軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

464話 教訓

投げられた短剣の奥からは、かなりの速度でこちらに走り寄る、ローブを纏った黒ずくめの男。

その姿は背後の者達にも見えたのだろう。

「クロイスやれぇえええええ!!」

イェルの叫び。

続いて、

「捕まえなさい!」

サザラーの命令に応じて、大人しくしていた14人の男達が一斉に俺へ群がってくる。

この行動に驚きはしないが……

なるほど、フェリンまで容赦なく殺そうとするんだな。

カンッ、カンッ――。

張っていた防壁結界に防がれ、空中で不自然に弾かれる2本の短剣。

『風』

「ひぎっ」

「うごッ……」

そして俺の手足を死に物狂いで掴んでいた男達を乱刃で一掃すると、僅かに目を見開いた黒ずくめの男が足の動きを止める。

代わりに、袖口の広い左右の手から伸びてきたのは、細い鎖。

先端にはナイフが付いているようで、ヒュンヒュンと凄まじい風切り音を奏でながら2本の鎖を器用に振り回すと、瞬く間に俺の結界は破壊された。

「よく、こちらに気付けましたね」

「あなたが有名な『暗殺者』だと聞いていたので警戒していたんです。それにずーっと僕の背後をチラチラと、まるで誰かの助けを予見しているかのように、皆さん階段の方に視線を向けていましたので」

「「「……」」」

まぁ、それだけじゃないけどな。

【隠蔽】で阻害されることを想定して【嗅覚上昇】を常時使っていたし、足元で細切れになった男の一人には【視覚共有】を使って階段の方が見えるようにしていた。

俺が最も警戒すべきはこの手のタイプの男。

俺に刃を通せる可能性のある相手なら、決してやり過ぎということはない。

「フェリン、あの男から離れといて」

「うん」

ヒュッヒュッ――……

袈裟斬りのように、上空から降ってくる2本の鎖を横に飛んで躱す。

すると、叩きつけられた石の床には大きな亀裂が。

威力もなかなかのモノ。

でも、狙いはそれじゃないだろう。

俺を追いかけるように、真横へ振られた鎖。

咄嗟に躱しながらその先端を凝視すると、樹液のような赤黒い何かが付着していることが分かる。

先ほど結界で弾いた短剣も同じ、狙いは状態異常――まぁ、十中八九は毒か麻痺だろうな。

安易に鎖を掴み取ろうとしたら、もしくは鎖に絡め取られたら、巻き付いた先端の刃が身体を傷付け、そして最悪はかつてのように情けなく這いつくばるのだ。

まだまだ考えが甘かった頃の嫌な思い出……

だけど、その経験が強い警戒心へと繋がり、俺の糧になっていると自覚する。

――【多重発動】――

『"黒鎖"』『"黒鎖"』――『発動』

「ッ!?」

こうも危なっかしいモノを振り回されると、中に入っていくのが面倒なのだ。

目には目を、鎖には鎖を。

絡め取るために強く振り回すと、男は俺の黒鎖に鎖を当てて阻害しようと試みるも――、

「残念」

こっちはあくまで【闇魔法】だ。

俺の意識の下、クロイスの放った鎖を通り抜けるように黒鎖は通過し、身体に接地する前には物質へと変える。

「ぐおっ!?」

すると振り回していた左手も一緒に男を捕縛できたので、そのままこちらに手繰り寄せた。

右手一本でこの距離なら、もう鎖などまともに機能しないだろう。

――と、思っていたが。

「……ふふっ、死ね」

要注意人物というだけあってやはり強いな。

右手にはいつの間にか鎖ではなく、脇差のような50cm程度の短剣が握られていた。

そして男は黒鎖に巻かれてこちらに飛来しながらも、急に空中で弾けたように加速し、俺の頭部を叩き割らんと斬りかかる。

だから俺は空いた左手で咄嗟にガードした。

「なっ!?」

響き渡る、金属音。

本来ならば腕が切り落とされているところか?

鳴るはずのない音に、クロイスは驚愕しているが。

「暗器を扱うのって、あなただけじゃないんですよね」

「ゴホッ……」

すぐに黒鎖を解除した右手を胸に差し込み、心臓を強引に毟り取った。

さらに足からも何かを生やそうとしていたし、こういう危ないヤツはとっとと始末するに限る。

『【暗殺術】Lv8を取得しました』

『【空脚】Lv5を取得しました』

『【暗器術】Lv7を取得しました』

『【奴隷術】Lv8を取得しました』

「はい、お疲れ様でした」

呟きながらクロイスの持っていた面白そうな武器を【鑑定】していると、背後からフェリンの動揺を滲ませた声がした。

「ねぇロキ君、この人からも聞きたいことあったんじゃないの?」

「あ」

たしかにー!

シャイニー・レサがどうなっているのか一応聞こうと思っていたのに、結構強くて思わず殺っちまったじゃねーか!

「だってさ、強かったっていうか、危なかったんだよねこの人。ほら、見て! ここも、ここにも毒が!」

「ふーん。シャイニー・レサって人はこの人が殺しちゃってることは分かったけど……」

「あ、やっぱり?」

ここは一番現実的にあり得そうな予想が当たったか。

クロイスという男もマリーの手に落ち、大きな改革の手助けをしていた。

そういうことなんだろうけど、なんでここまで強くなった人が落ちちゃうかなぁ。

金のないヤツが目の前に大金をぶら下げられて落ちるっていうのは分かるし、目の前の武力に屈して落ちるというのもまぁ分かる。

でもこの強さなら稼ぎようはいくらでもあるだろうし、マリーの乗っ取り案が気に食わないなら、逆に殺しにかかっても不思議ではない。

にも拘わらず落ちているということは、やはりマリーがこの男よりも断然強いってことなんだろうか?

うーん……

「ク、クロイスまで、こうも、あっさり……」

「どの道、乗り込まれた時点でダメだったってことよ……」

この場に残されたのは、死を覚悟して項垂れるイェルとサザラーの二人だけ。

「最後に一つ質問です」

「「……」」

「どうしてあなた方は、わざわざ奴隷になってまでマリーの下につくのですか? たぶん、今だって望んではいないでしょう?」

先ほどはそんな表情をしていたのだ。

もう既に、潤沢過ぎるほどの金を手に入れたから、ということかもしれないが……

「ふふ、望んでなどいないわ。でもこちらの持ち得る力が何も通用しない相手には従うしかないでしょう? それにあの女は金を生み出すための駒として働き続けるなら殺さない。どんな悪人だろうと利用し、富も与えてくれる」

「……おぬしは、どのような結果にせよ、わしらを殺す気でいただろう。そういう目をしとった」

「そうですね。よほどの事情でもなければ結末は同じ、あとは殺し方が違うだけです。バルニール設立に反対した人達への追い込み――、その中でも鉱物の流通制限を加えていた筆頭なんて、立場的にもあなた達お二人だと分かっていましたので」

「ふん、血迷っておぬしに鞍替えしようなどと思わなくて良かったわ」

「そうね。最後に死んでも死に切れないほどの悔いが残るところだった」

「お~良いですね。じゃあどうせなら最後に全部吐いちゃいましょうか」

「「え?」」

「あなた達の抱える資産ですよ。残したって悔いが残るだけですし、ぜーんぶ綺麗に吐いちゃいましょうね?」