受ける。

「な、中には生徒、もしくは職員でなければ立ち入れませんが?」

「……」

いやいや、そんな常識的なことを言われましても。

俺がバカ正直に、「ここの本を読みたいんですけど」なんて聞いたのが間違いだったのか?

強引に潜入する方法はいくらでもあるが……

そんなことをしてしまえばコチラが悪党。

俺の嫌う連中と似たような存在になってしまうし、すべての本に目を通したいので、ちょっと潜入したから解決という話でもない。

「えーと、お金で入場券が買えるとか、何か裏技は?」

「あ、ありません……」

そして、裏技もないらしい。

困ったな……なんで俺はここを図書館くらいに思っていたのだろうか。

各国の宮殿には案外サクッと入れるものだから、ここもなんとかなるだろうくらいに思ってしまっていた。

「失礼」

そんな時、看守室から出てきたのは、数名いる門兵とはまったく違う。

かなり上等そうな鎧を身に纏った一人の老人だった。

かなり強そうだし、これが噂の聖王騎士というやつだろうか?

その老人は歩きながらも言葉を続ける。

「それほど読まれたいなら、この学院に入学されてはいかがかと」

「え?」

「そのような考えで入学される方も非常に多いですよ。ここだけにしかないとされる書物もそれなりにありますから」

「でも僕、貴族じゃないですよ?」

貴族院と名が付いているくらいなのだ。

その点を心配したが。

「貴族の比率が高いというだけで絶対ではありません。名門中の名門ですので相応にお金は掛かりますが……商家やハンター、もしくは傭兵稼業で稼がれている方々の子息子女も入学されていますし、幅広く資格は与えられますので種族も問われません。興味があるようでしたら、あちらの建物でより詳しい話を聞かれてみては?」

そう言いながら、一度さりげなく視線を上から下へと泳がせる。

舐められないとはこういうことか。

このお爺さんが特殊という可能性もあるけど、この丁寧な言葉遣いといい、相応のお金がありそうだと判断しているのだろう。

手で示された方へ目をやると、身なりの良い子供が大人と共に敷地の手前にある豪奢な建物へと向かっていく。

目の前には立派な馬車も数台停まっているし、あそこが説明会場ってことなのかな。

「ありがとうございます。うーん、それなら話だけでも聞いてみますか」

俺の目的はここにある本の知識を丸ごと得ること。

理想は複製まで作りたいわけだが、だからと言ってそれ以外の時間をここで浪費したくはない。

(都合良くいけばいいんだけどな……)

大陸最大の蔵書数という、そう簡単には切り捨てられない場所だからこそ、様々な考えが浮かんでは消え――、

俺は祈るような気持ちで示された建物へと向かった。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

中に入ると一人の女性が付き、俺を一瞥すると、こじんまりした部屋へ案内してくれた。

「『クルシーズ高等貴族院』の入学に関する説明をさせていただきますが、本日ご両親はご不在ですか?」

「いないと無理でしたか?」

「いえ、そういったわけではありません。ただお金の話もありますので……ちなみに現在年齢はおいくつで?」

「14です」

「なるほど、入学には問題ありませんね。ではこのまま説明に入りますので、特に費用面はご両親にも――」

その後は淡々と、そして事務的に説明される内容を、俺は咀嚼しながら呑み込んでいく。

そう、こっちはそれなりに必死だ。

地球によくある学校の仕組みとは異なっており、なまじ余計な知識を抱えているからこそ、無駄な混乱を招くし余計な疑問も湧く。

そして約20分後。

決まった流れのように一通りの説明が終わり、「何も質問が無ければこれで以上となりますが――」と言い始めたところで辛抱たまらず口を開いた。

「いくつか確認を含め、質問しても大丈夫ですか?」

「ええ、もちろんですよ」

「入学金はその都度3000万ビーケ、それと1クール……1期毎に200万ビーケ、年間4期で合計800万ビーケの授業料が発生することは理解しましたが、それ以外に掛かる費用はありますか?」

「学院生の9割以上は敷地内の寮で生活していますので、もし利用されるなら朝夕の食事付きで1期毎に90万~1200万ビーケの寮費が掛かります。料金の差はどの寮を選ばれるか次第ですね。それと望まれる科の制服をお持ちでない新学生は必ず作る必要がありますので、別途400万ビーケほどの費用が発生します」

「せ、制服……それは着用しないと学内の『王立図書院』には入れないんですかね?」

「もちろんです。学院生であることの証明にもなりますから」

「分かりました。騎士、魔導士、官吏の科目選択期日は?」

「12日後が今期入学募集の締め切りとなりますので、それまでに選択科目を教えていただければ。その時に諸々のお支払いや寮のご案内、あとは制服が必要な方は採寸を測らせていただくことになります」

「なるほど、だいたいは入学希望と同時ですね。それで入学したら1期毎に3度ある試験のうち、規定水準に2度到達しなかった場合は即退学。ただ入学金を再度支払えば何度でも入学し直せるということですよね?」

「いえ、何度でもということはありません。学院の入学条件は12歳から15歳まで。なので16歳以上の年齢を申告された方や、明らかに外観からその年齢ではないと判断できる方は入学をお断りしています」

