軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

463話 マリーの思惑

レサ奴隷商館の5階。

そこには正座したまま項垂れる16人の男女が。

(やっとしおらしくなってきたな……)

そう思いながら正面に座り、溜息を吐く。

「で、イェル支局長はその立場を利用して、返済が滞った商会や個人商店の情報を丸ごとこちらに流していたわけですか。焦げ付きやすいよう、わざわざ貸付額の調整までして」

「そ、その通りだ……」

「これ、ロズベリア支店の人達は知ってるんですか? それに王都グラジールで、フレイビル国内の商業ギルドを統括管理されているような方も」

知っているなら、より範囲が広がる可能性もある。

そう思っていたが、力なくイェルは首を左右に振った。

終始黙っているフェリンに視線だけを飛ばすと、僅かな首肯。

拷問されるくらいなら自ら命を絶つなんて威勢の良いことを言っていたが、偽ったら頭をぶっ飛ばすという脅しは実によく効いているらしい。

「サザラー商会長、組織内でのあなたの役割は?」

「イェルと似たようなもの……私は個人相手に、奴隷としての価値に収まる範囲内でお金を貸していた」

「なるほど。ここでも滞納者を捕まえて、意図的に奴隷を量産していたわけですか……他国にも支店があるということは、他所でもやってますよね?」

この問いに、サザラーは黙って頷く。

二人がやっていたのは、個人から商会などの団体まで、広い範囲の対象を相手にした金貸し業。

金儲けをしながら借金奴隷が量産できる体制を作り、組織の枠に組み込んでいたわけだ。

まぁ話を聞く限り、実際そういう仕組みを作った――というより、できそうな立場の人間を見つけて幹部に据えたのがマリーなんだろうけど。

「どちらもマリーからの誘いを受けて組織に入ったのが約8年前……その当時からもう、頭のシャイニー・レサは行方が分からなかったわけですよね?」

「そうよ。いつかは分からないけど、気付けば顔を見なくなっていた」

「わしはアトスターク侯爵にマリーを紹介され、レサ奴隷商館を裏側から支えてもらうので協力してほしいと、そう頼まれた時にシャイニー・レサの行方が分からなくなっている事実を初めて知った」

「もしかしたら、当時から商館の番人だったクロイスは何か知ってるかもしれないけど……入る前のことなんて、レサが一人で切り盛りしていたことくらいしか分からないわ」

ここまで聞いて、視線を手元の木板に移す。

オムリさんから受け取っている情報――、その中にも不確かながら繋がりの高そうな人物として、この地の領主であるアトスターク侯爵の名が記されていた。

マリーを紹介するくらいとなれば、まず間違いなく『黒』。

いよいよもって、話が大きくなってきたな……

「大きく奴隷商館の中身が変わり、やり方が苛烈になったのもこの辺りからですか」

「そうね……」

「マリーと領主からは質もそうだが、兎にも角にも数を求められた。今まで通りにやっていたのでは、間違いなく満たせないほどの数を」

「その割にはこの中が奴隷で飽和しきっているという感じはしませんけど、強引に集められた奴隷はどこに行っているんです?」

この時、予想していた答えは2つ。

しかし、実際は予想の斜め上をいく回答が返ってくる。

「一部の優秀な人材だけマリーが別に動かしていたようだが、正規に開かれた『表鉱山』と、国にも報告されていない『裏鉱山』が行先の大半。あとは病人や部位欠損の酷い連中、それに非力な子供なんかは、あそこで実験の材料――ッ、に使われ、ておる……」

そう言ってイェルは、目に見えて震えながらフロアの奥に存在する重厚な壁を見つめた。

犯人は俺が1割、フェリンが9割だろう。

感情の一切が消え去ったような顔をしているけど、一瞬で空気が張り詰めたので、相当怒っていることは間違いない。

「……順番に行きましょう。『裏鉱山』とはなんですか?」

「その名の通りだ……公にされていない隠し鉱山で、エイブラウム山脈の奥地にいくつかある。道中の道のりは険しく、運搬時の事故や内部崩落含め、採掘量を最優先にしているため人がよく死ぬ」

