軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

462話 想定を遥かに超えて

さて、どうするか。

目の前のエロい恰好をした30代くらいの女と局長の爺さんは、スキル構成からしても武闘派とは対極にいるようなタイプ。

後ろにいる連中も【奴隷術】のレベルが揃ってそれなりに高いというくらいで、特別武芸に秀でているわけではない。

いちいちテーブルに着かなくても、強引に解決してしまえばそれで仕舞いだと思うが……

「ちなみに、力での強引な解決はあなたの目的から遠ざかるでしょうから、決してお薦めしないわ」

「……こちらの目的は理解されているので?」

「わしらを含む幹部連中に用があるということは、末端じゃ知りえん情報が欲しいのだろう?」

そう言いながら、白い髭を扱く爺さん――イェル支局長はこちらを観察するように目を細めながら言葉を続ける。

「初めに言っておくか。奥にいるミクロは一応幹部扱いになってはいるが、ちと特殊でな。おぬしの求めそうな情報は一切持っておらん。わしらを潰しても保険が利くとは思わん方がいいぞ」

「諸々の回復技術に長けた医者ですよね?」

「狂ってるけどね。アレは人の身体にしか興味がないもの」

嘘ではない、かな。

オムリさんの情報にも奇人の類と、そう書かれていた。

「それともう一つ、わしらには既に【奴隷術】が掛けられている。上書きができない以上、強制的な奴隷化で強引に口を割らせることは不可能だ」

「かと言って拷問を受けるくらいなら、情報を呑み込んだまま迷わず命を絶つけど」

「……つまり、"組織について語るな"と、そのような奴隷契約は結ばれていないわけですか」

「その通り、わしらに何よりも求められているのは、情報の秘匿などではないのでな」

言外に暴れても欲しい情報は得られないという脅し。

二人の妙に落ち着いたこの雰囲気は、決して空気の読めない貴族連中とは違い、飄々と語られるからこそ真実味も増す。

最後の言葉の後、二人の表情に影が差したのは気になるが……

なぜこの状況下でも堂々としているのか、その理由がはっきり分かったのだから良しとするか。

情報の抜き方など様々あるが、フェリンの頭の中を覗くやり方も万能じゃないんだ。

俺達が何に気付いておらず、何を知るべきなのか。

まずは立場を理解させた後にでも、この二人から情報を抜いていくとしよう。

▽ ▼ ▽ ▼ ▽

襲撃者は殺しを躊躇うお人好しの玉無し野郎という話は、どうやら本当だったらしい。

ロキがゆっくりとテーブルに着く姿を眺めながら、イェル・サーレンは顎髭を扱き、頬の緩みをソッと隠す。

何者かは知らぬが、敵は少なくとも数名の500人長――フレイビルのランカー傭兵を蹴散らしてここまで上がってきているのだ。

レサ一家の殲滅を目的とし、取り付く島もなく殺しにかかられては、こちらに抵抗する術など何もなかった。

が、予想通りすぐに襲ってこないとなれば目的は明白、これで命は繋げた……

サザラーにもまだ手は残されているし、クロイスさえ戻ればこの状況は一変する。

それまでに情報を引き出しながら、なんとしてでも時間を稼ぐしかない。

「念のため確認しておこう。まず、おぬしが何者なのか――、え?」

「ぎゃっ!?」

そう思ってイェルは口を開いたわけだが、その言葉は驚愕と共に途中で止まった。

なぜか、目の前にあった巨大な特注の机が、瞬時に消えたからだ。

横で頬杖を突いていたサザラーが支えを失い、尻を丸出しで前のめりに伏しているが、そんなことを気にしている場合ではない。

いったい、何が――。

「凄く勘違いしていそうなので、こちらも先に忠告しておきます」

「「……」」

その表情は酷く冷淡で、無感情な瞳はまるで塵埃を眺めているようだった。

「僕は対等に交渉しようと席に着いたわけではありません。こちらの確認したいことを確認したいだけ、なのでこれ以上【魅了】を飛ばしてきたり、回答に誤魔化しがあると判断したらすぐ頭をぶっ飛ばしますから、そのつもりで。お二人とも死んだらもう一人のクロイスとかいう幹部に聞くか、どうせ裏で暗躍していそうなマリーにいずれ吐かせればいいわけですしね」

「へ、ぁ……?」

あまりの情報量に、二人は言葉を失う。

――玉無し野郎の雰囲気は欠片もなく。

――サザラーの【魅了】が効いている様子もなく。

――あのクロイスを当たり前のように手玉に取るつもりであり。

――なぜか、マリーに吐かせる……、え? マリーを、倒すつもりでいる……?

目の前で、机は幻の如く消えた……

消えたまま、どこを見渡しても存在していない。

そんな芸当ができるとしたら、アレしか考えられなかった。

そして、イェルはその立場から、フレイビルで今何が起きているのかも耳にしている。

小賢しい狸のオムリが主導し、大陸中央の転送などという……あのマリーと同じことをやり始めるなどと宣い、実際に1度成功させたことが大きな話題になっていた。

その協力者は、異世界人ロキ――、新国『アースガルド』の王だったはずだ。

つまり、異世界人ロキとオムリは協力関係にあるということ。

そして今回のタレコミは、そのオムリに情報を売ったという百人長に係わる話……

あまりにもタイミングが良過ぎることで、イェルは身体中から冷や汗が止まらなくなる。

オムリが……あの狸が協力者に、レサ一家の殲滅を依頼していたら。

あのクソ狸がどこかしらから情報を掴み、我らを纏めて粛清しようとしているのだとしたら……?

動機は十分過ぎるほどにある。

武芸に疎い分、権謀術策の世界に長く身を置いていたからこそ、机の消失という事実から急速に点と点が繋がり始めたことで、イェルは目の前の男が何者なのかを理解した。

「ま、まさか……おぬしは、異世界人、ロキ王、か……?」

「ッッ!?」

サザラーが物凄い顔でイェルに振り返り、すぐ目の前の男へ視線を向けるも、もう今更だろう。

「そうですけど?」

「んなっ……」

想定を遥かに超える大物。

この瞬間、イェルもサザラーも、極度に蒼白したまま固まった。

片や50万の兵と傭兵連中を丸ごと相手取って一国を潰した男と、大陸の広域に根を生やし、裏で各所を牛耳る強欲女。

果たして ど(・) ち(・) ら(・) に(・) つくべきか。

生きてここから抜け出すために、かつてないほど二人は脳をフル回転させていた。