「申告、ですか?」

「学院側では本当の年齢など知りようがありませんし、見た目からでは年齢を推測しにくい亜人の方々も多く存在します。なので偽りだとはっきり分かるような状況でもなければ、こちらとしては申告を基に受け入れざるを得ないのですよ」

……よく言うわ。

そう思って短く溜息を吐く。

戸籍が存在しないのだから言っていることは間違っちゃいないんだろうけど、その状況を利用し、間口を広げて入学金で稼いでいるのは学院側だろうに。

入学に試験のようなモノはなく、話を聞く限りは『学年』という考え方もない。

3か月に1度、年4回入学できるタイミングがあり、そこから計12期で構成される3年間、3回に2回は試験クリアという条件を一度も脱落することなく通過し続ければ、最終 階位(クラス) と共に卒業を証明してくれる。

そしてそのクラスがより高いほどスーパーエリートコースの切符になるようだけど、そもそもどれほどの割合で卒業できているんだろうな……

まぁ俺は卒業なんてどうでもいいので、本題はこっちの方だが。

「ちなみに、3回に2回は試験を通過しておけば、授業は受けなくてもいいんですか?」

「構いませんよ。履修済の得意科目の時は自己鍛錬や自己学習、それに図書院で読書に励まれる方も多いですから」

「それは良かった。あとは――うん、こんなものかな?」

入学時期がバラバラの人達相手にどうやって試験をやってんだろうとか、クラス分けって何を基準にやっているんだとか。

他にもポツポツとした疑問はあるにしても、卒業ではなく本の読破が目的の俺にはあまり関係ないこと。

仕組みが面倒なら短期集中で目的を済ませ、とっとと退学しようと思って結論を下す。

「では入学しますので手続きお願いします。お金はこの場で支払いますので」

「え?」

「ですから、入学します。寮は不要、制服は所持していないのでお願いします。科目は――騎士、でいいかな」

初めから魔導士はないと思っていた。

もう隠す気はないけど、不必要に黒い魔力を見せる理由もない。

しかし、官吏はどうだろうか?

一瞬、選択して真面目に勉強すれば国の運営に役立つんじゃないかとも思ったが、その考えを打ち消すように浮かんだのはハンスさんの言葉だった。

『なんでも自分でやろうとするな。人に任せろ』

その通りだなと思う。

俺にしかできないことがあり、やりたいこともある。

ならば自分で担おうとするのではなく、担える人材を見つけてくればいいのだ。

そう考えると……うん?

もしやこの学院って、人材の宝庫になるのだろうか?

そんな考えが頭をもたげたところで、目の前の女性が口を開いた。

「は、白王金貨……し、承知しました! ではすぐに手続きを取らせていただきますので、ご両親はお近くにいらっしゃるのですか?」

「え?」

「一応規則でして、当学院は希少な書物を多数抱えております。もし破損や焼失などが起きた場合、親元にご相談させていただく事例もありましたので、お国と家名、もしくは商売を営まれていらっしゃるようでしたら、屋号なども入学時には頂戴しておりました」

きっと俺が子供ということで、何かあった時の保証人のような存在を求めているんだと思うけど……

どうしよう。

親だと言って無一文のフィーリルを連れてくるわけにもいかないし、家名なんてモノもない。

俺自身が世界を旅するハンターとでも言っておけばなんとかなりそうなものだが、もしそれで身元不十分とか言われ、入学できなくなると話がややこしくなってしまう。

というか、だ。

好んで他人に名乗ることはなかったけど、用が終われば去る気満々のこの場面で、俺は素性を隠す必要があるのだろうか?

それに先ほど頭を過った人材登用という面でも、短期とは言え俺自身の素性を明かしておいた方が後々の縁に結び付く可能性もあるのでは?

リスクはあるやり方だが、なんせうちには政治に協力すると言っておきながら趣味にひた走ったままの愛の女神様がいるのだ。

いざとなれば変なのが混ざらないよう、判別に協力してもらうくらいは問題ないはず。

――そう考えると、答えは早かった。

「国はアースガルドです」

「アースガルド……? えっ、と、浅博で申し訳ありません。大陸のどの辺りにある国なのでしょう?」

「中央みたいですね。ラグリース王国の南、パルメラ大森林の内部に新しく興した国なので、知らなくても当然だと思います。あ、名はロキで、家名はありません」

「………ロ、キ……? あの、異世界人の?」

「あ、はい」

「ほ、本物、ですか?」

「はい」

受付のお姉さんでも知ってるもんなんだな。

そしてこんな時にあまり疑われないとは、さすがイメチェン、舐められない服である。

あとは入学時期までガルムのマッピングを進めておき、極力日中は図書館に入り浸れる時間を作っておけば問題ないだろう。

2回目の試験がある2か月後。

それまでに蔵書数次第だが、図書館の用事を済ませることが当面の目標か。

「ふ、不合格……」

「……?」

そう思っていたが。

「不合格です!」

「なんでやねん」

なぜか。

試験がないこの学院で、俺は不合格を突きつけられていた。