「アトスターク侯爵の独断でやっているということですか」

「そうだ」

「目的は?」

「マリーが裏で産出された鉱物を全て買い取っているのだから、まず間違いなくソレが理由だろう。フレイビルは鉱物資源国としての優位性を保つため、一国のみに過度の融通を利かせるようなことは国として認めなかった。それでは足らなかったということだ」

「つまり、ここの領主は完全にマリーの手に落ちているということですね。見返りは……唸るほどの金銭と、フレイビルがアルバート王国に呑み込まれた時の地位保障ってところですか。お二人にも同じことは言えると思いますけど」

「うぐっ……それは否定せぬが……あの男――侯爵の場合はそれだけで済まぬ」

「?」

「様々な種族の女よ。何を基準にしているかまでは分からないけど、たまにあるマリーからの"褒美"として与えられるから、その手配も私達がやっている……」

ふぅ――……

もうここまで聞き出せれば、マリーの狙いもだいぶ見えてきたか。

てっきりバルニールの件があって、そこから方々に被害が拡大しているのかと思っていたけど、これは違う。

バルニールはあくまで求めていたモノの一つ。

ロズベリアが手に入ればフレイビルを手に入れたも同然だろうし、狙いは初めからこの街であっただろうことが分かる。

大陸有数の鉱物資源国であり、鍛冶産業の盛んな国に目を付けたマリーは、ロズベリアを我が物にしたいと思ってまずこの地の領主を落とした。

そして鉱物を大量に、かつ安定的に手に入れるため、レサ奴隷商館を掌握し、仕組みを大きく変えて金儲けをしながら奴隷人員を増加させ、『裏鉱山』を稼働。

鉱物類の入手に十分な目途が立ち始め、そこから奴隷商館の人材と仕組みを利用しつつ鍛冶師の囲い込みに動いた……

だからマリーがこの地で動き始めた8年近く前からバルニールが生まれる5年ほど前まで、多少のタイムラグが存在しているのだろう。

狙いは戦争資源――、西側の大きな争いに拍車を掛けるよう、転送で物資を供給しているというのも、金儲けの道筋としては納得できる。

まさに死の商人であり、ついでに優秀な人材は自ら抱えているということは、自国の強化も並行して行っているわけか。

あぁ……今更だな。

ウザったいくらいに頭が切れると感じたのは今回だけじゃない。

そういう相手だと理解して、叩き潰す。

それだけだが、しかし『人体実験』はどう繋がる?

マリーらしくないような気もするが……

「ミクロという変人を幹部に据えたのもマリーなんですよね?」

「そうよ」

「それは、なぜ?」

「幅広く治療し、奴隷を長く活用できればそれだけ利益を生むから」

「想像以上に真っ当な考えですけど」

「しょうがないじゃない……気持ち悪くて近寄りたくないし、中で何をやっているか知らないんだもの」

「マリーに効力の強い鎮痛剤や興奮剤の商業登録を頼まれたことはあったが……ここ最近は頻繁にキツい匂いを放つ木箱と子供が運ばれておるくらいしかわしも知らん」

「薬の実験ですか……」

人で試し、効果が十分に見込めればイェルを使って商品化を進めていたとなると、この辺りの薬物も西に流れている可能性が――……

反応は、依然として無い。

しかし、ふわっと。

不意に香った、血の臭い。

これは……来たな。

知らされていた情報から、念のためにいくつかの対策を取っておいて良かった。

普段当たり前のように活用している探査や感知系が 何(・) も(・) 通(・) じ(・) な(・) い(・) こ(・) と(・) には驚いたが、なるほど。

これが【隠蔽】レベル10を相手にする感覚か。

さて……

背後に振り返った時――、

「速いね」

俺に1本、フェリンに向けても1本。

黒い影から既に2本の短剣がこちらに向けて投げられていた。